りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ツリーハウス

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★★★★★

謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。

難しいことはわからないけど、私のもやもや脳でもやもやと読んでいても、これがすごい傑作だということはわかる。

自分の家族が地に足がついてない感じがしている良嗣。そんなことを言っている良嗣自身も、これといった思いや考えもないままに就職をして「なんか違う」と思って会社をやめそのまま家に居ついている。
そんな良嗣が、祖父が死んで以来様子がおかしくなった祖母の「帰りたい」という言葉がひきがねとなって、自分の家族のルーツをさぐろうと祖母と引きこもりの叔父をつれて中国を巡る。
物語は中国を旅する良嗣のパートと、祖父母が満州で出会いどうやって日本に帰って来たか、その子どもたち(良嗣の父や叔父叔母)の人生と、交互に語られる。

祖父母にしても、その息子たちにしても、ものすごく共感できたり感情移入できるような人たちではない。
彼らの感情も少し離れたところから「鈍い感じ」で描かれているから、余計にそうだ。
それでも小説に描かれていない感情が自分の中にぼわっと湧き上がってくるのはなぜなんだろう。
本人たちはあまりにもその状況が過酷すぎて、それでいてそれが「日常」すぎて、感情が死んだようになってしまっている。そのことがものすごくリアルに思える。きっと自分も祖父母と同じ時代を生きたら、こんな風だったかもしれないとさえ思う。

この物語の吸引力がとにかく凄い。
気付けば自分が電車に乗って満州を目指しているような、何がなんだからわからないまま頭では何一つ理解できないまま「ここはいやだ」と身一つで逃げ出したような、世話になった中国人の夫婦に頭をついて謝ったのは自分であったかのような…そんな錯覚を覚える。

そしてすごく個人的な出来事を淡々と綴っているのに、家族だけじゃなく、時代とか国民性とか人間とは…とか、そういう大きなところも、すごい説得力で描かれている。
この感じが凄い。(ああ、うまく言えない!)
いいものを読んだ。物語が好きな人にはぜひ、とおすすめしたい1冊だ。