りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ステラの遺産

ステラの遺産 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ステラの遺産 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

★★★★★

やっぱり私はバーバラヴァインが好きだー!!と読みながら何度も心の中で叫んだ。面白かった〜。昔ヴァインを読んで「なんてまどろっこしい」と思ったのが嘘のようだ。小説には読み時というのがあるのだなぁ。そして私がヴァインを読むようになったのは桜庭一樹読書日記のおかげなのだ。桜庭さん、ありがとう。そしておめでとう。あなたはやれる子だってママは前から思っていたわよ。(←何様)

ジェネヴィーヴは、老人ホーム「ミドルトン・ホール」のケア・アシスタント。彼女の受けもちのひとり、ステラは癌で余命いくばくもない老女である。ある日、ステラ宛てに彼女名義の家の権利書が届く。ステラはその家の存在を子供にまでひた隠しにしていたのだが、その理由を話すため、ジェネヴィーヴだけに自分の過去をうち明けるようになる。結婚に満足できなかったこと、不倫をしていたことなどなど。そしてその話は必ず秘密の家に収斂していく。その家でいったい何があったのか?ジェネヴィーヴは、やがて恐ろしい疑念に捕らわれていく…。

老人ホームのケアアシスタントであるジェネヴィーヴという女性が語り手。彼女が担当している老人は3名いるが、その中でも特別な存在なのがステラだ。美しく上品で優しくてユーモアもあるステラのことをジェネヴィーヴは大好きで、ステラの方も「あなたのことが気に入ったからこのホームに入ったのよ」と茶目っ気たっぷりに語る。
ステラはジェネヴィーヴの話を聞きたがるが、ステラ自身の話はしない。過去を振り返りたがる老人にしたら珍しいことで、ジェネヴィーヴは不思議に思いながらも、ステラの気持ちを慮って無理に聞きだそうとはしない。
そんなステラのもとにある日書類が届く。それが届いて以来何か考え込んでいるようだったステラは、ジェネヴィーヴに向かって今まで誰にも語ったことがなかった自分の秘密を語り始める…。
ジェネヴィーヴ自身は、テレビプロデューサのネッドという魅力的な男性と恋愛関係に陥っていて、夫マイクに嘘をつく自分に罪悪感を感じながらも、恋愛にのめり込んでいく。ジェネヴィーヴの不倫とステラが語る秘密が、時に預言のようにシンクロしながら進んでいく。

いやもうほんとに見事としか言いようがない。
物語から浮かび上がってくるのが人生をも揺るがすほどの恋愛。しかしそんな恋愛を描きながらも、その不確かさ儚さもちらりと見せてくるのだ。いやーこれはもうたまらんですよ。ミステリーだけど、人間をきちんと描いているから薄っぺらさや無理やりな感じが全くない。でも謎があってそれが徐々に明らかになっていくという面白さもある。
なによりジェネヴィーヴとステラの心の動きが丁寧に描かれている。優しさも善良さだけでなく愚かさも弱さもずるさも描かれるけれど、この二人の女性のことは好きにならずにはいられない。そしてこの2人がとてもリアルでとても魅力的なので、決して明るい物語ではないのだけれど温かみを感じられる。

「アスタの日記」も好きだったけれど、これも好きだなぁ。物語を読む楽しさがぎゅっと詰まった作品だった。