りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

刑罰

 

刑罰

刑罰

 

 ★★★★★

黒いダイバースーツを身につけたまま、浴室で死んでいた男。誤って赤ん坊を死なせてしまったという夫を信じて罪を肩代わりし、刑務所に入った母親。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護することになった新人弁護士。薬物依存症を抱えながら、高級ホテルの部屋に住むエリート男性。―実際の事件に材を得て、異様な罪を犯した人々の素顔や、刑罰を科されぬまま世界からこぼれ落ちた罪の真相を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』で読書界を揺るがした短篇の名手が、真骨頂を発揮した最高傑作! 

人間の犯す罪とそれに与えられる罰との乖離。
司法も万全ではなくまた裁判官も殺した人殺された人と同じ人間だ。「参審員」、自分には到底つとまりそうにないなぁと思いながら読んだ。もともと不安定だった自分の足元が崩れていくような恐怖。
そして人間の内面は複雑で計り知れない。自分には理解できないような何かをなによりも大事にする人もいれば、人の命をいともたやすく奪う人もいれば、いたいけな少女を騙して恐怖を与え商売をする人もいる。
楽しい話ではないので自分のコンディションで陰鬱な気持ちになったり読み物として楽しめる時があるけれど、今回は面白く読んだ。

「青く晴れた日」「リュディア」「湖畔邸」が面白かった。

東西三人会

9/26(木)、駒込落語会で行われた「東西三人会」に行ってきた。

・坊枝「時うどん」
・たこ蔵「ざる屋」
・さん助「黄金の大黒」
~仲入り~
・坊枝「百年目」

 

坊枝師匠「時うどん」
こちらの主催者の会が今年で20年目ということでおめでとうございます、と坊枝師匠。普通こういう会をやってみると一度で気づくもんです。やらんほうが良かった、って。それでやめる人がほとんどなのにこちらでは20年。よっぽど鈍感なんですな。鈍感力、すごい。まぁ我々噺家にとったらありがたいことですが。
それから今日は主催者から「百年目」をリクエストされています。私、人情噺はしないんですよ。滑稽噺ばかりやってる。しかも春の噺だし…上方だと鳴り物が入るんだけどそれもないし…ほんとになんでやねん!なんですが…仲入りの後にやります。おもろないので仲入りで帰ってもええです。

そんなまくらから「時うどん」。明るくて迫力があってとっても楽しい。
弟分の相手をする蕎麦屋さんが怖がるのも無理もない!最初から最後まで大笑いだった。


さん助師匠「黄金の大黒」
坊枝師匠とは二ツ目の時に銀座で会を一緒にやらせていただいたことがあります、とさん助師匠。憧れの先輩で夕べは緊張と嬉しさで一晩中眠れませんでした。…おかげで明け方寝入っちゃったんですが。

そんなまくらから「黄金の大黒」。
おお、たこ蔵師匠が「ざる屋」で、さん助師匠がこの噺ってことは、お祝いだからってことなのかな。
おまんまに恋い焦がれるとめちゃんが何度聞いてもおかしい。満州でサーカスの口上をやってた「とざいとーざーい」も素っ頓狂で笑った~。楽しかった。

 

坊枝師匠「百年目」
一席目のまくらで「いやだいやだ」とおっしゃっていたけど、とても素敵な「百年目」だった。
番頭さんが着物を着たり脱いだりするところ、力いっぱいされるので大笑いだった。
そして大旦那がいい!上方の言葉だとより優しさが伝わってくる気がする。優しい言葉に涙…。

よかった~。
予約したのに通ってなかったり、ここの会場のお客様と坊枝師匠のお客様で固められていて、私のような客はお呼びでない雰囲気ではあったけど、落語自体はとても楽しかった。

ぎやまん寄席 柳亭小燕枝・柳家小里ん兄弟会

9/26(木)、湯島天神参集殿で行われた「ぎやまん寄席 柳亭小燕枝・柳家小里ん兄弟会」に行ってきた。

・り助「二人旅」
・小里ん「黄金の大黒」
・小燕枝「長短」
~仲入り~
・小燕枝「無精床」
・小里ん「木乃伊取り」


り助さん「二人旅」
誰とも目を合わせない黒目がちな目で淡々と話しているんだけど、ところどころぐわっ!と面白い。たくまず面白い。なんだろう、これはいったい。
なにかこう…人里離れた山奥の老人と動物しかいない村から連れてこられた若者…みたいな…そんな野性味…。
二人旅がこんなに面白いって…ただものじゃない。

 

小里ん師匠「黄金の大黒」 
小燕枝師匠とともに内弟子だった小里ん師匠。その時の思い出をあれこれと。もうこれが面白くて面白くて!
笑ったのが、師匠のお宅では師匠夫婦が二階で寝て、小燕枝師匠と小里ん師匠は一階に二人で寝たんだけど、初めて泊まった晩に小燕枝師匠が「俺、どちらかというと女より男の方が好きなんだ。もしおれが布団に入ってきても大きな声は出すなよ」と一言。もうおそろくてその晩はまんじりともしなかった。
次の朝起きると小燕枝師匠が「お前…夕べ眠れなかったろう?ぐわははははは!!」

