りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

さん助・燕弥ふたり會

3/4(水)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助・燕弥ふたり會」に行ってきた。
 
・さん助・燕弥 ご挨拶
・燕弥「粗忽長屋
・さん助「おせつ徳三郎(下)~刀屋~」
~仲入り~
・さん助「雛鍔
・燕弥「三人起請」
 
燕弥師匠「粗忽長屋
この時節だから前座さんは敢えて頼まなかった、と燕弥師匠。
で、今日の二番太鼓なんですけど…これCDなんですが二番太鼓がフェイドアウトしていて、噺家の間で評判が悪いやつなんですね。
だからせっかくだから二人で叩こうかという話になったんですが。
あの方(さん助師匠)は前座時代、とにかく太鼓が苦手だったんですね。我々のころは一朝師匠に教えていただいてたんですが、一朝師匠が「お前は…太鼓は叩かなくていいよ」と言ったんですよ。「誰かしら叩けるやつがいるからその人に任せればいいよ」と。あの師匠、優しいから…。
とはいっても一番太鼓、二番太鼓なんていうのは、さすがにどんな下手糞な前座でもやれますから。それで前座時代死ぬほど叩いてますから身体にしみこんでるんですよ。…ふつうは。
でもあの方…まったく覚えてなかったんです。まったく。
で、「練習したい」と言い出して、ちょっとやってみた瞬間…「CDにしよう」となりました。
 
そしてさん助師匠の前座時代のしくじりについて。
「とにかくいわゆるおっちょこちょいなんですね。なんか言われるとすぐに身体が動いちゃう。間違った方向に」「さん喬一門では前座に付ける名前って決まってるんですよ。で、あの兄さんは前座時代”さん角”だったんですけどね。あまりにしくじりが多いからもう付けなくなっちゃったんですよ、その名前を」
…そこでさん助師匠が袖から出てきて「 止め名 と言ってください」。
 
…ぶわはははは。前座名が止め名って!
粗忽な人のまくらから「粗忽長屋」。まくらでさん助師匠の話をあれこれしていたらもうこの噺をせざるをえなくなっちゃったんだろうな(笑)。
郵便局の小話と名前を思い出せない小話の後に、さん角エピソードを盛り込むの、おかしかったー。よく兄弟子からもエピソードを聞くけど、同じ前座時代を過ごした人から聞くと格別おかしい。
燕弥師匠のことがとにかく大好きなさん助師匠。燕弥師匠もさん助師匠のこと、呆れながらも(笑)優しく見守っているんだな、というのが伝わって来た。
 
さん助師匠「おせつ徳三郎(下)~刀屋~」
本日申し上げる「刀屋」は初代春風亭柳枝が作ったと言われています。とさん助師匠。
今は前半部分を「花見小僧」として独立してやられることが多いですが、当時は通しでやっていた。
これを初代三遊亭円遊が前半部分を切り取って大幅に変えた。それが「花見小僧」。
速記を読むと、ずいぶん大きく変えたなぁと思います。
やられなくなったのは面白くないからで…どの時代でも噺家というのはとにかくウケたいんですね。それは今も昔も変わりないです。なにもわざわざウケない形でやることはないわけですけど…そういうのをやりたがる噺家が一人ぐらいいてもいいじゃないか…というわけで、今日は 柳枝が作ったそのままの形でやりたいと思います。
 
そんなまくらから「刀屋」。
初代 柳枝は「宮戸川」を作った人でもあるらしく、そう言われれば二つの噺、流れる空気が似ている。
 
奉公先の店の一人娘・おせつと深い中になった徳三郎は理由も告げられずに深川のおじさんのところに帰されてしまう。おじさんも何も知らされていない。
おじさんが徳三郎に向かって「お店のお嬢さんがお婿さんを迎えることになって今晩婚礼なので出かけてくる」と言うので驚いた徳三郎。
「ま、まさか。お嬢さんは将来を誓い合った店の若い者がいると…」と言う徳三郎に向かって「婿に来る男は金持ちでいい男らしいから、お嬢さんも目が覚めたんだろう。店の若い男なんかそのお婿さんに比べればすっとこどっこいのこんこんちきのうん〇だよ」と言うおじさん。
どこにも出かけるなよと言うおじさんの言葉を無視して家を飛び出した徳三郎は刀を買っておせつを殺して自分も死のうと刀屋へ向かう
 
刀屋へ行って店の主人から「女心を確かめるために刀を振り回すなんてもってのほか。それならどかんどぼんだよ」と心中を勧められる。(ここの説明が少なすぎて、ちょっと意味不明…(笑))
話をしているとにわかに外が騒がしくなり「迷子やーーー」の声。
店に飛び込んできたのが頭で、今晩婚礼だったのだが花嫁のおせつがいなくなってしまったので、手分けして探しているのだという。
それを聞いた徳三郎が店を飛び出し、暗闇の中歩いているとおせつと鉢合わせ。
お節から「結婚するのが嫌で逃げて来た」と聞き、お互いの気持ちを確かめ合い、この世で一緒になれないのならば…と心中することに。
川に身を投げたのだが木場なので材木の上に落ちてしまい死にそびれる。
そこにいくら探しておせつが見つからないので「何妙法蓮華経とお題目を唱える頭たちがやってきて…。
 
