人もいない春
- 作者: 西村賢太
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/30
- メディア: 単行本
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私小説が苦手だし、暴力男も嫌いだから、多分好きになれないんだろうなと思いながら読んだんだけど、案外嫌いじゃなかった。
主人公貫太は日雇いで稼いだお金を酒と風俗につぎこみ、一緒に仕事をする男たちのことを見下し、人一倍性欲が強く、そのくせ「純愛がしたい」などと嘯く。
職場で大学生のアルバイトと飲みに行くのが楽しみ、などとあれば、少しはかわいげがあるようにも見えるが、すぐにいい気になってえばり散らし、相手にされなくなればいじけて職場を逃げ出す。
奇跡的に気立てのいいフツウの女性と同棲を始めるが、彼女の幼女時代の写真を見て抱く気が失せたり、作った料理に文句を言ったり、激情にかられると暴言、暴力をぶつけたり。
もうほんとに最低男なのだ。
姑息なところやずるいところも赤裸々に描かれているため、愛すべきダメ男というよりは、憎きダメ男なのだ。(特に女性から見れば)
でも読んでいて不快な感じが全然しない。
むしろカラっとおかしい。気持ちいい。
じくじくじくじく内面を掘り下げる私小説は苦手なのだが、この作品は客観的な視線で自身を見つめているところがいい。
そしてとにかく文章がいい。
無駄がなく簡潔でとてもきれいな文章で、汚いとしかいいようのない男の人生を描いているところが、この人の魅力なのかな。
なんかもしかして将来この人は「文豪」と呼ばれるようになるのでは?そんな感じすらする。
続けて読むとおなかいっぱいになりそうだけど(女の敵であることにはかわりはないし)、時々読もうと思う。