りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

森に眠る魚

森に眠る魚

森に眠る魚

★★★★★

東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。―あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎあい、壊れた日々の亀裂へと追いつめられてゆく。

この小説を読んで身につまされない母親はいないんじゃないだろうか。
ママ友やお受験とはほぼ無縁な私でも、この光景、この感情には覚えがある。
この状態が続くと、この感情を突き詰めていくと、どんどん狂気に近づいていくことがわかるから。だからそうならないように、そうじゃない方向を必死に向いて走ってきたのだ。

ものすごくリアルでものすごく恐い小説だ。
でもちゃんとわかっていてちゃんと描いてくれている。
渦中にいるお母さんたちは多分読めないと思う。ひりひりと痛すぎて。
でもちょっとだけ立ち止まれるような状態になったら、これを読んだらいいと思う。助けにはならないけど、ああ、そうだったんだって、そういうことだったのかって、自分のことを客観視できるようになると思う。

子どものため、という言葉の呪縛。自分のコンプレックスや自信のなさや見栄や嫉妬心や恨み。上手にガス抜きしていかないと、その気持ちは簡単に狂気に変わる。愛が憎に変わる。
こんな小説を書くなんて。もう見事としか言いようがない。