サゲが普段聞いているのとは違っていた!
あとちょっとわかりにくいところがあったというか唐突な感じがあったのは、 もともとそうだったのかさん助師匠が刈り込んだからなのかさん助師匠が説明下手だからなのか。謎。
でもおじさんがパーパーしていたり、二人が心中しようとして深刻になっているのに頭たちの 「何妙法蓮華経」の声が重なっておせつが「うるさいわね」と言ったりするなど、笑いどころもあってそこが新鮮で面白かった。
 
さん助師匠「雛鍔
久しぶりにさん助師匠の「雛鍔」が聴けた! さん助師匠の「雛鍔」大好きなんだー。
三太夫さんから言われたままに「お八歳」「見せない触らせない使わせない」(だったっけ?)を何度も連呼するはっつぁんがおかしい。
番頭さんが来てからのドタバタ。羊羹を厚く切れと言われて2つに切っちゃうおかみさんもおかしいし、なによりも帰ってきて「ひーろっちゃったー」「これなんだー」と棒読みのきんちゃんのおかしさったら。
さん助師匠の「子ども」面白いなぁ。
笑った笑った。楽しかったー。
 
燕弥師匠「三枚起請
 起請をもらって浮かれていたのがだまされたと分かってがっかりしながらもどこか鷹揚な若旦那。分かった瞬間にけろっと吹っ切れる頭。そして一番傷が深かったおしゃべり清さん。
この3人が三者三様でとってもおかしい。
お茶屋に入って頭が二人を隠れさせるんだけど、二人がああだこうだと言ってくるおかしさ。
そして出て来た花魁がいいんだなぁ。きれいで。
3人が出て来た後に開き直るのもなんか花魁がきれいだから花魁側に付きたい気持ちになる。
テンポが良くてきれいで楽しい「三枚起請」だった。よかった!
 
 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
 

 ★★★★★

大人の凝り固まった常識を、子どもたちは軽く飛び越えていく。世界の縮図のような「元・底辺中学校」での日常を描く、落涙必至のノンフィクション。 

評判通りとても面白かった。

格差の問題や人種差別、削られていく福祉にかけるお金等、いろいろな問題があるところは日本もイギリスも同じだけれど、違うのは教育なんだなというのを強く感じた。

多様性を認めること。頭では理解しているつもりだったけれど価値観や宗教観が違う人間が入り交じった中で相互に理解を深めることの難しさを目の当たりにした。
いろいろな問題にぶち当たってもそれを素直に表現できるのは親子の間に信頼関係があるからこそ。

なんで差別をするの?という問いに「無知だから」というのは素晴らしい答えだ。

子どもがいろんなトラブルに巻き込まれた時に、こんな風にどーんと構えることができたらよかったのに…と自分の子育てを憂うが後の祭りだし何度やっても同じなんだろうな…。ああ。

勧之助・小んぶニ人会

3/2(月)、ミュージックテイトで行われた「勧之助・小んぶニ人会」に行ってきた。
コロナ騒動であちこちの会が中止になる中、決行されたこちらの会。受付でお金を払うとお店の人がアルコールを手に吹き付けてくれるサービス付き(笑)。
 
・ 勧之助 漫談
・小んぶ「時そば
・小んぶ「アメの日」
~仲入り~
・ 勧之助・小んぶ トークコーナー
 
勧之助師匠 漫談
高座にあがるなり「みなさん…そんなに娯楽に飢えてますか」と 勧之助師匠。
「みなさん、今日は落語を聞こうなんて思ってきてないですよね?あちこちの会が中止になって落語が聞きたくて落語に飢えてて来たってわけじゃないですよね?この会は私が小んぶと仲良くなりたい、みんなでお酒飲んで小んぶと仲良くなることを目的とした会ですからね。まさかこの時節、こんなにお客さんがいらっしゃるとは思っていなくて…さっきビール買い足しに行っちゃいましたよ」
…え?ビール?
 
先日 勧之助師匠のtwitterで、好の助師匠と正蔵師匠の2ショット写真がアップされていたんだけど、その時のエピソードや、師匠話など…もう最初から最後まで捧腹絶倒、笑い通し。
エピソード自体もとんでもなく面白いんだけど、話し方がほんとにうまいっていうかめちゃくちゃ面白いんだよなぁ
もうずっと喋っててーって思ってしまう。
書けない話ばかりだったけど…とりあえず 勧之助師匠の伯山先生、おさん師匠の物まねは最高、とだけ書いておこう。
 
小んぶさん 「時そば
勧之助師匠が「落語は小んぶが二席やりますから。二席やらせてくださいって来るなり言われましたから。相当やる気ですよ、あいつは」と言っていたんだけど、「今日は前回お約束した通り新作をやる予定でして…で、私の新作は…ひどいです…なのでいきなりやることはできないです。踏み台が必要なんです。それで一席古典をやってそれから新作をやりたい、と」。
なかなか新作に入りたくないらしく、「まだやりませんよ」「まだ落語には入りませんよ」と引き延ばす小んぶさんがおかしい。
さんざんぐだぐだ話した末に(笑)「時そば」。
小んぶさんらしく二番目の男がとても個性的な「時そばで大笑い。
「きったねぇどんぶりだなぁ。これ犬のお皿じゃねぇの?え?ほんとにそう?そうなんだ?あ、犬がこっちを見てる…うらめしそうに…」。
もうばかばかしくて大笑い。楽しかったー。
 
小んぶさん「アメの日」
さんざん渋って(笑)やった新作。ぬおおお、これは聞き覚えがある。「小んぶにだっこ」で昔やった新作だ!
すごいくだらなくてシュールで好きだわー。
そしてめちゃくちゃやるの嫌がってたけどすごいウケてた!やったね!
 
