りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

夏の葬列

夏の葬列 (集英社文庫)

夏の葬列 (集英社文庫)

★★★★★

1を見て10を知ったつもりになってしまうのが私の悪い癖だ。「抱擁家族」で玉砕したから、「やっぱりこれくらいの時代の日本の作家の小説はじめじめしていて好かん!」と言い切りそうになっていたけれど、この作品を読んで「ああ。決してそんなことはないのだ。好きなものは好き。好きじゃないものは好きじゃない。それだけのことなのだ。」と思えた。良かった…この作品を読めて。

太平洋戦争末期の夏の日、海岸の小さな町が空襲された。あわてて逃げる少年をかばった少女は、銃撃されてしまう。少年は成長し、再びその思い出の地を訪れるが…。人生の残酷さと悲しさを鋭く描いた表題作ほか、代表的ショート・ショートと中篇を収録。

あまりにも日本の作家を知らなさすぎるなぁと思っていて、誰か面白い作家いないかなぁと問いかけて(まさに無謀な問いかけ)教えてもらったのがこの作品だった。
いやもうすごく好きだった。物語そのものも文体も登場人物も。決して爽やかではない。どちらかと言うと、残酷だったり陰鬱だったりするのだが、どれも好きだった。ああ、なんなんだろう。私のこの好みというやつは。「抱擁家族」をあれほどまでに嫌悪した私が、この短編集はどれも抱きしめたいほど好きだと思ったのはなぜなんだろう。
きちんと分析できない、きちんと言葉で表現できないのが、とても歯がゆい…。でもこれを薦めてくれた方にはきっとこういうの好きだろうなってわかってもらえてたってことだよね?なんで私のシュミがわかったのーー?!ありがとうー!!と叫びたい。

特に好きだったのが、「夏の葬列」「お守り」「煙突」そして「海岸公園」。「海岸公園」は姥捨ての話なのだ。本当に救いがないのだ。祖父は本当に目を背けたくなるほど醜悪だし、語り手である「私」のずるさや弱さや醜さが伝わってくるのだが、それでも不快感や嫌悪感を感じない。なんでなんだろうなぁ…。