りつこの読書と落語メモ

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灯台守の話

灯台守の話

灯台守の話

★★★★★

以前「さくらんぼの性は」を読んでおもいっきり玉砕し苦手意識を持っていたジャネットウィンターソン。久しぶりに出た新刊ということで読んでみたら、うわーーこれ好きだ!前に読んでだめだったからって見切っちゃいけないんだなぁ…。

十歳の少女シルバーは、スコットランド最果ての港町で暮らしていたが、母親が不慮の事故で亡くなり、みなし児になる。シルバーは盲目の灯台守ピューに引き取られ、見習いとして、この不思議な老人と灯台で暮らし始める。
 灯台守の重要な仕事が、物語を語ることだ。夜ごと、シルバーはピューの物語に耳を傾け、百年前この町に生きた牧師ダークの数奇な人生の物語に惹かれていく。ダークは聖職者でありながら妻を苛み、再会したかつての恋人と別の町で睦みあう、二重生活者だった......。
 やがてシルバーはダークの日記を携え、ピューが物語を通して教えてくれた「真実の愛」を求めて、旅に出る。こうしてちょうど百年の時を隔て、シルバーとダーク、二つの魂の遍歴の物語が響きあい、交差していく......。
 多くの批評家から称賛を集めた、待望の傑作長編!

こうやってあらすじを読むと、なんだかものすごく刺激の強い物語のようだけれど、決してそんなことはなく。淡々とした語り口で、まるで寓話のような…灯台守が船乗りたちに語りかけているような物語だ。

「物語ることで人は救われる」この小説の中で何度も言われる言葉なのだが、これは作者自身の発するメッセージでもある。母を不慮の事故で失い孤児になる主人公のシルバーも、自分を引き取ってくれた灯台守のピューの物語に救われ、ピューを失った後は自分が自分に語る自分自身の物語によって救われていく。きっと作者はこの小説を書くことで自分自身を取り戻し、進むべき道を見つけたのだろう。だから読み終わった時、何かに包まれるようなほっとした気持ちになったのだと思う。

ここで語られる二つの物語。少女シルバーの物語と、聖職者でありながら二重生活を送っていたダークの物語をつなぐのが、灯台守のピュー。二つの物語は光と影のようにお互いを照らし、しかし最後は光が影を圧倒していく。
思わず胸に刻みたくなるようなすてきな言葉が幾つも出てきた。忘れないようにメモ。

  • 他人の真実になることは誰にもできないが、自分は自分の真実でいられる
  • いつだって人は一つのことを祈りながら、べつの道を歩みだす
  • 精神病とは現実と触れ合えなくなること
  • 愛は、たとえて言うなら自然の猛威だ