…おかしい!!笑った笑った。
そんなまくらから「黄金の大黒」。
奇しくも昼の落語会で聞いてきたばかりの噺。ふふふふ。楽しい~。

長屋の連中のどたばたがとっても楽しい。大家さんの家のごちそうで競り合う男たちの真剣さとばかばかしさ。最初から最後までテンポよくとっても楽しかった。


小燕枝師匠「長短」
風邪をひいてしまっていつもの美声をお聞かせできない、と小燕枝師匠。熱もあるらしく具合が悪そうで心配。
で、小燕枝師匠も前座時代の思い出をたっぷり。
内弟子をしていると師匠といる時間が長いから師匠と落語の話もたくさんできて勉強できるだろうと思われるかもしれないけど、それ以外の仕事がたくさんあるのでなかなかそうはいかない。ましてやこちらはたかが「前座」という身分。
通いの弟子は週に一回とか来ればいい。自分たちはずっといなくちゃいけない。それが辛かった。
脇の仕事も通いの弟子はいくらでもできたけど、我々は師匠が断っちゃうからできなかった。
そして師匠と一緒にいる時間が長いということは、それだけしくじる可能性も高いということ。

自分で「あれ?おれ、何を話そうとしていたんだっけ?」「こんなにまくらが長くなっちゃって小三治さんじゃあるまいし」なんて言いながら…でもこの話が本当に楽しくて。楽しかった~。

そんなまくらから「長短」。初めて小燕枝師匠を見た時が「長短」で、ハートを射抜かれたんだよなぁ。
とってもチャーミングな「長短」。かわいい!

 

小燕枝師匠「無精床」
「私のようなせこな頭でも月に2,3回は床屋に行ってます」。
前座時代に無精ひげを伸ばしていて師匠にぶちぶち抜かれた話やパーマをかけたらおかみさんをばかにしくじった話など。
床屋さんのまくらもとっても楽しかった。そんなまくらから「無精床」。

親方が理不尽に感じ悪く演じる人もいるけど、小燕枝師匠のは明らかにからかってる風で軽くて楽しい。笑ったのが頭をしめらす水にいるのがぼうふらじゃなくて違う生き物。「もうぼうふら飽きちゃったんだよ」に大笑い。

具合がわるそうな小燕枝師匠だったけど、時々せき込みながらも楽しい二席だった。

 

小里ん師匠「木乃伊取り」
「長いまくらのあとに”長短”なんて…あにさん、人間国宝をとるつもりですかね」に笑う。
大旦那、おかみさん、若旦那、番頭、頭、そして清蔵とキャラクターがくっきり。
特に清蔵のシャレの通じない固いところ。おかみさんの情にほだされて絶対に自分が若旦那を連れて帰ってやる!と肩に力が入るところがとてもリアル。
飯炊きっていうのは奉公人の中でも地位はかなり低いんだろうな。だから大旦那も若旦那も「お前ごときが何を言うか」という態度なのだ。
でもそれをものともせず迎えに行く清蔵の男らしさよ…。

それだけにお酒を飲んでだんだん楽しくなってきて花魁にお世辞を言われて天にも昇る気持ちになって浮かれるところがかわいらしい。

たっぷり見せてもらって満足~。

鈴本演芸場9月下席 柳家わさび真打昇進披露興行

9/25(水)、鈴本演芸場9月下席 柳家わさび真打昇進披露興行に行ってきた。

文楽「看板の一」
馬風 漫談(美空ひばりメドレー)
・小菊 粋曲
・権太楼「代書屋」
~仲入り~
・真打昇進披露口上(吉窓:司会、正蔵、わさび、さん生、馬風、市馬)
翁家社中 太神楽
正蔵「松山鏡」
・市馬「蝦蟇の油」
・正楽 紙切り
・わさび「出待ち」


真打昇進披露口上(吉窓師匠:司会、正蔵師匠、わさび師匠、さん生師匠、馬風師匠、市馬師匠)
正蔵師匠
さん生さんと私は同じ時期に前座修行をした仲間。とても江戸前でいい噺家さん。大師匠にあたる小満ん師匠は噺家のあこがれの的。そのDNAを一切感じさせないわさびさん(笑)。
でもこの間渋谷の仕事で一緒になったら、若い女性のファンがわさびさんの出待ちをしていた。聞いてもいないのに私に向かって「私たちわさびさんのファンなんです!正蔵さんもがんばってください」と言われました…。

市馬師匠
古典、新作だけではなく、笑点に出たり、映画で主役もやってる。落語協会に欠かせない若手という存在になるだろう。

やっぱり「落語物語」で主役を張ったというのは口上の時に何度か師匠方からも話に上がっていて、すごいキャリアになってるんだな、と思う。あれはよかったもんなぁ…。司会の吉窓師匠が司会は久しぶりということでちょっとわたわたしていて、でも心のこもった口上でとてもよかった。やっぱり晴れの席だからあれぐらいの師匠になっても緊張するんだなぁ。
あとは、馬風師匠が並んでいるので、お決まりのいつもの形の口上。様式美…。


わさび師匠「出待ち」
自分は師匠に憧れて入門した。今も師匠へのあこがれは増すばかり。真打が決まってお披露目が始まって…うちの師匠は披露興行のことをtwitterでつぶやいてくださる。さらには私の高座を見て面白かったと書かれているとそれをリツィートしてくださる。そんな師匠、いますか?かっこよくないですか?
…おおおお。いきなり師匠愛の吐露!でもほんとにこの興行、さん生師匠が嬉しそうで、見ていてうるうるきてしまう。内弟子だし感慨もひとしおなんだろうなぁ。

