りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

エンジェル

エンジェル

エンジェル

★★★★★

本国ではしばしばジェイン・オースティンと並び称される作家、エリザベス・テイラー。その本邦初紹介となる本作は、二つの大戦をまたぐ激動期のイギリスを舞台に、ある女流作家の栄光と転落を描いた傑作長篇である。
田舎町ノーリイの食料品屋の一人娘エンジェルは、退屈な毎日をやり過ごすために、「パラダイス・ハウス」という屋敷の物語を拵えている。そこは、叔母のロティが侍女として仕えている屋敷で、「エンジェル」という名前も、令嬢アンジェリカにあやかったものだった。
エンジェルは、想像力と自負を頼りに処女作を書き上げ、若くしてベストセラー作家として成功する。憧れのパラダイス・ハウスを買い取り、思い描いた人生を手にしたかに思えたが、運命の落とし穴は思わぬところにひそんでいた......。
主人公の虚栄心と自己愛、そこに隠された悲哀と孤独が、機知とユーモアたっぷりに描かれる。訳者の小谷野氏が惚れ込んだ一作。鬼才オゾン監督による映画化原作。

あらすじだけを見ると、ヒューマンな心温まる物語を想像するけれど、これがなかなかどうしてそうではないのだ。なぜなら、主人公のエンジェルがまれに見るエキセントリックで感じの悪い女なのだ。
プライドは山より高く自分の才能に絶大なる自信を持ち、称えられて当然と思い込み、攻撃的で凝り固まった考えの持ち主で、謙虚な心などかけらもない。そのくせ誰よりも傷つきやすく孤独で愛を求めている。しかしその表現の仕方といったら、どこまでも高飛車なのだ。そして少女時代から現実を見ずに、自分の妄想の中に住んでいる。創作の才能には恵まれたものの、あまりに客観性に欠けた彼女の作品は多くの人から軽蔑と失笑を買う。しかし何かがあるのだ。だからその作品に惹かれる読者も決して少なくないのだ。だから彼女は商業的には成功するのだ。しかしその人生は…。

嘘ばかりついていた少女時代。そのせいで親に恥をかかせ学校で居場所がなくなっても、エンジェルは自分を省みたりはしない。ただ周りの人たちを恨んで、自分の世界に閉じこもるばかりだ。
作家として成功はしたものの、あまりの現実味のなさと客観性のなさで、批評家からは酷評される。
人間的にも高慢で頑固で高飛車なので、友だちもいない。著名な作家ということで一度はパーティに招待されても二回目はない。彼女は一度会ったら「もう関わりたくない」と思われるタイプの人間なのだ。
しかし彼女の欠点がわかっても彼女に惹かれてしまう人もまれにはいる。それが彼女の作品を世に出してくれた出版社のセオと、彼女の熱烈なファンで後に彼女の全てを面倒みることになるノーラだ。

全く共感できない主人公エンジェルなんだけど、ここまでくると爽快ですらあり、読みすすめるうちに「ああ、もう…」と眉をしかめつつももうエンジェルから離れられなくなってくる。自分自身はマーヴェルの気持ちに一番近かった気がするなぁ。
この作品は1957年の作品。独特のユーモアは、いかにもこの時代のイギリスの小説風味なんだろうか。いやしかし全然古さを感じさせない。期待通りの私好みの小説だった。