勧之助師匠・小んぶさん トークコーナー
コロナの影響で仕事が中止になった話やお互いの師匠の話や前座時代の話など。
勧之助師匠が買ってきてくれたビールを飲みながら…。幸せだー。
 
ほんとに楽しい会だった。感謝感謝。
 
 
 

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

 

 ★★★★★

一九五九年、冷戦下のソ連ウラル山脈で起きた遭難事故。登山チーム九名はテントから一キロ半ほども離れた場所で、この世のものとは思えない凄惨な死に様で発見された。氷点下の中で衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの一人は舌を喪失。遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ―。地元住民に「死に山」と名づけられ、事件から五〇年を経てもなおインターネットを席巻、われわれを翻弄しつづけるこの事件に、アメリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。彼が到達した驚くべき結末とは…! 

 ディアトロフ峠事件の謎を追うノンフィクション。取材から明らかになった当時の出来事と、著者がロシアに出向いて取材を行う現在が交互に語られる。

残された写真で見るメンバーたちが若者らしく生き生きとしているだけに、こんなにも経験豊かでパワーのあった人たちがこんな悲劇に見舞われた理由は何だったんだろうと真相を知りたくなる。

著者が出した結論は説得力があるように感じるけれど、しかし真相は分からない。
個人的には政治的な陰謀に巻き込まれたのではないか?という気がしつつ、でもUFO説も捨てきれない思い…。

実際に起こってしまったことは悲劇以外の何物でもないが、読み物としてとても面白かった。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/29(土)、鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。

・市松「道灌」
・つる子「反対俥」
・アサダ二世 マジック
・歌武蔵 いつもの
・扇蔵「真田小僧
・ホームラン 漫才
・甚語楼「権助芝居」
・琴調「匙加減」
・のだゆき 音楽
・さん喬「時そば
~仲入り~
・ストレート松浦 ジャグリング
・小ゑん「鉄の男・中」
・圓太郎「強情灸」
・楽一 紙切り
・南喬「味噌蔵」

甚語楼師匠「権助芝居」
何を言ってるか時々わからないぐらいなまってる権助がおかしい。
やっぱり甚語楼師匠のリズム感はたまらないなぁ。押したり引いたりの楽しさ。

 

琴調先生「匙加減」
この芝居、琴調先生もすごく楽しみだった。毎回違うお話をされて、短い時間なのに緊張感と時々ふわっと笑えるところと。かっこよかった。
かっこよかったといえば、帰りに地下鉄で琴調先生と一緒になったんだけど、水玉のリュックがとってもおしゃれだったー。

 

小ゑん師匠「鉄の男・中」
生で「鉄の男」を見たのは初めてかも。
鉄道オタクぶりがものすごくマニアックでわからないんだけどたまらなくおかしい。
れんげ畑のくだりには大爆笑だった。
客席をぐわっと引きつけて爆笑の渦に巻き込む。小ゑん師匠はほんとにすごい。

 

南喬師匠「味噌蔵」
この芝居、南喬師匠はまくらなしで噺に入っていて、きっとこれをやろうと決めて高座に上がられているんだな、と思った。
「味噌蔵」、徹頭徹尾ケチな主人と臨機応変な番頭さんのキャラクターがきっちり。
おかみさんが妊娠したと聞いて心底がっかりするケチ兵衛さんだけど、子どもが無事に生まれたと聞いて心の底から喜ぶところに救いを感じる。
今日は特別なんでも好きな物を食べていいよと言われて「酢の物」「芋」「味噌田楽」と言う奉公人のつましさよ…(涙)。
主から信頼されている甚助の弾けっぷりが楽しい。

あーー南喬師匠のトリ、よかったなぁ。今年は昨年よりたくさん南喬師匠の高座が見られますように!

日本橋とん馬落語会

2/28(金)、お江戸日本橋亭で行われた「日本橋とん馬落語会」に行ってきた。

 

・とん馬 ご挨拶
・あら馬「動物園」
・晴太「八問答」
・と太郎「悪魔のパピプペポ」
・サンバ「死神JK」
・小すみ 粋曲
~仲入り~
・貞友「徂徠豆腐」
・とん馬「御神酒徳利」

 

・とん馬師匠 ご挨拶
赤い頭巾に赤い羽織?で登場のとん馬師匠。
この度めでたく還暦を迎えられ、落語教室の生徒さんたちからそのお祝いに贈られた衣装なのだそう。
そうなのだ。何も考えず「とん馬師匠の会がある!」とかわら版で見て飛びついたのだが、この日来ているお客さん、とん馬師匠の落語教室の生徒さんが多数。
さらにその生徒さんの中で新作を作ってる人がいてその二人の高座もあると…。
そそそそそうだったのか。もしかしてアウェイ?と心配になるも、受付でも優しく迎えてもらったし大丈夫大丈夫、きっと大丈夫(笑)。

 

あら馬さん「動物園」
上野広小路の寄席で何回か見たことがあるあら馬さん。とん馬師匠のお弟子さん。
男前な女性という印象があったけど、実生活でもPTA会長をやったりされているらしく、かなり心臓の強いタイプとお見受けした。