初日に私は「高野高尾」をやったんですけど…twitterに「わさびさんの高野高尾、菊之丞師匠に比べると…」という感想を目にしまして…比べるとどうなんだよ!いや…菊之丞師匠と比べられること自体が光栄なことですけど…でも!と。私、めちゃくちゃエゴサーチします。

…ぶわははは。おかしい~。なんかわさび師匠(って呼ぶのがまだ違和感ありあり)がいつもの…月ワサの時のわさびさんで嬉しくなる。

我々落語家はみな師匠や落語家に憧れてこの仕事に就いてます。やっぱりなんでも始まりは憧れなんです。そんなまくらから、先生が挙動不審の高校生に文化祭の発表について説得している場面。お、おおお、これは前に月ワサで見たことのある…初期に作った作品という…ぬおおお。

太宰治研究会の部長(部員一人)は毎年隅の方の教室で太宰治新聞を発表しているんだけど、全然お客が集まらない。それで先生が体育館で宣伝をかねて朗読をしたらどうかと勧める。部長は自分は人前で喋るのは苦手だと言うのだが、先生はあれこれ言って説得する。その中で「出待ちをする子もいるかもしれない」と口を滑らせるとその言葉に食いついた部長が朗読をやると言い出す…。
面白いのはこの部長は一声も発さない。手をぶるぶるふるわせたり、ものすごい顔で力んだりしているのだが、声が小さすぎて聞こえない。それを先生が耳をそばだてて聞いて「なになに?…それなら出てみる…?出るのか!」と通訳する、というスタイル。

わさび師匠らしい、ナイーヴでちょっとシュール…ハートウォーミングなところもある新作。
これを披露目でかけてくるか!おおおおっ、と思ったら、ファン投票一位だったらしい、この噺。

緊張してますます挙動不審になる部長とわさび師匠がシンクロしておかしさが倍増だし、面倒見のいい先生、ヤンキーの一年生、放送委員の女子、と脇役も秀逸で、まさにわさびワールド。
笑った笑った。楽しかった!

第五回 柳家さん助の楽屋半帖

9/23(月)、駒込落語会で行われた「第五回 柳家さん助の楽屋半帖」に行ってきた。

・さん助「富士詣り」
~仲入り~
・さん助「動物園」~「地獄演芸場」(三題噺「死ぬなら今」「温泉」「おはぎ」)
・さん助「宮戸川(通し)」


さん助師匠「富士詣り」
まくらなしで「富士詣り」。こちらの会では一席目にまくらがないことが多い。ドッポも昼八ツも立ったままの「挨拶」があるので、ちょっと新鮮。三題噺が控えているから緊張してるのかな。

歩けない疲れた休みたいと言われた先達さんがそういう時は「六根清浄」と歌えばいい、とやって見せるんだけど、それがすごい素っ頓狂でめちゃくちゃおかしい。
そう言われて「こうですか」とやって見せるのが「ろろろろろ…ろっこ…」って息が抜けてるのもおかしいんだけど、お手本の先達さんが素っ頓狂って。わははははは。

休憩しているとお天気が急に変わってきて、罪の告白のし合い。
邪淫戒を犯したというはっつぁんの告白がニヤニヤにやけてて嬉しそうなのが、気持ち悪いやらおかしいやら。
楽しかった!


さん助師匠「動物園」~「地獄演芸場」(三題噺「死ぬなら今」「温泉」「おはぎ」)
今まではお題を紙に書いて集めてそこからランダムに選んでいたんだけど、それだと題がかぶりがちなので、今回はお客さんを指して題をボードに書いてそこから選ぶ方式。いろいろ試行錯誤してるねぇー。
で、いきなり「死ぬなら今」というお題が出たんだけど、こういうセンス…素晴らしいなぁ。私はほんとにこういうのがダメで。ありきたりなつまらない題しか思い浮かばないんだよなぁ。
お題を決めたあとに、20分仲入りをはさんでその間に噺を考えるさん助師匠。これってすごい難易度が高いと思うんだけど…新作派でもないのにこのスタイルでやり続けているのが、エライというか男らしいというか無謀というか(笑)。

で、仲入りの後、固い表情で出て来たさん助師匠、高座に座るなり「あーーー、仕事クビになっちゃったよー」。おおっ、この間昼ハツ落語会で見た「動物園」だー!
園長がライオンの歩き方をレクチャーするところがなくて「まぁあなたやってごらんなさい」と言われて男がやるんだけど…相変わらず下手(笑)!いや…この間よりは幾分良くなってたけど、なんか変!それを見て園長が「どうしようもないほどヘタクソですな!」と言った後に「普通ここで中手が入ることもあるぐらいなのに昔から下手なんだよ!でもこれ地方でやるとウケるんだよ。だから地方ではやるけど都内でやると驚くほどスベるんだ!だから都内でやりたくないんだ!」。
ぶわはははは!!!おかしい!!
そしてサゲを言い終わったところで、「ではこの後お待ちかねの歌謡ショーです」。おお、三題噺に入った!

