りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ひとつのポケットから出た話

ひとつのポケットから出た話 (ベスト版 文学のおくりもの)

ひとつのポケットから出た話 (ベスト版 文学のおくりもの)

★★★★

いくら探しても見つからない菊の花はどこに? 雪道から消えた不思議な足跡は? 妻を疑う男に届いた謎の手紙とは? 人間の心のゆらめきを、愛情あふれる絶妙のユーモアで描き出した珠玉のミステリ24編。

初めて読んだカレル・チャペック。ミステリー短編集ということだけど、ミステリーとして読むと物足りなさを感じる。1929年出版ということで、少し古さを感じるところもある。でもなんだろう。おっとりした中にあたたかさと深さがあってそれがすごくいい。最近の小説には見られないシンプルさで、「ううむ…そうか…」と考え込んでしまうような作品もあって、面白い。

誰かの書いたものを指でさぐっただけで書いた人の性格を正確に語り始める「透視術師」。私は占いなんて所詮その程度のものなんじゃない?と日ごろから思っていただけに、「そうだそうだ!」と深くうなづいてしまった。
ユーモラスでちょっぴりブラックな「詩人」「ヤニーク氏の場合」「セルヴィン事件」も面白い。
最後の審判」も良かったなぁ。こういう暖かさは最近読んだ小説にはなかったものだなぁ…。

そしてすごく好きだなぁと思ったのが「怪しい男」。最近の小説家には書けない小説だろうな、これ。シンプルで正しい。特に最後のセリフがいい。

「紙葉の家」の解毒にぴったりだった、これ。