りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

悲しみを聴く石

悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)

悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)

★★★★

女は、もはや意識もなくただ横たわるだけの夫に、初めて愛おしさを覚える。そして、自分の哀しみ、疼き、悦びを語って聞かせる。男は、ただ黙ってそれを聞き、時に、何も見ていないその目が、妻の裏切りを目撃する。密室で繰り広げられる、ある夫婦の愛憎劇。アフガン亡命作家による“ゴンクール賞”受賞作。

植物状態になった夫に語りかける妻。
義父への敬愛、義母たちに対する恨み、自分がおかしてきた過ち、自分が抱いた欲望…。物言わぬ夫に苛立ちながらも、いつしかそんな夫に自分の秘密を打ち明けることで、妻はそれまでの抑圧され続けてきた自分の人生を解放していく。
人には言えない苦しみや悲しみを打ち明けると最後は砕け散る悲しみの石ように、全ての話が終わった時砕け散ってしまうのは妻なのか夫なのか…。

登場人物は物言わぬ夫と妻。妻は時に静かに時に激しく夫に話しかける。
まるで舞台を見ているような静けさと緊迫感。妻の言葉はシンプルで激しくて胸に突き刺さってくる。
イスラムで生きることはこんなにも過酷なことなのかと驚きながら そこに生きる女の強さとしたたかさにも驚く。

自分の生きている世界が正しいと思っているわけではないけれど でも自分のやることを自分で決められる自分たちは幸せなのだとつくづく思った。