あーーもういやだ、〇〇温泉のホテルの仕事。歌謡ショーの前に落語なんて。誰も聞いちゃいないよ。だからやなんだよ。しかも地方だとウケるはずの「動物園」でスベるっていったいどうしてなんだよ。耳の肥えた客だったんだな。さては。草津温泉から来たのか。…って芸協じゃなきゃわからねぇよ!
あーーーやだやだ。温泉の仕事なんて。もうやりたくない。来年は絶対断ろう。あーー寄席でトリがとりてぇなぁ。そこでたっぷり1時間半ぐらいかけて「文七」やりてー。

ぶつぶつ言っているところへ「さん助師匠、お疲れさまでした」と主催者。「それでまた来年もお願いしたいんですが」「喜んでっ!!よろしくお願いいたします!」

あーーやりたくねぇって言ってたのに「喜んで」って言っちゃったよ、おれ。ほんとにもう。ま、でもありがたいからな。さ、温泉でも入ってくるか。それだけが楽しみだからな、ここの仕事の。

で、お風呂に入ってゆっくりしていると、石鹸で滑って「あーーーーー」。はっと目を覚ましたさん助。
「え?ここはどこ?」目の前にいる男が「ここは地獄の一丁目ですぞ」「え?地獄?ってことはあたし死んだんですか?」
「死んだっていうか…死にかけてるんですな」
「うわっ、そうなのか。っていうか、地獄?天国じゃなくて地獄?」
「地獄に決まってるでしょう。あなたが行くとしたら」
「…だろうな。あはははは。」
「で、どうします?」
「え?どうしよう。まぁもう俺なんか生きててもしょうがねぇからなぁ。…あーーーでもまだトリとってないし。文七やってないし。やっぱり死にたくないなぁ」
「そういうことでしたら地獄にも寄席はありますよ」
「え?あるんですか?」
「ええ、あります。地獄に落ちてからも落語は見たいっていう人は多いですから。日本人のDNAに組み込まれてるんですな。ちょっと見学してみますか。あ、それから、おはぎをどうぞ。」
「ありがとうございます。地獄にもおはぎあるんですね」
「ええ…。すっかり忘れてたので唐突に入れてみました」(わはははは!)

連れて行かれたのが地獄の寄席。その名も地獄演芸場。
地獄演芸場では客は針の筵に座った状態で落語を聴かなければならず、落語は15分におさめないといけなくて、さらに滑稽話しか、しちゃいけない。
「ええ?文七はできないんですか?」
「文七がかかるのは極楽の寄席です。あちらはお客さんも大変朗らかでよく笑うゲラのお客様。地獄の客はめったなことでは笑いません」
そしてこの寄席に出ていたのが〇志師匠。(物まねあり)
その後に出てきたのが先代の志ん五師匠。(物まねあり→にてなさ過ぎて誰にもわからない(笑))
「え?なんで志ん五師匠が?だってあの人はとってもいい人で悪いことなんかしてなさそうな…」
「そうなんですよ。本来は極楽と決まってたんですが、〇志師匠のお気に入りってことで呼ばれちゃったんです」
「そんなことがあるんですね…」
「で、今地獄演芸場で若手の噺家が不足しているんですね。それで〇志師匠も、若手が入ってきたらその人にトリをとらせると言ってます」
「え?そうなんですか。じゃ…死ぬなら今」

…おおおお!!すごくよくできてる噺じゃないか!!これって地獄八景さん助バージョン。
とっても面白かった。それもこれもお題がよかったからだよなぁ。何か私もお題で貢献したいけれど…どういうのがいいのか。うーむ。

 

さん助師匠「宮戸川(通し)」
いったん引っ込んでから(汗だく?!)、「まだ時間があるので」と「宮戸川」。
よく寄席で前半だけをかける人がたくさんいるけど、さん助師匠の場合多分通しだよね…。ぬおおお。これから宮戸川を通しで?この狭い空間で?ひぃーーー。と思っているとやはり通しなのだった。

普通の噺家さんとさん助師匠が違うのは、宮戸川の前半がほとんど笑えない(笑)。後半のための前振り的な感じ?なのかな。だったらいっそ淡々とあらすじだけ…でもいいような気が…?でも確かに通しでやることを考えると前半をユーモアたっぷりにやってしまうとギャップがありすぎてしまうから、難しいところなのかも。

後半、ならず者二人が現れるところ。声が大きくて御しがたい暴力性が垣間見えて迫力がある。
遅れてやってきた定吉がおかみさんを呼んでいると現れるのがおこもさん。ならず者がおかみさんをかどわかしていった、という言葉に「なんで助けてくれなかった?」と定吉が言うと「この通り腰が立たない」。

1年後、半七が船に乗ると、そこに「俺も乗せてくれ」と無理やり乗り込んできた男。
若旦那に酒をすすめられ「もてるでしょう?」みたいなことを言われて自慢話…。
ここでこの男がお花を船頭と二人でかどわかしたこと、それからお花の実家の船宿に昔勤めていたことが明かされる。お花に名前を呼ばれ、けたけた笑われたので、かっとなって殺してしまった、と。
この男、自慢話としていい気になってしたわけではなく、それ以来頭にこびりついて離れないこの出来事を話すことで自分の内から出そうとしたのかもしれない、と思った。

あーーーいやな話。でも前半より後半の方がずっとさん助師匠には合ってる、というのが面白いな。 

カモフラージュ

 

カモフラージュ

カモフラージュ

 

 ★★★★

誰もが化けの皮をかぶって生きている。松井玲奈、鮮烈なデビュー短編集。 

普通に面白い。なんて言うと自分の中の偏見丸出しで嫌な感じ?

