りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

掏摸

掏摸(スリ)

掏摸(スリ)

★★★★

お前は、運命を信じるか?東京を仕事場にする天才スリ師。彼のターゲットはわかりやすい裕福者たち。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて一度だけ、仕事を共にしたことのある、闇社会に生きる男。木崎はある仕事を依頼してきた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。もし逃げれば…最近、お前が親しくしている子供を殺す」その瞬間、木崎は彼にとって、絶対的な運命の支配者となった。悪の快感に溺れた芥川賞作家が、圧倒的な緊迫感とディティールで描く、著者最高傑作にして驚愕の話題作。

主人公はスリ。裕福そうな人間をねらい財布を盗み取る。
人のものを盗むことに何のためらいも見せない彼だが、母親に盗みを強要されている子どもを見殺しにすることができず助けてしまうような優しさもある。
ある日彼は闇社会を生きる男木崎と再会する。木崎は彼に仕事を依頼するが、失敗すれば彼と彼を慕っている子どもを殺すと言う。

木崎との再会のシーンや、子どもにスリ(イコール、一人で生き延びるための術)を教えるシーンなどは、まるでハードボイルドを読んでいるよう。
エンタメ小説?と思って読んでいると、最後に痛い目にあう。

他人の人生を操ることが最上の快楽だと語る木崎は圧倒的な悪として存在する。
そんな木崎と対峙する主人公はあまりに無力だ。
特に失いたくないものがあるということが弱みになってしまうところに、理不尽さを感じる。
しかし、死ぬために生きているような主人公が最後に見せる生への執着が、この圧倒的な絶望に満ちた物語に光を与えてくれているとも感じた。