 

晴太さん「八問答」
わーい、晴太さん。
なんでも晴太さんが二ツ目になって初めて呼んでいただいたのがとん馬師匠のこの会だったそうでまた呼んでいただいて本当に嬉しい、と。
前座を4年やった中で一番印象が強かった出来事として、浅草演芸ホールで蝠丸師匠が舞台から落ちた時の話を。ぬおおお。
晴太さんによれば、また今年も怪談の会があるらしい。さらにぬおおおお。

そんなまくらから「おめでたい噺を」と「八問答」。
私が晴太さんを初めて見たのは国立演芸場で「八問答」だった。こんな珍しい噺をする前座さんって…?!とハートを射抜かれたんだった。
次から次へと展開していく噺で結構難しいと思うんだけど、よどみがないというか実力を見せつけてきたというか凄かった。

 

と太郎さん「悪魔のパピプペポ」
落語教室の生徒さん。
素人さんの落語かぁ…という気持ちは話し出した瞬間に吹き飛んだ。
なんだなんだ、凄いな、この人。まくらも面白いし、なによりも噺がめちゃくちゃ面白い!これよりよっぽど面白くない新作作ってる噺家さんたっくさんいるよ!

一人部屋の中で藁人形を打ち付けてる男性。どうやら自分の会社の部長に恨みがあってめちゃくちゃ呪いたいらしい。
あれこれ試した後で最後に何かマニュアルを読みながら悪魔を召喚する呪文。すると本当に悪魔が出現!
「部長を呪ってくれ」と悪魔に頼むと「やってもいいが悪魔との取引だからお前も無傷ではいられないぞ」と悪魔。
「お前の寿命の半分をいただく」と言われて男が「え?半分?それはやだ。それの半分は?」と言うと「それの半分にしてやってもいいがそうすると呪いの内容がしょぼくなる」
「しょぼくてもいいや」
というわけで悪魔との取引が成立。

次の日悪魔が会社に行ってみると部下を呼びつけては「馬鹿野郎」呼ばわりしている部長が。
「ああ、あいつだな、ターゲットは。よし、じゃ呪いをかけてやる!」

それまで部下に罵詈雑言を投げつけていた部長の言葉がいきなり「パピプペポ言葉」に変わってしまう!
悪魔のかけたしょぼい呪いのせいだ。

それから悪魔と取引をした男が部長を呪ってる驚愕の理由(笑)が明らかになり…。

…噺も面白いし、話し方もわざとらしくないというかちゃんと落語になっていて、もうびっくり。
最初から最後までゲラゲラ笑いどおしだった。すごいな、なんだこの人。面白かった。

 

サンバさん「死神JK」
「死神」の改作。出てくる死神がおじいさんではなくイケてるJK。まさかこんなかわいこちゃんが死神のわけないやろ!と出会った男は言うのだがこれが本当に死神で。
呪文を教わって病人のもとへ行くと、そこにはやはりJKの死神が座ってる…。

基本的には「死神」の流れなんだけど、ところどころ独自のストーリー。
サゲも死神がJKだという設定が生きていて、すごい。

と太郎さんがめちゃウケした後だったのでやりづらかったんじゃないかと思うけど、たいした度胸だなー。すごいわ。

 

小すみさん 音曲
お囃子時代の小すみさんが高座に上がるのを小助六師匠や夏丸師匠の会で何回か見ていたけど、音曲師となってからの高座を見るのはこれが初めて。嬉しい~。
いやもう三味線は超絶うまいし伸びのある歌声は気持ちいいし、最高だ。
あとお話も結構上手だなぁ。なんていうか本当に楽器と歌が大好き!っていうのが伝わってくるし、この楽しさをお客さんにも!という意気込みも素敵。
「やっこさん」の手拍子と合いの手をお客さんも一緒に!という流れだったんだけど、小すみさんに乗せられてどんどんノリノリになってきてほんとに楽しかった。

 

貞友先生「徂徠豆腐」
貞友先生は貞寿先生の真打披露目の時に一度見たことがあったんだけど、活躍されている声優さんだとは知らなかった。
七色に変わる声を存分に発揮するサービス精神満点の「徂徠豆腐」ですごく面白かった。
まくらで「とん馬師匠の会に呼んでいただきたくていつも隙を伺っていた」とおっしゃっていたけど、本気が伝わってくる高座でよかったー。

 

とん馬師匠「御神酒徳利」
この日はとん馬師匠の同級生の方たちもいらしていたらしく、その中の一人がとん馬師匠のオウムや猿の小噺が大好き、とのこと。リクエストにお応えして…とオウムの小噺パート2と猿の小噺をされたんだけど、何度聞いてもほんとに面白い!!軽さと明るさがたまらない。

「この小噺から噺に入りづらいよ」と言いながら「御神酒徳利」。
おっちょこちょいの二番番頭・善七(だったかな。自信なし)。自分で水がめの中に徳利を隠しておいたことをすっかり忘れて家に帰ってきて自分で水を入れようと水がめの蓋を開けて初めて思い出す。
話しを聞いたおかみさんの強心臓ぶりがなんとも楽しくて好きだな。
最初は「そんなこと俺はできないよ」と言っていたんだけどおかみさんに説得されて練習して旦那のもとへ。
半信半疑だった旦那も実際に徳利が出てくると大喜び。善七もすっかりいい気になって「あたしの占いはすごい」と喜んでいると、泊まっていた鴻池善右衛門の支配人に頼まれてしまう。
女房に相談してきますと家に帰ると「いいじゃない。やってくれば」とここでも強気の女房。
仕方なく支配人と二人で旅に出て、神奈川の宿場に泊まると…。

神奈川の宿場で終わらず、鴻池まで行くパターン。
善七もここまできたらどうにかしたいと本気を出して神頼みをするのも、そこで出てくるのが神奈川の宿屋のお稲荷様で「お前に罪を擦り付けられた稲荷だ」と名乗るのも落語らしくて好きだなー。

テンポがよくて軽くて楽しい「御神酒徳利」。よかった!