等身大の作品からちょっと無理した感のある奇想まで。楽しんで書いているのが伝わってくるし、人並み以上に綺麗な女性の倫とした美しさも香ってくるところもあって、とても楽しい。文章もいい。

等身大な「拭っても、拭っても」が好き。
どんな本を読んできたんだろう、というのも気になる。読書エッセイとか読んでみたい。

トリニティ

 

トリニティ

トリニティ

 

 ★★★★★

「男、仕事、結婚、子ども」のうち、たった三つしか選べないとしたら――。どんなに強欲と謗られようと、三つとも手に入れたかった――。50年前、出版社で出会った三人の女たちが半生をかけ、何を代償にしても手に入れようとした〈トリニティ=かけがえのない三つのもの〉とは? かつてなく深くまで抉り出す、現代日本の半世紀を生き抜いた女たちの欲望と祈りの行方。平成掉尾を飾る傑作! 

年代的にここに描かれる女性はちょうど私の親ぐらいの世代にあたるのか。
女が仕事をしようと思ったら他のことは犠牲にしなければならなかった時代。事務職は「腰掛け」で「寿退社」が花道。
あさま山荘事件学生運動、三島の切腹、平成になってバブルがあって阪神大震災があって…。時代の流れとともにそれぞれの道を歩く女たち。

全てを手に入れようとした妙子が自分は何も手に入れられなかったと酒に溺れていくのが辛いが、最終的に息子が分かってくれていたことが救いだ。
悲惨な末路にしか見えなかった登紀子もきっと奈帆に救われたのだと思う。

長いこと生きていけばある時点から下降線をたどることは避けがたいことで、特に妙子や登紀子のように仕事に全てを掛けて走り続けていると、いつからか若い人たちに煙たがられ追い抜かれていくことは致し方のないところでもある。
それでもある時代を作ったことは間違いないし、全てが切り捨てるべきものではない。若い人たちがそこから学ぶことはたくさんある。

自信を失い道を失っていた奈帆が登紀子から話しを聞きそれを原稿にまとめ登紀子に添削してもらったことでライターとしての一歩を踏み出すことになる。
次世代に繋いでいくことって大事なんだな。

面白かった。

三遊亭圓馬「北の独演者 第二回」

9/20(金)、梶原いろは亭で行われた三遊亭圓馬「北の独演者 第二回」に行ってきた。

・馬ん次「ちはやふる
・圓馬「天災」
~仲入り~
・圓馬「うなぎの幇間
 
圓馬師匠「天災」
北海道で落語会をやって帰って来たという圓馬師匠。
北海道は半そでではいられないぐらいの寒さだったらしい。
2泊して1泊目に見つけた美味しそうなたこ焼きのお店。2日目に行こうと思っていたら2日目には打ち上げがあってコース料理。(お刺身、ステーキ、蟹って聞いてるだけでじゅるじゅる…
たこ焼きは次回行った時の楽しみに残しておきます、とちょっと残念そうなのがおかしい。いや、わかるけど。でもたこ焼きよりコース料理でしょう(笑)。
 
こういう会だと普段寄席では聞けないようなまくらが聞けて、圓馬師匠ってこういう人なのかな?っていうのが少しわかるのがうれしい。
 
そんなまくらから「天災」。
離縁状を書いてもらいたいとご隠居の家を訪ねてきたはっつぁん。
自分の母親のことを「古くからいるばばぁ」「ことによるとうちの主じゃないか」というのがおかしい。
かみさんをぶん殴ったらそのばばぁが食らいついてきたから思わず…」
「お前さん、まさか手をあげたりはしないだろうね」
「そんなことはしねぇよ!…蹴とばした」
…酷いんだけどなんか笑っちゃう。
 
べにらぼうなまる先生の家に行ってからのやりとりも楽しい。
言い負かされて「やりやがったな!」と言いながらうれしそうなはっつぁんが憎めない。
戻ってきてからの「てんせぇの振り回し」は、圓馬師匠独自の不意打ちのクスグリが入って、ぶわはっ!!と何度もふきだした。
楽しかった!
 
圓馬師匠「 うなぎの幇間
一八の最初のうちのご機嫌&ありがたがりが、「騙された!」と分かってから反転するのが楽しい。
お猪口のことから、掛け物に書いていることから、おしめが干してあることから、自立できない奈良漬けから、噛み応えのある鰻まで。
一度「もういいよ、それぐらい」とあげようとした釣銭を「やっぱりもらうわ」と奪い取るところがおかしい。
 
圓馬師匠の独特のリズムが後半どんどん加速していって、楽しい楽しい。
次回は11月とのこと。
行きたい!

