りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

八光亭春輔独演会

9/9(月)、赤坂会館で行われた「八光亭春輔独演会」に行ってきた。

・一猿「武助馬」
・春輔「普段の袴」
~仲入り~
・春輔 幸田露伴「 幻談」&踊り

一猿さん「武助馬」
昨日の謝楽祭では、一朝一門でお店を出しました、と一猿さん。みそ田楽と一門グッズ。試しに作って食べてみようということになってこんにゃくを茹でてはみたものの…どこをどう探してもないんです…味噌が。味噌がないとどうにもなりませんから。パニックですよ。で、とある兄弟子が「大丈夫だから」と一言。おそらくおかあさんかおとうさんが届けて来てくれたものと思われます…どうにか味噌が到着し事なきを得ました。

そんなまくらから「武助馬」。これ、そんなに面白い噺じゃないと思うんだけど、一猿さんは特に独自のクスグリを入れたりしていないのに、ちゃんと面白かった!聞きやすいし間がいいからちゃんと笑えるんだな。いいなぁ、一猿さん。楽しかった。


春輔師匠「普段の袴」
自分の師匠、彦六師匠の思い出話。これが本当に面白い。木久扇師匠もよく彦六師匠の物まねをするけど、春輔師匠の話からもその様子が浮かんできて、ああ…こういう師匠だったんだろうなぁ、と想像できる。
毎朝7合の水をごくごく飲み(健康のため)、彦六体操をし(水を飲んだままじーっとしていると水が中で湯になってしまう、という彦六師匠独自の理論により)、それから仏壇の前に座って一通りお経をあげる。自分のお世話になって作家の先生、家族親戚、門弟…全員の健康と幸せを祈るところまでが、朝の儀式。

それからとってもせっかちで旅行に行く時は何時間も前に家を出てホームでずっと立って待ってたり…などのエピソードを紹介。楽しかったー。笑った笑った。

そんなまくらのあとに「普段の袴」。
独特の喋り方というか独特の調子があって、ああ、これが林家の芸なのかなぁ、と思う。全然違うんだよね。語り方が。でもそれがとっても面白くて楽しくて癖になる。
いろんな協会があっていろんな一門があってそれぞれの芸風があって…。この多様性が落語の魅力だなぁ!とっても面白かった。


春輔師匠 幸田露伴「幻談」
この「幻談」という噺は彦六師匠がやっていて、師匠が亡くなってからは誰もやっていなかった。自分の会をやる時に主催者から「やってみたらどうか」と言われ、いやこれは難しい噺だから…といったんは断ったものの、「合ってると思いますよ」とまで言ってもらったので、ではやってみようかということに。やるにあたっては勝手にやるわけにはいかない。作者の許可をもらわないと…ということで、現在幸田露伴の作品の管理をしている方に連絡をとったら「それならば会ってお話をしましょう」ということに。その家を訪ねて行って…という話がとても面白かった。もうそれだけで一つの文学作品のようで素敵。
幸田露伴 幻談

お話として淡々と語りながら、巧みな情景描写…そして物語が動くところは独特の間でもってたたみかけてくるので一瞬自分が落語を聴いていることを忘れ、物語の世界に引き込まれる。うおおお。これは…またとても面白い。笑いどころのない噺だけれど、こういう作品も落語としてみることができるというのは、すごく新鮮だし嬉しい。そして先代の彦六師匠というのはこういう芸だったのかなぁとぼんやり思う。他の誰とも違う落語。すごい魅力的だ。

