雲助の会
雲助師匠「徳ちゃん」
お客様から時々言われることがあります。「雲助さんが吉原に行ってた時はどうでした?」
私が10歳の時に吉原はなくなりましたからどんなませたガキだったからといってさすがに行ってません。
でも私が噺家になったばかりの頃は今みたいにソープランドばかりじゃなく、昔の建物をそのまま「旅館」として使ってるお店もあって、まだ風情も残ってました。
勉強のために通いましたが…と言ってそのころの思い出をあれこれ。これがとっても楽しい。
噺家だということがいつからかバレて、通りかかると「噺家!今日も泊っていきなよ!」と声をかけられるように。
「今日は金がねぇんだよ」と言うと「いいよ。あるだけで」。
おお、これが「なじみ」になるっていうことか、とちょっと嬉しくなって上がると、普通の部屋じゃなくて布団や座布団なんかが置いてある部屋に通された。そこではおかみが座布団カバーにアイロンをかけていて「これやってくれたら今日はタダでいいよ」。
さすがにアイロンは断りました、に大笑い。
そんなまくらから「徳ちゃん」。雲助師匠の「徳ちゃん」は初めて!うれしい~。大好きな噺。
わだかまってる…ぶわはははは!!最高。
花魁が色っぽくてでもちゃっかりしていて、善さんがおまぬけでお人好しで、二人の様子や品川の海が目に浮かんでくる。
海から上がった善さんに犬が吠えかかってくるところがすごくおかしくて(雲助師匠の顔!)大爆笑。
夜中に訪ねて行った親分の家のドタバタにも大笑い。
後半の仕返し部分も好きなので通しで聴けて嬉しかった~。
中央駅
★★★★★
韓国文壇界、新進気鋭の若手作家による長編小説!
日経新聞に書評掲載など、 国内でも反響の大きかった
『娘について』の著者、キム・ヘジンが、
絶望の淵に立つ男女の愛を描き出す…本邦初訳!これがどん底だと思ってるでしょ。
違うよ。底なんてない。
底まで来たと思った瞬間、
さらに下へと転げ落ちるの―― (本文より)路上生活者となった若い男、同じく路上で暮らしながら、
毎晩、際限なく酒をあおる病気持ちの女。
ホームレスがたむろする中央駅を舞台に、
二人の運命は交錯する。『娘について』
(亜紀書房刊)を著したキム・ヘジンによる、
どん底に堕とされた男女の哀切な愛を描き出す長編小説。
主人公は若い男のホームレス。彼がどういう人間で、なぜそうなってしまったのかという事情は一切語られない。
ある晩ふらっと現れて彼の隣で眠り、翌朝全財産が入っている彼のスーツケースを盗んで消えていった女。彼女を探しだして半殺しにしてやると息巻くが、いざ彼女を見つけると離れることができなくなる。
毎晩身体をかわすようになり、男はほんのわずかな希望を抱いてはまた落ち…を繰り返す。
これは愛なのだろうかと男は何度も自問するが、間違いなく愛だったのだとも思えるし、彼が捨て去ったつもりの未来を夢見る道具だったのかもしれないとも思える。
とてもヘヴィな物語で読んでいて何度も目を逸らしたくなったけれど、物語の吸引力が凄くて引きずり込まれるようにして読んだ。キム・ヘジン…凄い作家だ。
紀伊国屋寄席
・一花「黄金の大黒」
柳家小三治独演会
そんなエピソードの後に「公園の手品師」。
楽屋半帖
1/27(月)、駒込落語会で行われた「楽屋半帖」に行ってきた。
~仲入り~
「え?なんで?さっき川口だったのになんでナイロビ?