アンダー、サンダー、テンダー

 

アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学)
 

 ★★★★★

映画美術に携わる「私」は、友人や家族の動画を撮りためている。未熟で無防備だった十代。恋し、挫折し、傷つきながら、進む方向を模索していた日々。「私」の初恋の記憶は、ある事件によって色彩を失っている。高校時代を共にした個性豊かな男女六人は、互いに離れたり、支え合いながら三十代を迎えた。一つのファイルにまとめた動画は、その記憶をたどるものであり、「私」に次のステップを踏み出すきっかけを与えた。 

家庭環境やキャラクターは全く違うけれど同じバスを使って高校に通った6人の仲間たち。
お互いの苦しい状況は分かっていても何ができるでもない。
時に見たくない物は見ないようにしながら、助けられない自分に無力感を感じながらも、離れずに一緒にいる。

胸が痛くなるようなひどい出来事も一緒にいて見守っていてくれる人がいるから少しずつ傷が癒えていく。

切り取って残しておきたいようなシーンが沢山あって、その多感な時期を「アンダー、サンダー、テンダー」と名付けたのも素晴らしい。
「ともだちっていいもんだ」。最後まで読むとそんな言葉をつぶやきたくなる。

良かったー。好きだなー、チョン・セラン。

 

通ごのみ~特選落語集~

2/27(木)、日本橋劇場で行われた「通ごのみ~特選落語集~」に行ってきた。

 

・小辰「替り目」
・小里ん「五人廻し」
・雲助「双蝶々より 権九郎殺し」
~仲入り~
・市馬「七段目」
小満ん「水中の玉」

 

小辰さん「替り目」
「本日は命がけで集まっていただいてありがとうございます」と小辰さん。
「通好み」というタイトルにある通り、本当に通好みなプログラムで…その開口一番ということで小辰さんの意気込みが伝わってくるような高座。
よく聞く噺だけれど、酔っ払いが新内の流しを家に引き入れて、そこで一節やってもらうというのは初めて聞いた。流しは姉と弟で最初は姉が歌い(袖にいらしたようなので姿は見えなかったけれど声で「そのさんだ!」と分かる)、「お前もやれよ」と言われた弟が「私は三味線だけなので」と固辞するのを、「そう言わずにやれよ」と言って、小辰さんが自ら都都逸を。
すごいサービス精神。

 

小里ん師匠「五人廻し」
吉原がなくなった年に私は小学生だったと小里ん師匠。
噺家になって吉原の存在を知り、実際に通っていた師匠方から話しを聞いたりして、本当に悔しくて残念で…それ以来何を考えるんでも「吉原が無くなった年」が基準になるようになっちゃった、という話しに笑う。

そんなまくらから「五人廻し」。
個性豊かな5人の客。見栄の場所だとは百も承知だけど、女がちらりとも顔を見せずに悔しくて、若い衆を部屋に呼んで文句を言ったりからかったり…。
ことさら強烈にやるわけじゃないんだけど、それぞれの個性や嘆き方の違いがリアルですごく面白い。
こんな男たちを一人で相手しなければならないんじゃ、花魁も嫌気がさすよな…。
サゲの一言に溜飲が下がる。

 

雲助師匠「双蝶々より 権九郎殺し」
いったん幕が下がって、板付きで登場。
芝居仕立てで鳴り物もたっぷり。
長吉を強請って金を巻き上げて女を身請けしようとうかれている番頭の権九郎と、権九郎を殺すつもりでやって来た長吉。
念入りに何度も権九郎を刺す長吉の冷徹さが恐ろしく鳥肌ぞわぞわ…。
鳴り物入りで迫力十分。

 

市馬師匠「七段目」
最初から最後までご機嫌な「七段目」。市馬師匠も歌舞伎好きなんだろうなぁ。所作が自然できれいだし、「これもん」なところが全然なくて楽しい。
芝居にかぶれた若旦那も、遊び心が全くない大旦那も、市馬師匠にぴったりなんだなぁ。

小満ん師匠「水中の玉」
初めて聞く噺。
瀬戸内海の船旅をしている江戸っ子二人。長旅なので自己紹介したり話をしたりしている中で一人浮かない顔の男。話を聞いてみるとこの男、浦島屋という骨董屋の手代・太郎兵衛。集金に行って懐に入れていた三百両を海に落としてしまったので死んでお詫びをするしかないと言う。
早まっちゃいけない、何かみなさんいい考えはありませんか?と船の上の人たちに相談するとその中の一人が巨大なフラスコを持っていてこれを貸してやるからこの中に入って海の中に落としたらどうか?と言う。
それを聞いた太郎兵衛が喜んでフラスコの中に入って、海の底へ沈んでいく。
目の前を泳ぐ魚やタコの様子に大喜びしていた太郎兵衛。自分が落とした三百両入った紙入れも見つけることができたのだが、フラスコから手を伸ばして拾うことができない。
どうにかして拾うことができないかとフラスコを叩いたりしているうちにガラスが割れて海の水が入ってきて溺れてしまう太郎兵衛。
気が付くと竜宮城の前にいて、太郎兵衛は浦島太郎と間違えられてまんまと中に…。