そして怖い噺だったから…なのかな、最後に踊りも披露してくださって楽しくお開き。

これが凌鶴あれも凌鶴

9/8(日)、道楽亭で行われた「これが凌鶴あれも凌鶴」に行ってきた。


・凌鶴「正直な講談師」
・凌天「一心太助 喧嘩仲裁屋」
・凌鶴「牡丹燈記
~仲入り~
・凌天「山内一豊
・凌鶴 「大村智


凌鶴先生「正直な講談師」
昔はよく職務質問を受けました、と凌鶴先生。
池袋の名画座の近くを歩いていた時、パトカーが来たんです。ただでさえごちゃごちゃした狭い路地にごみ箱があって曲がれないみたいだったので、私それをどけて通れるようにしてあげたんですね。そうしたら警官がやってきまして。てっきりお礼を言われるのかと思ったら「この辺りで凶悪な犯罪が多発しているのでご協力ねがえますか」。
ああ、そうなんだ。そりゃもちろん協力しますよ。「こういう人を見かけませんでしたか」と写真を見せられたりするのかなと思っていたら「カバンの中身を確認させてください」。
え、えええ?おれ?おれを調べるの??
仕方なくカバンの中身を見せると「おやー?なんでこんなに新聞が入ってるんですか?」
「いや…あの私…仕事で使うんで」
「仕事で?!しかもこれ今日の新聞じゃなくて古い新聞じゃないですか!」
「いやあの…講談師なもので…こういう新聞の記事を読んで、新作講談を作るんです」
「公団?公団に新聞は関係ないでしょ?!」
いつまでたっても全く話がかみ合わないまま、今度は財布を見せろと言われまして。
財布なんか見たってそこにナイフとかピストルとかそんなものが入れられるわけもないし、と言うと「いや、覚せい剤を隠し持ってるということもあるもんで」。

凌鶴先生が何年か前まではよくされていたということは、長髪で怪しい雰囲気だったのか?今の凌鶴先生からは想像がつかないけど。
でも職質されても穏やかに丁寧に対応される姿が浮かんでくる。素敵。そんなまくらから「正直な講談師」

ある日、職質を受ける講談師・凌鶴先生。
まくらでおっしゃっていたように財布の中身まで調べられるが、警官が「きみ…相当困窮しておるな」。
気の毒に思った景観は凌鶴先生に10万円くれる(!)。
また別の日、自分の会が終わってみると、お客さんの忘れ物。中に同じ名刺が何枚も入っていたのでこれが本人に違いないと思い、凌鶴先生がその住所を訪ねると、取次の者が出てくる。
「こちらをお忘れになってはいないでしょうか」と渡すと、どうやらそこの家の奥様の物に相違ないとのこと。
取次の者が「奥様があなたにお礼にこちらを渡してくれということなので、聞こえるようにお礼申し上げろ」。
それを聞いた凌鶴先生が、自分はお礼をもらうために届けにきたわけじゃない。本人が出てくることもなく礼を言えとはなにごとだ!と怒ると、奥から奥様が出てきて「申し訳ございません」と謝る。なんとこれが今の首相の奥さん。そして凌鶴先生の講談を聞いて感銘を受けたので何かお礼をしたい、と言い出して…。

これはつまり…凌鶴先生のシンデレラストーリー!
次々繰り広げられる妄想がすごくおかしくて大笑い。凌鶴先生がこんな新作も作られるとは!すごく楽しかった。笑いっぱなしだった。


凌鶴先生「牡丹燈記
圓朝の「牡丹灯籠」の元になった話とのこと。
中国のお話。最愛の妻に先立たれ寂しく暮らす男がある日お供を連れた美しい女を見かけてふらふらと後を付ける。付けられていることに気が付いた女に声をかけられ、二人を家に誘った男。女はこの地に身よりも知り合いもいないというので、それなら我が家を訪ねておいでなさい、という。それから毎晩女が訪ねてくるようになるのだが、ある日隣に住む易者がこの様子を見て…。

なるほど。もとはこういう話だったのか。どちらにしても間違った女に恋心を抱かされると大変なことになるということなのだ…。ふっふっふ。

 

凌鶴先生「大村智
ノーベル賞を受賞した大村智さんの一代記。
大村智さんについてはわりと年をとってからノーベル賞をもらったんだな、ぐらいのことしか知らなかったのだが、最初は定時制高校の先生をしていたとは知らなんだ。そこで教えた経験から、自分も働きながらもっと勉強ができるのではないかと考えて研究生になり、そこから研究の道へ進むことになったとは。すごいな。聞いていると、とても柔軟性のある考え方のできる人なんだろうなと思う。

難しいかなと思いながら聞いていたけれど、わかりやすくて楽しかった。
大村さんが社会人経験もあるからなのか考え方が柔軟でアイデアマンなのも面白いなと思った。

第二百四回 にぎわい座 名作落語の夕べ

9/7(土)、「第二百四回 にぎわい座 名作落語の夕べ」に行ってきた。

 

・南太郎「転失気」
・圓馬「菊江の仏壇」
~仲入り~
・小袁治「お神酒徳利」

 