レンタルなんもしない人のなんもしなかった話
★★★★★
本書は2018年6月3日に「レンタルなんもしない人」というサービスがスタートした時から、2019年1月31日「スッキリ」(日本テレビ)出演まで、半年間におこった出来事をほぼ時系列で(だいたい)紹介するノンフィクション・エッセイです。本当になんもしてないのに次々に起こるちょっと不思議でこころ温まるエピソードの数々。
twitterでは見てるけどこうしてまとめられるとなんとなくこの方のやりたかったことが少しだけわかるような気がする。
実験して観察して考察する、いかにも理系な感じ。これがもう少し文学的というか情緒的になると長続きしないんだろうな、と思う。
人として線の細いところと太いところがあってそのバランスが絶妙。面白い人だなと思うけど、面白すぎないところもいいのかも。
あとやっぱり面白いことが好きなんだろうな。読んでいて何度か声を出して笑ってしまった。
なんもしないにこだわって時にはちょっと頑張って「なんもしないをしている」ところが垣間見れたのも面白かったな。
それにしてもいろんな人がいるなぁ。人間って面白い生き物だな。
あれも凌鶴これも凌鶴
1/26(日)、道楽亭で行われた「あれも凌鶴これも凌鶴」に行ってきた。
・凌鶴「蘇生奇談」
・凌天「吉岡治太夫」
・凌鶴「近衛秀麿」
~仲入り~
・凌天「矢取勘左衛門」
・凌鶴「前座ポスト」
短篇集ダブル サイドB
★★★★★
老境を描いた詩情豊かな作品「昼寝」。息もつかせぬ「ルディ」。兵役を控えた若者たちを描いた「ビーチボーイズ」。奇天烈な宇宙SF「ディルドがわが家を守ってくれました」。暗示的な「膝」。全8篇どこから読んでも傑作!日本の読者へのメッセージも!
サイド Aからあまり間をおけずに読めてよかった。
「昼寝」に描かれるどうしようもない絶望と小さな希望にヒリヒリする。
子どもがいたっていなくたって行きつく先は不自由な体と死ぬのを待つだけの日々なのだろうか。それでも認知症を患った初恋の人の手を握るシーンは美しい。
「ルディ」自分の価値観や善悪が吹き飛ぶような暴力。積み上げてきたつもりのものが失われていく無力感。お互いを憎みあいながらももうお互い無しでは生きていけないような…私とルディはいったい誰と誰なのだろう。
「アスピリン」は理解も納得もしていないけど慣れるのだけが上手な彼らが他人とは思えなかった。
「ティルドがわが家を守ってくれました」は「銀河ヒッチコックガイド」にも共通するユーモアがあって好きだ。八方塞がりの現実、もう逃げ道は宇宙にしかないのかも。
描かれているのは絶望的な状況ばかりなのに少し笑える。このユーモアがたまらなく好きだ。
とてもよかった!
五街道雲助独演会「お直し」を聴く
1/25(土)、社会教育会館で行われた「五街道雲助独演会『お直し』を聴く」に行ってきた。
・あられ「まんじゅうこわい」
・雲助「身投げや」
・雲助「初天神」
~仲入り~
・雲助「お直し」
雲助師匠「身投げや」
何度見ても面白い。
身投げを止めてくれた人を頭から足の先までじっくり見て値段を決めるのがおかしいし、「こいつは金持ちだ」と見込んで言った額の半分しか持ってないと聞いて「値切るとはあんまりじゃぁねぇか」と言うのにも笑ってしまう。
後から出てくる父子がどこをどう見ても怪しいのもおかしくて、楽しい~。
話し終わったあとにいったん引っ込むと思ったのか音楽が鳴ったのを止めて、そのまま二席目…というのもなんか贅沢で嬉しい。
雲助師匠「初天神」
今日は1月25日。今日「初天神」をやらないでいつやるんだ、と言いながらの「初天神」。うわ、雲助師匠で「初天神」ってなんかとっても珍しい気が。
金ちゃんがちゃっかりしているけど、父子のやりとりがしつこくないのがとても雲助師匠らしくて好き!