 

…ファンタジーな展開と太郎兵衛のちゃっかりした人間性が落語らしくて楽しい~。
小満ん師匠の茶目っ気もたっぷりでそこに鳴り物が気持ちよ~く入って、めちゃくちゃ楽しい。
いやぁほんとに素敵だった。そしてほんとにいい会だった。次回は6月1日とのこと。

覗くモーテル 観察日誌

 

覗くモーテル 観察日誌 (文春文庫)

覗くモーテル 観察日誌 (文春文庫)

 

 ★★

ある日、コロラド州のモーテル経営者ジェラルド・フースから手紙が届いた。なんと屋根裏の覗き穴から秘かに利用者たちの姿を観察し、日記にまとめているという。男を訪ねた著者が案内され目撃したのは、全裸の男女がオーラルセックスに励む姿だった。不倫からグループセックスまで、三十年に及ぶ衝撃の記録

覗きにとりつかれた男・ジェラルド・フースがモーテルを買い取り自らがオーナーとなり天井裏から覗き見した内容を克明にノートに綴る。

ジェラルドが覗きという何よりも秘密にしたいはずの行為を30年も続けていながらノンフィクション作家である著者に自分の日記を読んでほしいと連絡してきたのはなぜななんだろう?また他言しないことを条件に彼の告白を読み続けてきた著者がノンフィクションとして出版できたのはなぜなんだろう?途中からはその興味で読み進めていたのだが、うーむ…。

ジェラルドはある意味「信頼できない語り手」だけど、本当のことだからこそ…なんだろうなというリアルさが時折見える。覗きを続ける中で彼自身がどんどん人間不信になっていくのは、解説にもあったけどジョン・チーヴァーの「巨大なラジオ」みたいだなと思った。
ジェラルドの行為を二人の妻が容認していたということにも驚く。
まさに事実は小説より奇なり。

とは言いながら、この人の行為自体はほんとに面白がれないことなんだけど。胸糞悪くてとっとと読み切った。やでやで。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/24(月)、鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。
 
・り助「二人旅」
・花ごめ「狸札」
・アサダ二世 マジック
・歌武蔵 いつもの
・司「浮世床(夢)」
ロケット団 漫才
・甚語楼「新聞記事」
・琴調「朝妻船」
・正楽 紙切り
・さん喬「時そば
~仲入り~
・にゃん子・金魚 漫才
・小ゑん「下町せんべい」
・一朝「幇間腹
・南喬「猫の災難」
 
り助さん「二人旅」
わーい、り助さん!
り助さんの「二人旅」は何回か聞いたことがあって、淡々として前座さんらしい「二人旅」なんだけど、なんか時折以前はなかった激しさがちらり。
んん?なんだ?
なんかおばあさんの受け答えに一瞬狂気が…?あれ?気のせいかな、みたいな。
やはりこの方は計り知れない…何かとてもやりたい落語があるような…そんな気がする。気になる。
 
司師匠「浮世床(夢)」
浮世床(夢)」って結構好きな噺なんだけど、色っぽくてよかった~。
この芝居で初めて続けて司師匠を見たけど、芸がきれいで毎回違う噺をしてくれて、 好印象。なにせその前が毎日「面白くなくても笑え」「祝儀持ってこい」「今どき三千円で面白いことなんかないんです」の恫喝漫談なだけに…。浄化作用があってほんとにありがたかった。
 
甚語楼師匠「新聞記事」
明るくてすごく楽しい「新聞記事」。
天ぷら屋のたけさんの話を聞いたはっつぁんの喜ぶこと喜ぶこと。もうめちゃくちゃ嬉しそうだし、はっつぁんの前のめりがこちらにも伝わってきておかしくてしょうがない。
こんな噺がこんなに面白いってすごいな。
 
小ゑん師匠「下町せんべい」
江戸前へ憧れる男の子と下町のせんべいやのおじさんの会話がひたすらおかしい。
おじさんの口調がきれいな江戸弁でそれにいちいち反応する男の子がおかしいし、後半の展開もおかしくておかしくて。笑った笑った。
 
一朝師匠「幇間腹
若旦那も一八もからっとしているので気の毒さがなくてひたすらばかばかしくて楽しい。
テンポが良くて口調がよくて楽しいなぁ。
 
南喬師匠「猫の災難」
お酒のまうらから「猫の災難」。
休日、朝湯に行って帰ってきて、隣のおかみさんから猫のおこぼれの鯛の頭と尻尾をもらってご機嫌のくまさん。
酒が飲みてぇなぁとおもっているところに兄貴分がやってきて酒は俺が用意すると言ってもらえる。
お酒を前にしたくまさんが我慢しきれず湯呑で一杯。一杯飲んだあとに、ちらりと酒瓶を見る顔がたまらなくおかしい。
我慢できなくて二杯。その後「そうだ、あいつの分は別にしておいてやろう」に、ああ、もうここまでくるとだめなんだわーと笑ってしまう。
言い訳を考えつくと「もうそうするっきゃない」と腹をくくって全部飲み切って歌ったり寂しがったりするおかしさ
最初から最後まで幸せな休日感があふれていて、楽しかった!

