おやすみ、こわい夢を見ないように
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 文庫
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「あたしこれから殺人計画をたてる」。我慢をかさね、やっと受かった高校で待っていたのは、元カレ剛太の「抹殺」宣言と執拗な嫌がらせ。すべての友に去られた沙織は、不登校の弟をコーチに復讐の肉体改造を決意するが…。理不尽に壊された心のゆくえを鮮烈に描く表題作をはじめ、ひそかに芽ばえ、打ち消すほどに深く根を張る薄暗い感情のなかに、私たちの「いま」を刻む7つの風景。
7つの短編の底に流れているのは悪意。
自分が抱く悪意もあれば、人から抱かれる悪意もある。その悪意を突き進めてしまった人と、慌てて手放した人と、ゆっくり捨て去った人と。
ものすごくリアルで痛いくらいだ。
悪意を抱かれていると感じて背筋が寒くなったこともあるし、自分が悪意にとりつかれて「ああしてやろう」「こうしてやろう」と考え続けてしまったこともある。
私に関して言えば、抱かれた悪意も自分が抱いた悪意も私はぽいっと捨てることにした。悪意を追求することに疲れてしまったのだ。
それより、自分が好きなことを考えよう。好きな人のことだけ考えよう。そう決めたのだ。それはもしかすると卑怯なことなのかもしれないけれど、悪意を深追いしないほうがいいという自分の本能に従うことにしたのだ。
そんな私には、表題作の「おやすみ、こわい夢を見ないように」はとても共感できた。
主人公沙織は元カレからものすごい嫌がらせを受けている。淫乱だと陰口を叩かれ、恥ずかしい写真をさらされ、周りから白い目で見られる。
こんな仕打ちは許せない!と沙織は引きこもりの弟とともに、元カレの襲撃計画を立てる。身体を鍛えてヤツをめっためたに叩きのめしてやるのだ!
引きこもりで元気のなかった弟が襲撃計画を立てるうちに俄然元気になってきて、沙織も学校で酷い目にあうたびに「あいつぶっ殺してやる」と心の中で憎悪を燃やし、その鬱憤を晴らすかのようにトレーニングを続ける。
そして襲撃のチャンスがやってきた時に沙織がとった行動は…。
自分のように心の中で憎悪をころがすような人は人を殺せない。自分はカレの息の根を止めることはできない。
そう気付いて弟に電話をかける沙織が他人とは思えない。
弱っちい自分がふがいなく思えるけど、弱っちいことは決して悪いことではないのだ。中途半端って時に大切だと思うのだ。
後味の悪い作品もあったけど、不快には感じなかった。私、好きだ。角田光代。