マンハッタン・ビーチ

 

マンハッタン・ビーチ

マンハッタン・ビーチ

 

 ★★★★★

アナ・ケリガンは、幼いころから海に魅了されてきた。潜水士を志す彼女は、ある晩友人に連れられて行ったクラブで、オーナーのデクスター・スタイルズに会う。アナは彼を憶えていた。幼いころに行ったマンハッタン・ビーチの砂浜にある屋敷の主だったのだ。そして、そのとき彼とひそやかに言葉を交わしていたアナの父は、数年前に消えた―。彼は父の失踪の鍵を握っているのではないか?そう考えたアナは、彼に近づくが…第二次世界大戦下のニューヨークを舞台に、海に魅惑された女性の軌跡を描き出すピュリッツァー賞作家の傑作長篇。アンドリュー・カーネギー・メダル受賞作。 

面白かった~!
禁酒法廃止の翌年、大恐慌で仕事も財産も失った父のエディに連れられて11歳のアナは立派な屋敷に住むデクスターを訪ねる。デクスターはイタリア系ギャングの大物だった。
それから8年後、エディは謎の失踪を遂げ、アナは母と二人、重い障害を持った妹の世話をしながら工場で働いていた…。

アナとエディとデクスター3人の視点から物語は語られるのだが、人間の弱さと強さ、清廉さと狡さが実に見事に描かれていて、圧倒された。
なによりも逞しく育っていくアナが魅力的で元気をもらえる。

幸福も不幸もすべてを覆いつくすような海の存在が美しもあり恐ろしくもあり…素晴らしかった。

モスクワの伯爵

 

モスクワの伯爵

モスクワの伯爵

 

 ★★★★

1922年、モスクワ。革命政府に無期限の軟禁刑を下されたロストフ伯爵。高級ホテルのスイートに住んでいたが、これからはその屋根裏で暮らさねばならない。ホテルを一歩出れば銃殺刑が待っている。そんな不遇を乗り切るために彼が選んだのは、紳士の流儀を貫くこと。人をもてなし、身のまわりを整え、人生を投げ出さない。やがて彼は宿泊客や従業員たちと友情を深めるが…。いまも世界中の名士から愛されるホテル、メトロポールを舞台に上流社会のドラマを描く、陶酔と哀愁に満ちた長篇小説。全米で140万部突破、“ワシントン・ポスト”など8紙誌の年間ベストブックに選出。 

革命政府により無制限の軟禁刑を下されたロストフ伯爵が主人公。というと辛く苦しい物語かと思うけれど、このロストフ伯爵が実に陽気で洒脱で素敵な人物。
「自らの境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」。この言葉通り伯爵は不自由な環境の中でもめいいっぱい自由。彼のことを目の敵にする人間もいるけれど、人柄に惹かれ友情をはぐくむ人たちもいる。

しんどい出来事もあったけれど登場人物の生き生きした言動に救われる。ご褒美のようなラストも素敵。

楽しい読書だった。
しかしこれが全米で140万部って…なんか不思議。

昼八ツ落語会

9/15(日)、UNA galleryで行われた「昼八ツ落語会」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助「動物園」
・さん助「めがね泥」


さん助師匠 ご挨拶
鈴本8月下席はご来場いただいてありがとうございます、とさん助師匠。
私の田舎からも日曜日にバスをチャーターして30名近く来てくれました。
本当にありがたかったんですが、親が呼んでくれたのでかなりの高齢者。
到着は16:30頃ということだったので、終演後よりその時にお礼に伺って写真を撮ったりしようと思ってました。
一人一人に挨拶する時間はないだろうと思って親から名前を聞いて礼状を用意して渡そうと思って、これは我ながらいい考えだと思ったんですが。
バスに入って名前を呼んだんですが誰も手を挙げてくれない。マイクを借りてみたんですけどこれでもだめ。なので名前を呼びながら一番後ろまで行くとようやく後ろの方が手を挙げてくれた。で、渡したんですが、これが別の人。で、次の名前を呼ぶとまたなかなか手が挙がらない。「あ、おれだ」と手が挙がったんで渡すとこれもまた別人。
こんなことをやっていたら30分かかちゃった。
で、バスから降りて撮影ってことになったんですが、これがまた降りるのに時間がかかるし勝手にトイレに行こうとするしまたここでも時間がかかり…。大変でした。でもほんとにありがたかったです。

…それから最終日に「七度狐」をやって、それまでノリノリだったお客さんを引かせてしまった、という話。
げらげら笑うと「今笑った方はその場にいた方だと思いますが。私そういえば真打の披露興行の時も千秋楽…国立のトリの時に”家見舞い”をやってしまってお客さんにドン引きされまして…あとで師匠に怒られました。”お前ねぇ、こういうときに家見舞はないよ”って」。

…ぶわはははは。そんなこともありましたね(笑)。


さん助師匠「動物園」
これは二ツ目になったばかりの頃に教わってそれから2回ほどやって塩漬けにしていた噺です…本当に久しぶりにやるので緊張してます、大きな噺です、というまくらから「動物園」。え?大きな噺?
これがまた始まり方がなんかいつも聞いてる「動物園」と違う。なにがどうっていうのはよく覚えてないんだけど。
「お前は長い付き合いだから知ってると思うけど、俺、頭悪いんだよ」「かといって身体も強くない。虚弱体質。」「で月収百万円ほしい」
言われた友達が「そんな仕事あるわけねぇだろう!」と言った後に「あったわ。あったあった。他の人に取られるのは悔しいから早速行こう」。
連れていかれたところにいたのが怪しいおじさん。妙にハイテンションで…き、気持ち悪い(笑)。