きのこのなぐさめ

 

きのこのなぐさめ

きのこのなぐさめ

 

 ★★★★★

悲しみの淵にいた私を、そこから連れ出してくれたのは、きのこだった―。マレーシア人の著者は、文化人類学を学ぶ交換留学生としてやって来たノルウェーでエイオルフと出会い、恋に落ちた。夫婦となった二人は深く愛し合い、日々のささやかなことも人生の一大事についても、何でも話し合う仲だった。ある日、いつものように朝早く職場に向かったエイオルフが突然倒れ、そのまま帰らぬ人となる。最愛のパートナーを失った著者は、喪失の痛みのさなか、ふと参加したきのこ講座で、足下に広がるもうひとつの世界、きのこ王国に出会う。きのこたちの生態は、不可思議な魅力に満ち満ちていた。苔むす森でのきのこ狩りの効用と発見の喜び。きのこ愛好家間の奇妙な友情と不文律。専門家・鑑定士への「通過儀礼」。絶品きのこトガリアミガサタケ。悪名高いシャグマアミガサタケ。色・形・匂いの個性とその奥深さ。とっておきの、きのこレシピ。悲しみの心象風景をさまよう内面世界への旅と、驚きと神秘に満ちたきのこワンダーランドをめぐる旅をつづけ、魂の回復のときを迎える、再生の物語。約120種類のきのこが登場。 

 素敵なタイトルを目にした時から読もうと決めていたのだがてっきり小説だと思い込んでいた。

夫を急死で失った作者が、きのこ講座に通い森に入りきのこを探し勉強していく中で、きのこの魅力にとりつかれ、徐々に生きる目的を取り戻していく。

きのこの見分け方やフィールドワークのやり方からきのこ仲間との付き合い方まで…きのこに特に興味がなかった私も読んでいるうちにかごを持ってきのこを探しに森に入って行きたくなる。

何かに熱中している人がそのことを熱を持って語るのを聞くのは本当に楽しい。そして何かに夢中になることは生きる糧を与えてくれると教えてくれる。

とても良かった。

寅さんに学ぶ日本人の「生き方」

 

寅さんに学ぶ日本人の「生き方」

寅さんに学ぶ日本人の「生き方」

  • 作者:志村 史夫
  • 発売日: 2008/08/23
  • メディア: 単行本
 

 ★

本来“衣食足りた”日本人は“礼節を知る”はずだった。現代の日本人は礼節を失ったばかりでなく、「恥を恥とも思わない」輩がいたるところに闊歩している。いまこそ「寅さん」で日本人の忘れものを取り戻そう。 

「現代の日本人が忘れている義理と人情、古き良き美しい日本人を取り戻そう」などと言われると、某政治家のスローガンのようでぞっとしてしまうのだが、ここでは今の政治家とは正反対の美徳を言っているのである。

この本は12年前に書かれていて「今の日本人は物質的に豊かになったけれど精神が貧しくなった」とあるのだが、今の日本の状況についても著者は同じように考えているのか?と問いただしてみたくもなる。ブラック企業や貧困家庭で育つ子ども、拡大する非正規雇用については?今の政治家については?

そしてそうは言ってもあなたもいわゆる「インテリ」で上の方にいる人間だよね?寅さんがいいのはもちろんだけど、そういう人にとやかく言われたくないよなぁ…と、あまり素直な気持ちで読めなかった。

結論。私は寅さんが大好きだけど、寅さんで「日本人」とか「精神」を説かれたくない。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/22(土)、鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。


・辰ぢろ「狸札」
・なな子「味噌豆」
・アサダ二世 マジック
・小ゑん「ぐつぐつ」
・司「湯屋番」
ロケット団 漫才
・甚語楼「浮世根問」
・志ん輔「酔っ払い」
・正楽 紙切り
・さん喬「抜け雀」
~仲入り~
・ストレート松浦 ジャグリング
・歌武蔵 いつもの
・一朝「鮑熨斗」
・橘之助 浮世節
・南喬「寝床」


小ゑん師匠「ぐつぐつ」
いかが抜けちゃったイカ巻きさんの「俺だから今…イカ巻きのような…イカ巻きでないような…そんな心持なんだ」のセリフが妙に心に沁みた今日。
何回聴いても楽しい。

 

甚語楼師匠「浮世根問」
死んだら行くという極楽ってどこらへんにあるんですか?の質問にご隠居が「西の方だよ」と答えても全然納得しないくまさん。
実はこの間も宇宙の果てを他のご隠居さんに聞いて聞いて2時間ねばった挙句最後は隠居が「カネをやるから帰ってくれ」。
これで味をしめて、あれ以来近所の年寄りの家を回ってる、というのに大笑い。
ねばるくまさんと、この噺を楽しんでいる甚語楼師匠が重なって、なんともいえず楽しかった。

 

さん喬師匠「抜け雀」
何度聞いてもさん喬師匠の「抜け雀」はいいなぁと思う。
だれるところがないし、絵が浮かんでくるし、宿屋の主人の善良さが最後にぼわっと浮かび上がってきて、なんとも気持ちいい。

