りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

あなたに不利な証拠として

★★★★

警官を志望する若きキャシーがマージョリーと出会ったとき、彼女の胸にはステーキナイフが深々と突き刺さっていた。何者かが彼女を刺し、レイプしたのだ。怯え、傷ついた彼女を慰めるキャシー。だが捜査を担当したロビロ刑事は、事件を彼女の自作自演と断じる。マージョリーに友情めいた気持ちを抱いていたキャシーだったが、どうすることも出来なかった。それから六年後、キャシーとマージョリー、そしてロビロの運命が再び交わるまでは…MWA賞最優秀短篇賞受賞の「傷痕」をはじめ、男性社会の警察機構で生きる女性たちを描く十篇を収録。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞受賞。

これはまたなんと渋い小説…。

5人の女性警察官を描いた短編集。2006年このミス第一位だがこれはあとがきにあるように「きわめて困難な仕事に立ち向かう生身の人間」を描いた小説だ。
彼女たちが生身だからこそ読んでいてつらい。本当につらい。こんなつらい仕事を長く続けられるのは、よっぽど強いかよっぽど鈍い人間だけなんじゃないだろうか。フツウの神経の持ち主だったらおかしくなってしまう。いやでもだからこそ、警察官は彼女たちのような人にやってほしい。そうも思う。

正義感だけでは乗り越えられない恐怖や残酷な場面に日々直面している女性警察官たち。読んでいても思わず目をそらしたくなるような醜悪で残酷な場面も多い。
自分の身を守るため犯人を銃殺し、その罪悪感から逃げられないキャサリン。父親と同じ職業を選び、その父親の暴力性をも引き継いでしまったモナ。

そして誤って罪を犯しニューメキシコへ逃げるサラ。彼女が老女にかけられた言葉。「(あなたは)あきらめが早すぎるし努力しすぎる」。この言葉に胸をえぐられる人は多いのではないだろうか。ああ…。ほんとにそうだよなぁ…。だけどその弱さが救いでもあるのだよなぁ…。この最後の物語は本当に読んでいてつらいんだけど(ああ、ついに一線を越えてしまったか。なんとかうまくやり過ごしてほしかったのに)、でもこのラストは少しだけ希望を感じさせてくれる。はっきりとは書いてないけど、彼女は救われるのだと信じたい。

いやぁ、これは次回作も楽しみだ…。