で、そのおじさんがライオンのやり方をレクチャーするんだけど、これが…下手(笑)!えええ?なんか変じゃない?そのしぐさ。ぶわははははは。
さらに無理やり毛皮を着せられた男、檻の中に閉じ込められちゃう!「ライオンの気持ちになっていただかないと。一度家に帰ってしまうとライオンの気持ちがいったん消えちゃいますから」。

珍獣動物園が開演して口上があって幕が上がるときの歌がまた…!!え?あがた森魚?もうさん助師匠のおずおずした歌声、たまらん(笑)。
一生懸命「がおーがおーーー」やるのも…ほんとに勢いがあって…やりながら「こういう小さい会場でやる噺じゃなかったな」「よくトリとれたな」つぶやくのがおかしい。

聞き飽きた噺なのに本当におかしくて楽しかった!へんてこりんな「動物園」、笑ったー。


さん助師匠「めがね泥」
新米泥棒を呼びつけて親分があれこれ話をするんだけど、「お前この近所の情報に詳しいか」と聞くと新米は「得意中の得意っす。どこの夫婦が不倫してるとか離婚しそうだとか全部耳に入ってます!」。
それじゃ頼もしいと「札を持っていそうな家はどこだ」と聞くんだけど、これがもうどれもとんちんかん。しかも場所を説明するのに必ず焼き芋屋が基準。もうこれがおかしいおかしい。
そして近所の道具屋に盗みに入ろうと親分、中堅の子分、新米の三人で出かけて行って、中を覗き込むのだが…。

めったに聞くことのない噺。生で聞いたことがあったのは一之輔師匠だけ。
すごくばかばかしくて楽しい!!
これはこれから寄席でたくさんかけてほしいな。

あーーー楽しかった。この会では普段めったにやらない噺をやることが多くて嬉しい。満足~。

末廣亭9月中席夜の部

9/13(金)、末廣亭9月中席夜の部に行ってきた。

・扇生「無精床」
・正朝「替り目」
・夢葉 マジック
・文生 漫談
・小ゑん「吉田課長」
~仲入り~
・志ん陽「猫の皿」
翁家社中 太神楽
・彦いち「長島の満月」
・木久扇 漫談
・白鳥「実録・鶴の恩返し」
・正楽 紙切り
・きく麿「二つ上の先輩」


扇生師匠「無精床」
きびきびしていて明るくて軽くてすごく楽しい。
好きだななぁ、扇生師匠。好きな噺家さんが多すぎてなかなか行けてないけど、また独演会に行きたいなぁ。


小ゑん師匠「吉田課長」
吉田課長がバッサーっと髪をかきあげるしぐさがおかしい。
とってもデリケートで傷つきやすい吉田課長がチャーミングで、ひたすらおかしいんだけどほんの少し悲哀も感じられて好きだな。


志ん陽師匠「猫の皿」
この位置で「猫の皿」!うれしい。
この噺、大好き。のんびりしていて風景が浮かんできて季節が感じられる。よかった。


きく麿師匠「二つ上の先輩」
大きな拍手に迎えられたきく麿師匠。
なんの噺かなぁとわくわくしていたら「二つ上の先輩」。
「二個上だぞ」とえばったり「仕事と二個上の先輩とどっちが大事なんだよ?仕事がそんな大事かよ?」と言ったり「悩みがあるなら俺に言えよ。俺、顔広いから」と言う先輩。
いったいこれはどういうシチュエーションなんだ?と思っていると、明らかになる3人の年齢。
前半の「ん?ん?」からの後半のどっかんどっかん!がたまらない。緊張と緩和(笑)。
怒涛の怪談話にげらげら笑いどおしだった。楽しい!

最後は立ちあがって寄席の歌。完璧。

 

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寄席の歌、の時間だけ撮影可能。



ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集

 

ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集

ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集

 

 ★★★★★

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者による表題作を収録!各世代の女性の共感を呼ぶ、7名の若手実力派女性作家の短篇集。

[目次]
「ヒョンナムオッパへ」チョ・ナムジュ
「あなたの平和」チェ・ウニョン
「更年」キム・イソル
「すべてを元の位置へ」チェ・ジョンファ
「異邦人」ソン・ボミ
「ハルピュイアと祭りの夜」ク・ビョンモ
「火星の子」キム・ソンジュン 

「ヒョンナムオッパへ」チョ・ナムジュ
「82年生まれ、キム・ジヨン」同様、あーなんだ思ったほど酷くはないじゃん、普通じゃんと思った後で、これを普通と思う自分にドキッとする。
「頼りがいがある」「私のためにやってくれている」が、自分に都合のいいように操っているだけ、と気づく主人公。
あからさまなDVではなくても、こんな風に誰かの行動や人間関係を制限するような関係性は日常的にある。それに気づくことが自立への第一歩なのかもしれない。

 

「更年」キム・イソル
身につまされたのが「更年」。主人公が感じる違和感は他人事ではなくて読んでいて痛かった…。でも彼女が感じる違和感や罪悪感は間違っていない。ラストは苦いけれどほんの少しの清々しさも。

そのほかにもノワール小説あり、バトルロワイヤル(!)あり、SFあり。
フェミニズム小説とあるので少し警戒しながら読んだけれど、バラエティに富んだ作品でとても楽しかった!
韓国の小説、ほんとに面白い!何を読むか迷ったら韓国小説を読もう、というのが最近の私。

