りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

香水―ある人殺しの物語

香水―ある人殺しの物語

香水―ある人殺しの物語

★★★★★

あらゆる匂いをかぎわけ彼ひとり匂わない。至高の香りを求めて異能の男の物語が始まる。不思議なベストセラー。

こんな物語だったのか。いやびっくり。評判は聞いていて、映画のCMなんかも見ていて、いったいどんな話なんだろうと想像をたくましくしていたのだが、全く予想外だったなぁこれは。

悪徳に満ちた主人公なのであろうということは想像していたけれど、ここまで醜悪だとは。しかし何故だろう。こんなに人間性の欠如した男なのに、ものすごく悲しく哀れだ。
ミステリーの要素もある奇想天外なストーリー展開とむせかえるような匂い(時には臭い)の描写。そして主人公のあきれるほどの悪徳ぶりと純粋さ。これは小説でしか味わえない世界だと思うのだが、映画になったんだよな、これ。どんななんだろう。見てみたいような気もするなぁ。匂いをどのように映像で表現しているんだろう。

***

読み終わって一日経って少し冷静に考えられるようになったような気がする。あと、他の方の感想やいただいたコメントから自分なりに「ああ、そうか」と考えるところもあったので、追記。

私はこの主人公が哀れに思えたのだが、それはあくまでも私の尺度で見た場合なのだと思う。そもそもこのような超越した人物であるのだから、私の尺度で考えるのは間違いなのかもしれない。なんたって主人公は鼻のみで全ての事柄を理解し生きている、天才的悪魔的な鼻男なのだ…。鼻男の視点から見れば、まさに鼻男としての頂点を極め「神」になったわけで、幸せな生涯であったと言えるのかもしれない。

私はそもそも悪徳小説(そういう呼び方で正しいのか?)が苦手だ。佐藤亜紀の「ミノタウロス」もそうだったけれど、人間性を排除したような書き方をされた人物が主人公の作品を手放しで好きになることができないのだな。
何も正しいことをする正しい主人公の小説しか受け付けないというわけではないのだが、あまりにも自分の理解を超えている登場人物だと、なんとなく物語を自分の側に引き寄せることができず、遠くから「ほー」と感心するようなスタンスになってしまうというのが正しいかな。そういう意味でこの作品は大好きかと問われると正直「う、うーん…」とうなってしまうのであった。