飴買っておくれよと言われて「買わないって約束だろ」と言うんだけど「そんなに高いもんじゃねえよ」と言われると「ま、それもそうだな」。
飴を舐めながら選ぶところもあっさりしているから、「ああ、ついやっちゃったんだな」感。
だんご屋に声をかけると「いらっしゃーい」と地の底から湧き出たような暗い声。
「お前なんだ客商売のくせにそのやる気のない声は。みつちょうだい。え?そんなするの?」と受け取って「あーみつが垂れるじゃねぇか」と舐めはじめて、なめながらだんご屋に小言。ああ、これも自然に舐め切っちゃった(笑)。
凧をねだられた時はもうおとっつぁんめんどくさくなちゃって言いなり(笑)。
「大きい凧は売らねぇんだよな?」と凧屋に聞くと「いいえ、売りますよ!」。
そう言われて「てめぇら、グルだな」。
凧を上げ始めるとすっかり楽しくなっちゃって隣の子どもに「じゃまだからどけ。え?どかない?やるのか?」と言って凧で喧嘩。「ほーら、糸が切れて飛んでいっちまいやがった。ざまぁみろ!」。
子どものような父親がとてもチャーミングな「初天神」だった。なによりくどくなくていい!
雲助師匠「お直し」
売れなくなってきて落ち込んでいるところに優しい言葉をかけられてほろっとなる花魁。
店の主人のお慈悲で二人でそのまま働けるようになって徐々に家財道具も揃って働くことに張りが出てくる女に反して、遊ぶようになる亭主。
すっからかんで帰って来た亭主に「けころ」をやろうと言われ、渋々ながら承知。
出る前に化粧をする姿の色っぽさ…。そして声を掛けていい客かどうかを見定める手慣れた様子に、この女が若いころに相当な地獄を見て来たことをうかがわせる。
入って来た客は気のいい酔っ払いの職人で、このやりとりの部分が明るくて楽しくて和得るところが好き。
亭主の焼きもちで「直してもらいなよ」と言われても「ずいぶん直しがはやいな」と言いながら言いなりになってほくほく金を出すのが可愛らしい。
それだけに二人になってからの会話に涙涙。
とてもよかった。雲助師匠の「お直し」はほんとに絶品だなぁ。
末廣亭1月下席夜の部
1/24(金)、末廣亭1月下席夜の部に行ってきた。
・夢花「魚根問い」
・マグナム小林 バイオリン漫談
・歌蔵「真田小僧」
・蝠丸「八百屋お七」
~仲入り~
・小助六「紋三郎稲荷」
・ニュースペーパー コント
・談幸「短命」
・遊吉「うなぎや」
・正二郎 太神楽
・小文治「七段目」
蝠丸師匠「八百屋お七」
久しぶりの蝠丸師匠。会いたかったよーうぉーーん。
「正座ができないもんですからちょっとずるしてます」とおっしゃっていたけど、全然わからなかった。
「今日は珍しい噺を」と言って「八百屋お七」。
ゆるゆるっとしているからこちらもゆるゆるっと聞いているんだけど、脱線もお客さん参加もほどがよくて本当に楽しい。
今年は蝠丸師匠の高座、たくさん見られますように!
小助六師匠「紋三郎稲荷」
うーん。かっこいい。
ふわっと出てきて楽しそう~にまくら話してゆるゆるっと珍しい噺。
乗せた客が「お狐様だ」とおびえる駕籠屋もおかしいし、村の人たちが一目でいいから拝ませてほしいとやってきてると聞いて賽銭箱を用意させるのも楽しい。
さすが地元(松戸)!こういうこともあったのかもね、と思わせる楽しい「紋三郎稲荷」だった。
談幸師匠「短命」
見るたびに談幸師匠がかる~くなっている気がする。芸協らしくなってきてる?(笑)
お決まりの噺だけどとっても楽しい。隠居の匂わせ方も「ほら、わかるだろ」みたいな目配せで、その繰り返しがおかしい。
ようやく合点がいったはっつぁんが家に帰って来たときのおかみさんのドスの聞いた「おかぇりぃー」に大爆笑。
テンポがよくて明るくて軽くて楽しかった~。
遊吉師匠「うなぎや」
遊吉師匠も久しぶり。早口だけどすごく聞きやすい。言葉数を調べたらおそらくものすごい上位にくるのではないかしらん。
「うなぎや」もたいてい前半がダレちゃうんだけど、とにかくスピードが速いからダレる暇なし(笑)。