圓馬師匠「菊江の仏壇」
病人を見舞うのは嫌いだと頑としてお花の見舞いに行かない若旦那。
大旦那が出かけて早速遊びに出ようとするのだが番頭に止められる。
番頭が遊んでいることに気づいていることを若旦那に言われ、挙動不審になるのがおかしい。固いように見えるけど実はそうではないことがうかがえる。
今日は絶対に外に出てはいけません、どうしても…というのならその女性をこちらに呼んではどうでしょう?と番頭。
そういわれて、そうか、それならいっそ店を早じまいにして店の者にも好きな物をとらせてやって酒を飲もう、と若旦那。
長いことやるわけじゃない、みんなでわっとやってそれで寝ちまおう、と。

好きな物を言えと言われた店の者がそれぞれに食べたいものを言うのだが、そのバラエティに富んでいること。最初は遠慮がちだったのがどんどん楽しくなってきてお酒も入って陽気になるのがとても楽しい。

そうかー。若旦那は困った人だけど店の者からしてみるとその気まぐれのおかげでめったに食べられないものが食べられてお酒も飲めて…嬉しいご褒美みたいな夜だったんだなぁ。

呼ばれて来た菊江は最初からちょっと居心地悪そう。若旦那が本当はお花の病状を心配しているんでしょう?ということをちらりと言うのがいいな。この一言だけでなんか菊江が好きになる。

その後の展開もとても落語らしくて楽しかった~。
お花と若旦那のところがあまりに深刻だと、このサゲとのギャップが大きすぎて、え?ってなるけど、最初から最後まで落語の世界なのでサゲのばかばかしさも無理なくなじむように感じた。


好きじゃない噺を圓馬師匠がどんなふうにされるのか興味津々だったんだけど、圓馬師匠らしい…ニュートラルな落語の世界。とても楽しかった!
同じ噺でも噺家さんによってこんなに印象が違うの、面白いなぁ。


小袁治師匠「お神酒徳利」
自分が入門したきっかけは小三治師匠。まだ小三治師匠が二ツ目の時に落語を教わりに行っていた。それで落語家になりたいと話したら、自分はまだ二ツ目で弟子はとれないから自分の師匠のところに入門したら?と言われた、と。
そうだったんだ!!知らなかった!

それから小さん師匠の話や先代の文楽師匠の話など。こういう話は本当に聞いていて楽しくてずっと聞いていたくなるなぁ。

そんなまくらから「お神酒徳利」。
お神酒徳利はいろんな形があるけれど、小袁治師匠のは八百屋さんが女中への意趣返しで徳利を隠して騒ぎになったところで出て行って「そろばん占い」で見つけ出す。それから旦那に説得されて旅に出て泊った旅館で五十両がなくなり旦那が「この先生は失せ物を探す名人」と言ってそこでも占いをしないといけなくなる、という話。

窮地に追い込まれた八百屋さんが夜逃げの準備をするところがおかしかった。
あと自分がやりましたと訪ねてくる女中は結構いい女なんだね(笑)。

今回は出演者二人で長講たっぷりだったんだけど、満足感が高かった!

アーモンド

 

アーモンド

アーモンド

 

 ★★★★★

扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳のユンジェは、目の前で家族が通り魔に襲われたときも、無表情で見つめているだけだった。そんな彼の前に、もう一人の“怪物”が現れて……。「わが子が期待とは全く違う姿に成長したとしても、変わることなく愛情を注げるか」――出産時に芽生えた著者自身の問いをもとに誕生した、喪失と再生、そして成長の物語。 

失感情症で怒りや恐怖を感じることができないユンジェ。母と祖母の愛情をたっぷり受けて育つが、ある日家族に悲劇が訪れる。
一方、幼いころ親とはぐれ手の付けられない不良になったゴニ。
「怪物」と呼ばれる二人の少年が出会い、火の玉のようなゴニはユンジェにどうしようもなく惹きつけられていく…。

感情や共感は大事なことだと今まで思って生きてきたけれど決してそうとばかりも言えないのかもしれない。自分の感情を過信しているとどうしても自分の見たいようにしか人を見ることができない、自分が望むような反応をしない人を排除してしまう、そういう面もあるのかもしれない。
感情を持たないはずのユンジェがこんな風に優しいのは、受けてきた愛が彼の心にちゃんと栄養として積み重なっていったからなのかもしれない。

