りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

時間のかかる彫刻

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

時間のかかる彫刻 (創元SF文庫)

★★★★

正直な話、読み返すたびに驚かされる。もっと臆面もなく喜びを表現できるように、これが他人の作品だったら、と思うくらいなのだ―著者お気に入りの中編「ここに、そしてイーゼルに」を劈頭に、ヒューゴー/ネビュラ両賞受賞の表題作、地球を追われた少年少女の成長譚「箱」、トイレット・ペイパーに端を発するSF法螺話「“ない”のだった―本当だ!」や、古式ゆかしい教えを今に伝える「フレミス伯父さん」など、全十二編を収録。

「不思議のひと触れ」「輝く断片」「海を失った男」「ヴィーナス・プラスX」「一角獣・多角獣」と読んできたので、これで6冊目。スタージョンといえば奇想コレクションの「不思議のひと触れ」を読んだ時の感動が忘れられない。今でこそ奇想擦れしてしまったけど(なんかいろいろ擦れちゃったなぁ…)、あの頃はそういう類の小説に慣れていなかったから、「うわーーーなんだこれーー」と鳥肌が立ったものだ。きっとそういう人が多かったんじゃないのか。だからこんなにスタージョンが翻訳されるようになったんだって勝手に思ってるんだけど。

ここに収められた短編は「ここに、そしてイーゼルに」以外は1969年から1971年ぐらいの作品。解説によるとスタージョンは5回結婚し、運命の女性とめぐりあうたびに傑作が生まれ愛が冷めてくると創作活動も停滞するというパターンを繰り返していたらしい。うははは。いいなぁ、わかりやすくて。で、これらの作品は「まるで降って湧いたように現れた」ウィナと結婚した頃に書かれたらしい。

スタージョンがこれ以上ないぐらい自画自賛した作品「ここに、そしてイーゼルに」は、正直言って私はあんまり面白く感じなかった。本人が「読み返すたびに驚かされる」と言うぐらい気に入ってる作品を、面白くないっと思ってしまうってことは、私はきっと良いスタージョン読者じゃないのだろうな。そもそもSF苦手だしな。
でもいいの。恋愛だって所詮は大きな勘違いみたいなもんじゃない?本人は何にも考えてなくて「腹へったなぁ」とぼーっとしてただけなのに、その孤独な横顔が素敵!と思ったりさ。いやいややってた仕事をしている姿に惚れられちゃったりさ。あれ、何の話してたんだっけ?
ええと、あれだ。本人は軽い気持ちで苦し紛れに書いたような作品を気に入ることもあるし、思いいれたっぷりの作品を「つ、つまらん」と思うことだってあるし、だからって劣等感を感じたりすることはないんじゃないか!と、そう思うわけであります。(←変なテンション。開き直ったか)

好きだったのは表題作「時間のかかる彫刻」。私はこれぐらいのSF風味が好みだ。どっぷりSFではなく、日常の毒みたいな感じにSFが効いているのがいい。ありえないようなシチュエーションだけど、まるで自分にそういう経験があったみたいに状況が伝わってきて引き込まれる。このラストがすごく好きだ。スタージョンってロマンティストだよなぁ…。
「きみなんだ!」も5回も結婚したスタージョンらしい…。思い込みが激しくて熱しやすく冷めやすい?そんな感じが伝わってきて面白い。
それから「箱」も好きだったなぁ。教訓めいてるところが鼻について好きじゃないって書いてた人もいたけれど、私はこういう話、好きだ。
ものすごくスケールの大きいほら話っぽい「茶色の靴」「フレミス伯父さん」も良かった。

奇想コレクションの新刊も読まなくちゃ!