りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ひそやかな花園

ひそやかな花園

ひそやかな花園

★★★★★

幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人。
輝く夏の思い出は誰にとっても大切な記憶だった。
しかし、いつしか彼らは疑問を抱くようになる。
「あの集まりはいったい何だったのか?」
別々の人生を歩んでいた彼らに、突如突きつけられた衝撃の事実。
大人たちの〈秘密〉を知った彼らは、自分という森を彷徨い始める――。

親と子、夫婦、家族でいることの意味を根源から問いかける、
角田光代の新たな代表作誕生。

角田さんの小説って、かなりヘヴィなテーマを扱っているものが多いから「面白かった」と言っていいのかいつも悩むのだが、これは面白かった。今まで読んだ角田作品の中で一番好き、かもしれない。

子ども時代に経験した「あれ」は結局なんだったんだろう?と思うことってないだろうか。
知らない大人に知らない子どもがどこかの田舎の家に集まっていて、大人同士妙に打ち解けていて、ふだん不機嫌な母親が妙に機嫌が良くてテンションが高くて、うれしいんだけど、少し不穏で。
でも自分も名前も思い出せないような子たちとなぜか結構楽しくやっていて、それは会うのがそのときが初めてだったのか、あるいは何回目だったのか、よく覚えていないけれど、子どもだけで川に行ったり森を探索したりしたことは妙に鮮やかに覚えていて。

そしてそれは何故かいきなり終わってしまった。何の説明もなく。
自分が何かしてしまったのか?あるいはそのこと自体がもしかして自分の空想だったのか?
親に聞けば答えてくれるのかもしれないが、なぜか聞いてはいけないような気がして聞けずにいて。

この小説でも幼い頃サマーキャンプに参加した子どもたちがそれぞれ大人になり、それぞれの記憶をたどる。
あの日々こそが自分にとって唯一の真実だったと思うものもいれば、楽しかったけど唐突に終わってしまって腑に落ちなかったものもいれば、あれは夢だったのだろうかと思うものもいる。
あの集まりがなんだったかを親に教えてもらった人もいれば、ひた隠しにされていた人もいる。
しかしあの夏の日に吸い寄せられるように彼らはお互いを探し、そして見つける。 それぞれの理由から。
そしてあの集まりの理由が明らかになるのだ…。

どういう理由で集まっていた人たちだったのかということが途中で明らかになるのだが、謎が徐々に明らかになっていくところがまるでミステリーのようでドキドキした。
そして明らかになったら明らかになったで、これは決してミステリーではなく、非常にビミョーな問題を描いた小説であることがわかるのだ。
うあーー、角田さんってほんとに巧い小説家だなぁ!

以下、ネタバレ。









産むことと育てることについて深く考えさせられた。
自然な形にせよ、そうでないにせよ、自分が幸せだから幸せを与えてやれると思って子どもを産むのではなく、とにかく「ほしい」と思って産む人が多いんじゃないかと思う。樹里の母のように。
生まれてくる理由としたらそれで十分じゃないか。
自分が今経験していることがすべて。それ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ前を向いて、自分が守りたいほんの小さなものや人だけを守って、生きていけばいいのだ、と思う。
辛い話だったけど、希望を感じさせるラストがよかった。