南喬師匠「寝床」
長屋のだれだれは来られるのかい?と主に聞かれるたびに、繁蔵がいちいちびっくりするのがなんともいえずおかしい。
がんもどきの製造法をいかにも大変なことのように丁寧に説明するのも、頭が成田のごたごたで出かけなきゃいけないのも、説明が進むにつれて調子が出てくる面白さ。
「それじゃお前はどうなんだ?」と聞かれた繁蔵が身体をひっくり返すようにして驚くのも、南喬師匠のしぐさの大きさがなんともいえない楽しさを導いていて、楽しい。

最後は旦那が「店立てだ!」と騒いだものだから番頭が一軒一軒回って、みんなしぶしぶ顔を出す。
その中に小さな子供がいて「おい、大丈夫かい、こんな小さいうちから」「ああ、小さいうちから聞かせて抵抗力をつける?…なるほどねぇ」。
大げさなところは一つもないのに、なんともいえず楽しい「寝床」だった。

 

寅さん大全

 

寅さん大全

寅さん大全

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1993/12
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

寅さんの「思いおこせば懐かしき、恥ずかしきことの数々」一挙紹介。詳細なデータをもとに、寅さんの人生、恋、人間学、寅さんの家族など、寅さんと彼を囲む人々の魅力を探った究極の寅さん大事典。写真600点収録。 

寅さんに関する蘊蓄や豆知識、データがたっぷりでとても面白かった。

特に面白かったのが元テキヤの秋山さんによる「テキヤ稼業の本音」。
祭縁日で商売ができて、売り物に本などの腐らないものを扱っていて、「タンカバイ」という特別の才能を持っている寅さんは、非常に地位の高いテキヤ
顔と芸で全国通っている寅さんはテキヤにとってファンタジー的存在だという指摘は興味深い。

歴代マドンナや恋敵の一覧、とらやに戻ってくるときのパターン等がまとめれているのも面白いし、全体の文章もいいんだよな。名著なのかも。

鈴本演芸場2月下席昼の部

2/21(金)、鈴本演芸場2月下席昼の部に行ってきた。


・市松「牛ほめ」
・つる子「やかん」
・アサダ二世 マジック
・歌武蔵 いつもの
・司「狸札」
ロケット団 漫才
・甚語楼「花色木綿」
・琴調「木村長門守 堪忍袋」
・楽一 紙切り
・さん喬「ちりとてちん
~仲入り~
・ストレート松浦 ジャグリング
・小ゑん「ほっとけない娘」
・一朝「湯屋番」
・小菊 粋曲
・南喬「らくだ」


甚語楼師匠「花色木綿」
「出来心」というタイトルが凄く好きなので、時々「花色木綿」と書かれることもあるけど「いやあくまでも出来心でしょう」と言い張りたい気持ちもありつつ、甚語楼師匠のはサゲまでいかなかったし「花色木綿」が実にテンポよく繰り返されていたからやっぱりこれは「花色木綿」なのかな、と。
泥棒稼業だけで生計をたてていた男の家がニュースで流れたら、玄関に警備会社のシールが貼られていた、というまくらもすごくおかしかった。


琴調先生「木村長門守 堪忍袋」
わーい、初めて聞く話。
最初に登場して頭を下げて張扇を叩く音にドキッとするんだけど、話始めると柔らかくてほっとする。
戦うところのシーンなんかのしぐさは実にかっこよくてほれぼれ~。
緩急があってとても楽しかった。

 

さん喬師匠「ちりとてちん
仲入りさん喬師匠の安定感。どんな時でもどんなお客さんでも高座にぐわっと引きつける。すごいなぁ。
におってきそうな「ちりとてちん」。
「なるほど食べ方が難しいんですね。喉から入れたり出したりする」に大笑い。

 

小ゑん師匠「ほっとけない娘」
何度聞いても笑ってしまう。
会社の同期で今ではかなりえらくなった二人がお酒を飲んでいて、一人が娘が仏像めぐりにはまって全然結婚しそうもないと嘆くと、もう一人が「大丈夫だよ。気立てもいいし美人だし」と言った後に、携帯の着信を見て「ああ、大仏か」。
この大仏くんの仏っぽいエピソードがどれも秀逸でおかしくておかしくて。
楽しかった~。

 

南喬師匠「らくだ」
南喬師匠の「らくだ」は初めて!嬉しい!
兄貴分の半次が屑屋さんを脅すセリフがどんどん物騒になっていくのが面白い。
また何度も「勘弁してくださいよ」「窯の蓋が開かないんですよ」と言う屑屋さんの気の弱そうなところ、まじめそうなところが、後から反転する楽しさ。

お酒を勧められた屑屋さんは一杯目から「あれ、これうまい酒ですね」とお酒好きを偲ばせる。
3杯目になるともうじっくり味わい始めてあれこれ話し始める。
最初に勧められて「これはお長屋のみなさんがいらしたときに」と固辞した煮しめも3杯飲むと「それを出さねぇか」「言われなきゃ気が付かねぇ。気が利かねぇんだなぁ」。
最後は「もう今夜は帰らねぇぞ!」。
ほんとに飲むほどにどんどん目の前で酔っぱらっていく屑屋さんが見ていて愛おしくなってくる。

ああ、南喬師匠の落語はいいなぁ。好きだなぁ。
今年はもっともっと南喬師匠の落語、見たいなぁ。