人間たらしめているものはなんなのかという問いに答える作品でもあり、少年の成長の物語でもある。面白かった。 

それにしても韓国文学の面白いことよ。
いろいろな小説がこうして次々翻訳されて読むことができるのは至福だ。

これから真打に昇進する柳家わさびのパーティがわりの規模大きめの落語会

9/6(金)、日本橋教育会館一ツ橋ホールで行われた「これから真打に昇進する柳家わさびのパーティがわりの規模大きめの落語会」に行ってきた。

・わさび ご挨拶
ファンキー末吉 一番太鼓
・わさび 100コマわさび
・一之輔「鈴ヶ森」
小満ん「目黒のさんま」
・対談 高田文夫松村邦洋、わさび
~仲入り~
・口上(一之輔、ファンキー末吉、わさび、さん生、小満ん)
・さん生「親子酒」
・わさび「臨死の常連」

 

ファンキー末吉さん 一番太鼓
舞台にドラムセットが置いてあったので何事か?と思ったら、爆風スランプのドラマー・ファンキー末吉さんが一番太鼓をたたくのであった!
袴姿のファンキーさんが硬い表情で一番太鼓を叩くという…相当シュールな図。ぶわはははは!最高!

 

わさびさん 100コマわさび
わさびさんの生い立ちから落語家になって真打昇進を迎える現在までを100コマで紹介。
いまだに少年のようなわさびさん。とてもかわいがられて育ったことがわかる。
あれ、また見たいな、どこかで。

 

一之輔師匠「鈴ヶ森」
明日が沖縄で落語会、前乗りしてたっぷり遊ぼうと楽しみにしていたのに!と一之輔師匠。
「なんだよ、おれが前座かよ」と言いながら、「鈴ヶ森」。テッパンで客席をぐわっと温めたのはさすが。
しかしこの噺、全然面白くないのに一之輔師匠だと笑っちゃうから不思議だ。

 

小満ん師匠「目黒のさんま」
そうか。小満ん師匠が大師匠なのだ!ということはこれからもお披露目で口上に上がる小満ん師匠を見られちゃったりするのか。ぬおお。

今年初の目黒のさんまが小満ん師匠という幸せよ。洒落っ気たっぷりでとても楽しかった。

 

対談 高田文夫さん、松村邦洋さん、わさびさん
高田文夫さんとは大学の落研の先輩ということでお付き合いがあるのか。
スピードと毒気に終始たじたじのわさびさん。
あれこれ毒を吐きながらもわさびさんのことを紹介して応援している?高田さんだった。
「俺が連れてきたゲスト…ビートたけし」と紹介されて出てきた松村邦洋さん。物まねをいろいろ披露。わさびさんのことは全然知らないみたいだった(笑)。

 

口上(一之輔師匠、ファンキー末吉さん、わさびさん、さん生師匠、小満ん師匠)
まだ披露興行が始まってないからまだ真打じゃないんだ、とわさびさんのことを紹介する一之輔師匠。
初めて口上に上がってめちゃくちゃ緊張しているファンキーさん。
小満ん師匠の口上は小満ん師匠らしく洒脱で軽くて素敵~。
さん生師匠は弟子が真打になる喜びに溢れていて見ていてじーんとした。

 

わさびさん「臨死の常連」
なんと新作。しかもしょっちゅう臨死してしまう男が主人公の話。
おめでたい席で臨死?(笑)

驚いたりショックを受けると臨死状態に陥り地獄の入り口に着いてしまう吉田さん。もうすっかり地獄の連中とも顔見知りで、閻魔様とも軽口を叩ける仲。
そこで閻魔様にポイントを貯めると願い事がかなう、さらに人の命を助けるとポイントがぐっと稼げる、と聞いてがぜんやる気をだした吉田さん。
自分と同じように臨死状態に陥った人を一生懸命励まして、この世に戻すということをやり始めた。
あと10ポイントで閻魔様に言われたポイントに達するという時に…。

臨死って?と驚いたけれど、これが実はとてもおめでたい噺で…こういう席でこの噺を選んだというところにわさびさんの強い決意を感じた。
特別な会を見にいけてとてもよかった。満足。

愛が嫌い

 

愛が嫌い

愛が嫌い

 

 ★★★★★

日常の中にも、一瞬先のカタストロフ。自我の輪郭があやふやなぼくは、愛と生活を取り戻せるのだろうか。交錯する優しい感情。新しい関係の萌芽を描く、パラレル私小説3部作。芥川賞作家の新境地。 