主人が鰻をつかみながら店を出ていくスピードも心なしか速く感じておかしかった~。
小文治師匠「七段目」
若旦那が芝居をやりながら店に帰ってきて、見物人が大勢付いてきちゃってるっていうのがおかしい。
歌舞伎のしぐさがとても堂に入っていてきれいで、思わず見とれてしまう。きれいな師匠だなぁ…。
定吉と二人で芝居をやる場面がしつこくないのもよかった。
久しぶりの定席。楽しかった~。いい番組だった。
靴ひも
★★★★★
老夫婦が夏のヴァカンスから自宅に戻ると、留守宅が何者かに荒らされていた。家具は倒され、あらゆるものが散乱し、猫が姿を消している。困惑する夫が目にしたのは、40年前、夫が家を出たことをなじる妻からの手紙の束。決して癒えることのなかった過去の傷跡が、次第に浮き彫りにされてゆく。家族はどこへ向かうのか―。ジュンパ・ラヒリによって英訳され、「ニューヨーク・タイムズ」2017年“注目の本”に選ばれた話題沸騰のイタリア小説。
面白かった!!夫婦や家族のありかたについて考えさせられる。
夫、妻、子どもたち、それぞれに言い分があってどれも分かる。勝手だなぁ…と思うけれど、でも分かる。
夫婦がいがみ合っていたらその犠牲になるのは子どもだけれど、子どもだっていつまでも子どもでいるわけじゃない。
そう考えると親だって最初から大人なわけじゃなく子どもが大きくなっただけのことなのだ。
第一部を鬱々とした気持ちで読んだけれど二部、三部とすすむにつれ、爽快感すら。
欲望と罪悪感、裏切りと報復。
夫が一時的に家族を棄てたことを決して夫を許さない妻。そんな妻の顔色だけを窺う夫。それでも「子どものため」と言って別れることができない。子どもたちはそんな両親の関係を見て育ち、両親への嫌悪を募らせていく。
人間は愚かだなぁ…。でも愚かなりに生きていくしかないんだよな。
壊したところから何が始まるのか、ちょっと見てみたい気がする。
秘密
★★★★★
結婚する機会があったのに結婚を選ばなかった、あるいは選べなかった女性の物語が4話。
自分の生い立ち故に結婚はしないと決める女性の頑なさ。その一方で押し切られたり断りきれなくて別の相手と結婚してしまう男たち。
「毀れた絵具箱」「遠い華燭」は何ともいえず嫌な感触が残る物語(でも嫌いじゃない)。
「雑踏」「秘密」は苦さもあるけれどふわっと笑ってしまうようなところがあってとても好きだ。
面白い作家さんだなぁ。誰とも似ていない味わいがあって次々読んでみたくなる。
ほとんど絶版になってしまっているのがもったいない。こうして読めるのは図書館のおかげ。感謝。
小燕枝落語手帳
・ 小燕枝「替り目」
楽しかった~。最初から最後までとても楽しい「御慶」だった。
やっぱりこの噺って結構難しいんだな。
言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか
★★★★★
二〇一八年、M‐1審査員に抜擢された芸人が漫才を徹底解剖。M‐1チャンピオンになれなかった塙だからこそ分かる歴代王者のストロングポイント、M‐1必勝法とは?「ツッコミ全盛時代」「関東芸人の強み」「フリートーク」などのトピックから「ヤホー漫才」誕生秘話まで、“絶対漫才感”の持ち主が存分に吠える。どうしてウケるのかだけを四〇年以上考え続けてきた、「笑い脳」に侵された男がたどり着いた現代漫才論とは?漫才師の聖典とも呼ばれるDVD『紳竜の研究』に続く令和時代の漫才バイブル、ここに誕生!
面白かった!
芸協の寄席に行ってナイツに当たるとすごい得した気分。それは二人がリラックスしているけどいつも本気で面白いことをやろうとしてくれているから。
これを読むと塙さんがどれほど漫才を愛していてM1をどういう目で見ているのかがよくわかる。
M1は一時期、毎年楽しみに見ていたので、ああ…あの年はそうだったとかあのコンビはそうだったのかと、とても興味深かった。
この本の中でも言われていたことだけど、本当に好きなことを語る人を見るのはとても楽しいし幸せな気持ちになるなぁ。よい!