柳家小三治独演会

9/12(木)、北とぴあで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・一琴「平林」
小三治「野ざらし
~仲入り~
・一琴 紙切り
小三治厩火事

小三治師匠「野ざらし
今日は少し涼しくなりましたね。涼しくなって少し楽です。ですから今日の私は能弁ですよ、と小三治師匠。

昨日の新聞にこんな記事がありました。78歳の老人が…ああ、78歳は老人ですかね、私78歳ですけど。なんか自分で言って引っかかりました。老人かよ、って。ああ、その78歳がイノシシを見ようと思って…だったかな、山に登ったんですね。そこで蜂に刺されて…78か所刺されて大変だった、という記事でした。
蜂と聞けば黙っちゃいられない。好きですから。私は。スズメバチだったんですかね。あいつらは…こちらが何もしないと思えば何もしないです。でも驚いたり手で払いのけようとしたりしたらだめです。毒液を出すんですよ。ぼわっと。これを付けられると取れない。で、この匂いを頼りに仲間が寄ってきます。で、寄って来た仲間もまたぼわっと出す。それを頼りにまた仲間が…。全力で走っても追いかけてきますから。あいつらと闘っちゃいけない。
蜜蜂は刺さないんですよ。基本的には。もちろんこちらが不用意な動きをしたりすれば自分の身を守るために刺してきます。

…といって、養蜂場に行ってミツバチを手ですくいあげた話やハチミツの話やアフリカのサバンナに動物を見に行った話や歯(インプラント)の話や…。
次々と面白い話が浮かんできては「だめだ、この話をし出すと今日はこれだけで終わっちゃう」「これもよしましょう」「好きなことの話になると我を忘れちゃうから」「なんのためにここに来たかわからなくなっちゃう。ま、それほどの使命感もないんですが」とかいろいろ言いながら途中でやめる師匠。ほんとだ、今日の師匠は能弁だ(笑)。

道楽のまくらから「野ざらし」。
この日の「野ざらし」はとても自由な野ざらしで。
なんだろう。心の赴くままに即興でやってる、みたいな…変拍子っていうかジャズっていうかそんな感じ。
さいさい節が本当に楽しいんだよなぁ。能天気なんだけど、無理してはしゃいでる感じが全くないから、置いてけぼりにならないのだ。
やっぱり「野ざらし」は小三治師匠だなぁ。

普段は鼻に釣り針が引っかかるところで終わりだけど、なんとこの日は太鼓持ちが家に訪ねてくるところまで。そうか、ここまでやろうと思っていたから、長いまくらを封印したのかな。
女が来ると思って待ちわびていた八五郎太鼓持ちが入ってきて「なんだこりゃまた変なのが入って来ちゃったなぁ」というのがおかしいし、なんだかんだ言いながら迎え入れるのもおかしい。楽しかった!


一琴師匠 紙切り
見るたびに切るスピードが上がっているのがすごい。しかも今回は注文を取ったら「野ざらし」。うわーーどうするんだーーと思っていたら、なんと小三治師匠の似顔絵。鼻に釣り針が引っかかっているところ。頓智も効いてないとだめなんだなー紙切りは。すばらしい。


小三治師匠「厩火事
縁のまくらから「厩火事」。
相談されたご隠居が「今日という今日は別れないっていうセリフ、今日が初めてじゃないよ」「お前さん、まだ未練があるんだな」。ご隠居、確信をついてる!
わりと刈り込んでいておさきさんが未練たっぷりな場面はなかったのに、まだまだ旦那に心があることがちゃんと伝わってくるのがすごい。

旦那が茶碗が割れてぎゃあぎゃあ言った後にしばらく黙ってから「怪我でもしちゃいねぇか?」。ここで客席からほっとしたため息が漏れたのに鳥肌。
完敗だ、この旦那には。かなわない。くーー。

穴の町

 

穴の町

穴の町

 

 ★★★

ニューサウスウェールズ中西部の消えゆく町々』という本を執筆中の「ぼく」。取材のためにとある町を訪れ、スーパーマーケットで商品陳列係をしながら住人に話を聞いていく。寂れたバーで淡々と働くウェイトレスや乗客のいない循環バスの運転手、誰も聴かないコミュニティラジオで送り主不明の音楽テープを流し続けるDJらと交流するうち、いつの間にか「ぼく」は町の閉塞感になじみ、本の執筆をやめようとしていた。そんなある日、突如として地面に大穴が空き、町は文字通り消滅し始める…カフカカルヴィーノ安部公房の系譜を継ぐ、滑稽で不気味な黙示録。 

 全体的に倦怠感が漂ってどんよりした印象。

消えゆく町についての本を書いている主人公。
訪れた町は特になんという特徴もなくその町の歴史について書かれた本もない。
ある日この町に「穴」が現れ、それはどんどん広がっていくのに、なすすべもない町民たち。見ないふりをしたりあえて論点のずれた議論をしたり…。

何か重大なことが起きているのに見ないようにしていればそのうちなんとかなる…多分そこまで酷いことにはならないだろうという根拠のない無関心。自分に覚えがないわけじゃないので、ぞぞぞ…。

登場人物はユニークでそれぞれのエピソードは面白いのだが、観念的で正直きちんとは理解できなかった。