わわ、なんだこれは。ちょっと今まで読んだことのない感じ…。「うわっわかるっ」と親し気に腕をつかんだものの、「あっやっぱわかってなかったかも」とそっと離す感じ。
人間をフラットに全く別の視点から見ようとしているような…でもそれが奇をてらっていなくて…自分にも覚えがある部分…身につまされるところがたくさんあって、心地よさと居心地の悪さ、両方がある読後感。

「しずけさ」「愛が嫌い」「生きるからだ」どれもよかった。100%分かり合えているわけではないけど少しの間だけそばにいる。そんな薄い関係も、誰かを少しだけ救っているかもしれない。

他の作品も読んでみよう。

小んぶにだっこ

9/5(木)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。

・小んぶ「臆病源兵衛
~仲入り~
・小んぶ「船徳


小んぶさん「臆病源兵衛
昇々さんとの落語会で九州に行ってきた、という話から。昇々さんのことはあまり知らなったんですけど、変わった人ですね。私も変人呼ばわりされますけど同じぐらい変人ですね。
主催者の人が迎えに来てくれて話していた時に昇々さんが「僕、日々の記憶がないんですよね」と言っていて。日々の記憶がないってなんだろう?と思ったんですけど。たまたまその日九州が涼しくて「思ったより涼しいですね」と言ったら「いや、今日はたまたまですよ。昨日までは暑かったですよ。東京は暑いですか?」と主催者。そうしたらそれに昇々さんが「いやぁ…わかんないっすね」。
ええ?東京の天気がどうだったかわかんないの?ああ、確かに記憶がないんだな、と。そう思いましたけど。
それから楽屋で二人で話していて「僕、友だちいないんですよ」と昇々さん。「あ、僕もそうです。いないんです」と小んぶさん。お互いにいかに友だちがいないかを述べあいましたけど…友だちにはなりませんでしたね。

…ぶわはははは!!!おかしすぎる!!
それから真打披露パーティのお手伝いに行った話や新真打の記者会見を見学した話。これもおかしかったーーー。小んぶさんはたぶんべたべたした付き合いをしない人なんだと思うけど、いろんな人から好かれていると思うなー。前回のことがあるからまくらは短めにおさえて(笑)「臆病源兵衛」。

源兵衛の怖がり方がドスが聞いていてすごく可笑しい。地の底から湧き出るような声で「うわあぁぁぁぁーーーー」と言うのがいちいちおかしくておかしくて。
兄貴分も八五郎も小んぶさんがやると迫力がある。
源兵衛が八五郎を殺しちゃったと思い込んだ兄貴分が「まぁいいよ。捨ててきなよ」とけろっと言うのもおかしいんだけど、源兵衛が「一番怖いのが兄貴だな…」とつぶやくのもおかしい。

自分が死んじゃったと思いこんだ八五郎が、おでに貼られた三角の紙を「貼っておこう」ともう一度貼りなおすのもおかしい。
何がおかしいって台所に酒を探しに行った源兵衛が酒の徳利と間違えて持ったものが…もう不意打ち過ぎてひっくり返って笑ったわーこの独自のセンスがたまらないなぁ、小んぶさんは。いやぁ楽しかった。笑った笑った。


小んぶさん「船徳
さっきの「臆病源兵衛」は雲助師匠に教えていただきました、と小んぶさん。
みなさん私が勝手にやりすぎてるとお思いでしょうけどそんなことないんです。雲助師匠に教わった時に師匠から言われたんです。「この噺は源兵衛がキャーキャー言ってるだけになりがちだけど、そうじゃいけない」って。だからあれは雲助師匠に教わった形なんです。
なにせ私は雲助師匠が大好きでして。師匠が寄席に出てるときは必ず袖で聞くようにしてるんです。師匠が冷房の効いた店に入って風が当たることをこんな風に話してた、という話も面白かったー。
好きな噺家さんが誰に教わったとかこの師匠が好きとかいう話を聞くとほんとに幸せを感じるなぁ。

そんなまくらから「船徳」。
徳さんの非人間ぶりがめちゃくちゃおかしい。
おかみさんがお客に「あいつ、船頭だろ」と徳のことを言われて「え?あなた、あれが見えます?」とか「毎日やってきてあんなふうに船頭みたいなふりをしてるんですよ」とかいうのがおかしい。
徳がはちまきをするしぐさや竿を振り上げるしぐさも芝居がかっていておかしい~。
川に出て橋に芸者がいるのを見つけた徳が「お客さん、ちょっとかがんでください。あの二人、あたしの追っかけなんです」って言ってすごく気取って漕いで見せた後、ちらっとウィンクしたのがもうもう…!
漕ぐのがいやになって突然「着きました」と言うのもおかしいし、はちゃめちゃで楽しい「船徳」だったー。

