りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

マグヌス

マグヌス

マグヌス

★★★★

マグヌスは、ぬいぐるみのクマの名前。五歳で記憶喪失におちいった男の子は、このクマを肌身離さず持っていた。
ドイツの敗戦、ナチスの父は逃亡、母も窮死。しかし、大人の都合で何度か名前を変えさせられた男の子の過去は、嘘とつくり話で塗り固められたものだった。そこから彼の長い旅がはじまる。
舞台はドイツからイギリス、さらにメキシコ、アメリカへ。驚異的な記憶力をもち、数ヶ国語をあやつる彼だが、自分はいったい誰で、どこからきたのかもわからず、本当の名前を知らない。
若い読者が本気で選んだ“高校生ゴンクール賞”(2005年)受賞作。

かわいい表紙からは予想がつかないほど重い物語。
ナチスの収容所で何人ものユダヤ人を殺していた父とそんな夫を妄信する母に育てられたフランツ。ナチが敗退し、それまでの優雅な生活は一転し、逃亡生活に入る。真実は全て隠されたまま何も知らされず育ったフランツ。
ナチ党に入った時に絶縁した母の兄ロタールにフランツを預けられ、名前も変えさせられる。

5歳の時に高熱を出してそれ以前の記憶を失ったフランツ。実は自分の過去は大人の嘘に固められたものだったということを知る。
自分はいったい何者なのかさえわからない彼が、誰かに愛されたり誰かを愛することができるのか。
物語はフランツの人生を「断片」として語られていく。

フランツは大人の都合で次々に名前を変え、そのたびに過去を失う。人生とは再生と喪失を繰り返していくものなのかもしれないけれど、フランツの人生はあまりに過酷でつらい。
それでも人間は生きていき、誰かを愛していき、いつかはそんな過去とも仲直りができるのだろうか。

冷静な語り口でなかったら、つらくて読み進められなかったかもしれない。それでも希望を感じさせるラストがせめてもの救いだったなぁ…。