りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

この世の果ての家

この世の果ての家 (角川文庫)

この世の果ての家 (角川文庫)

★★★★★

ジョナサンとボビー。ふたりの少年が新学期の第1日目に出逢うところから物語は始まる。ふたりは無二の親友になった。ウッドストックに憧れながら一緒にレコードを聞いたり、マリファナを吸ったり…。ジョナサンは自分がゲイであることを自覚し始めていた。ジョナサンとボビーは少年らしい好奇心から結ばれる。ジョナサンは大学に進学するためにニューヨークに移り住んだ。ジョナサンはクレアという10歳も年上の女性と暮らしていたが、ボビーがそこに転がり込む。ジョナサンとボビーとクレア。3人は奇妙な擬似家族生活を始め、やがて3人に子供が生まれる…。傷つくことを恐れる世代の愛と性を叙情を越えた美しさで綴る。世界9ヶ国で翻訳され絶賛された名作。

ゲイの男性二人と10歳年上の女性の3人の話か…。なんかヘヴィそうだなぁとちょっと憂鬱な気持ちで読み始めたこの作品。ゲイの小説はかなりの量を読んできているから「またか」とも思ったし、ものすごく繊細だったり、逆にものすごく直接的だったりしても嫌だなぁという気持ちもあった。
しかし思っていたのとは全く違う小説だった。これはよくあるゲイ小説なんかではない。すごくよかった。すごくよかったよー。うぉー。(おたけび)

物語は、映画館を経営する父をもつジョナサン、ジョナサンの母アリス、ジョナサンが少年時代に出会い無二の親友になるボビー、ジョナサンが大人になってから出会う10歳年上の女性クレア、この5人の視点から語られる。
ボビーと出会い自分がゲイであることを自覚するジョナサン。自分の憧れの対象であった兄を失い、そのために母もそして父をも失い寄る辺ないボビー。そんな2人の関係に気付き苦悩する母アリス。
前半で一番共感したのはアリスだ。もし自分がアリスの立場にあったらこんな風に振舞ってしまうかもしれない。彼女の苦悩がまるで自分のことのように感じられてひりひりと痛かった。愛する息子に悪影響を与えているように見えるボビーが怖かった。

しかし読みすすめるうちに、どんどんボビーが好きになってきた。
孤独で人懐っこくて優しくてからっぽのまま途方にくれているように見えるボビー。ボビーの優しさがこの小説全体に静かに流れ、時に残酷でショッキングな出来事が描かれても、彼の優しい視線のおかげでとてもあたたかいものになっている。

作者は「ジョナサンは自分の分身である」と言っている。だからジョナサンはエゴイストに描かれているのかもしれない。
そしてクレア…。どうしてここまで女性の気持ちを綿密に正確に描くことができたのだろう、と思う。クレアがとった行動は身勝手で残酷に見えるけれど、しかし女性とは母親とはこういうことをしてしまうものなのだ。アリスがジョナサンに忠告するけれど、そのとおりだったのだ。

甘くはない結末なのだけれど、でも決して悲劇に終わっていない。自分は確かにここにいたのだと、そう感じることができた。自分の居場所を見つけることができた。自分の人生を生きることができた。そう言うジョナサンに救いを感じられたし、あたたかい気持ちで本を閉じることができた。