死者の饗宴

 

死者の饗宴 (ドーキー・アーカイヴ)

死者の饗宴 (ドーキー・アーカイヴ)

 

 ★★★

その刹那、わたしの眼に映った息子の顔に浮かんでいた恍惚の表情は美しかったが、同時に年老いてもいた…少年と彼に取り憑いた正体不明の存在“あれ”との顛末を妖しく語り、読者の想像を超える衝撃的な結末を迎える代表作中篇「死者の饗宴」のほか、“サトレジ号でたぶん1898年だった”という謎の言葉と不気味な子供に翻弄される男を描く狂気に満ちた怪異談「ブレナーの息子」、ビルマの神秘な力を持つ宝石と護符をめぐる奇妙な物語「煙をあげる脚」など、知られざる英国怪奇文学の名手による異形のホラー・ストーリー、幽霊物語、超自然小説を厳選した全8篇。 

付いてくる船、神経に障る子ども、思い出せない顔。何が起きているのかはっきりとわからないのだけれど、わからないだけに想像をかきたてられて怖い。面白かったけど、救いのない物語ばかりでちょっとぐったり…。幽霊には逆らえないのね…。
一気に読まないで時間をかけて少しずつ読んだ方がよかったかもしれない。

面白かったのは「悪夢のジャック」「永大保有」「ブレナーの息子」「使者の饗宴」。

 

談四楼・伸治二人会

9/3(火)、上野広小路亭で行われた「談四楼・伸治二人会」に行ってきた。

・縄四楼「真田小僧
・伸治「禁酒番屋
・談四楼「浜野矩随」~仲入り~
・談四楼「人情八百屋」
・伸治「鰻の幇間

伸治師匠「禁酒番屋
ニコニコ笑顔で出てきて座布団に座って笑顔で客席をぐるーっと見渡してにっこり。
「今日みたいな日に来てくださって本当にありがとうございます。暑いでしょうー。蒸すしねぇ。こういう日に出かけるの嫌だよねぇ。私も嫌だもん。あははは。しかもこの時間ね。早いよね。お仕事されてる方はお仕事を急いで終わらせていらしたんでしょう?私なんかね、家にいてテレビ見たりごろごろして遊んでいて夕方になって出かけてくるんだから。全然違いますよ。みなさんとはね。本当にありがとうございます」。

…こういう小さい小屋で伸治師匠がニコニコ笑顔でこんなことを言ってくれたら、もうほんとにそれだけで来てよかったー!っていう気持ちになるなぁ。ほんとに素敵。

「談四楼さんはね、実はそんなに知らないんですよ。あはははは。でもこうやって一緒に会ができて、ありがたいですねー」なんていう話をあれこれしたあとに、お酒のまくら。

「私はね、お酒飲めないんですよ。残念なことに。昔ね、東横落語会に前座で行ってた時、先代の馬生師匠が楽屋に入るとね、”ビールちょうだい”って言ってね、ビールをきゅーーーっと飲むんですよ。それで高座に上がってね。終わって帰ってくるとまた”ビールちょうだい”って言って、またきゅーっと飲んで、帰って行くのね。あれがかっこよくてねぇ。」
それから自分の師匠のお酒の飲み方や今の芸協で一番酒の癖が悪いのは誰か、などなど。そんなまくらから「禁酒番屋」。

侍が酒をぐいっと飲んでたちが悪くなっていくのが目に見えてわかる。
遊び心いっぱいで自信満々で番屋に挑む若い衆の楽しさ。
軽くて楽しい「禁酒番屋」。サゲが逆になっちゃったのがまたおかしかった!(しかも師匠は気づかなかった、と)

 

談四楼師匠「浜野矩随」
談四楼師匠の「浜野矩随」は以前聞いたことがある。きれいで淡々とした落語なんだけど、結構えぐるようなところがあって、談志師匠ってこういう感じだったのかな、と思う。

若狭屋の主が矩随に元手は出すから商売をやってみないかと勧めるのは初めて見た気がする。それにしてもお前の彫ったものを私が買っているのは、それが世間に出回って親父の名前に傷がつくのが嫌だからだ、というのはかなり厳しい言葉だなぁ…。


談四楼師匠「人情八百屋」
実はこの後日暮里で一門会があってトリをとらなければいけないので、この順番です、と談四楼師匠。二席目は軽めにやって下がりますねと言って「人情八百屋」。どこが軽めなんや!(笑)
そういえば以前も「軽めにやります」と仲入りで「浜野矩随」だった。この師匠の「軽めに」っていったい…。

八百屋さんが気持ちのいいキャラクターで安心して見ていられる。
子どもを預かった鉄五郎も気風がよくてさばさばしていていいなぁ。
どう考えても酷い噺なんだけど(笑)、お話として聞ける部分があってそこに救われた。

伸治師匠「鰻の幇間
今日はもう落語はやりません!と伸治師匠。「だって落語やると間違えちゃうんだもん!」に大笑い。自分で気づいてなかったんですよ。自然にそう言っちゃった。降りた時に談四楼さんに言われて「え?そうだった?」って。どうも今日のお客さんは楽屋の噂話とか喜んでくださりそうだから、そういう話をしようかな。

袖で聞いていたけど談四楼さんの落語は談志師匠っぽいね。思い出しました。
そういえばニツ目の頃に地方のホテルで落語会に呼んでいただいてもらってるときに、たまたま談志師匠が泊まりに来たことがあった。その時に「おい、お前、俺の前で落語やってみろ」って言われたんですよ。あたし、とんでもない!と思って逃げちゃった。でも今思えばくそみそに言われてもいいから、やってみればよかったですね。いったい何を言われたのか。興味ありますね。

それから太鼓持ちの話。有名な太鼓持ちの逸話、知り合いの太鼓持ちの話、どれも面白い!しかもそんな話から「鰻の幇間」。これがひっくり返るほど面白かった!

調子がよくて軽い一八がとってもチャーミング。鰻屋に入ってきて、子どもが宿題やってる部屋の方が自分たちが通された部屋よりきれいじゃねぇか?と驚いたり、座布団もこんな風に重ねちゃって…と文句を言いながらも、お客が来たらヨイショヨイショ。

酒を飲んだりお新香を食べて「ん?」って顔。そして鰻がもう見るからにおいしくなさそう。「なんかこれは…弾力がありますね」に笑う。
1人で早合点して感心してるんだけど、一杯食わされたとわかってからの反応がすごくおかしい。「払いますよ。だから言わせて。一通り」。そう言って小言が始まるんだけど「聞いてる?あたしの話?お願い、聞いて」とか「お客が入ってくる前に座布団を並べる!これはあなたの役目!」とか「おしめは見えるところに干さないの」とか、小言が細かくておかしい~。
そして一通り言ってからぐるっとあたりを見渡して「うん。もう全部言った」ってもう!!すごいかわいい!!

あんまり好きな噺じゃないのにめちゃくちゃおかしかったー。楽しかった!

外は夏

 

外は夏 (となりの国のものがたり3)

外は夏 (となりの国のものがたり3)

 

★★★★★

汚れた壁紙を張り替えよう、と妻が深夜に言う。幼い息子を事故で亡くして以来、凍りついたままだった二人の時間が、かすかに動き出す(「立冬」)。いつのまにか失われた恋人への思い、愛犬との別れ、消えゆく千の言語を収めた奇妙な博物館など、韓国文学のトップランナーが描く、悲しみと喪失の七つの光景。韓国「李箱文学賞」「若い作家賞」受賞作を収録。 

喪失感や身の置き場のなさが身につまされる物語たち。
ずっと続くと思った幸せな日常が壊れた時、いったいどうやって立ち直って行けばいいのだろう。受け止めて、いつの日か人のことも自分のことも赦して、いつかは忘れることができるのだろうか。

「ノ・チャンソンとエヴァン」
お金も愛情もほんのわずかしか与えられていない少年が棄てられた犬を拾い、初めて心を通わせる喜びを知るが、犬が衰えていき…。
目を背けたくなるようなしんどい物語で涙が出た。彼が成長すること、生き延びることだけにわずかばかりの希望を感じる。

安易に結論を出したり救いを与えたりはしないけれど、生きていくことにほんのわずかの光を映し出す。素晴らしい短編集だった。

喬弟仁義

8/31(土)、池袋演芸場で行われた「喬弟仁義」に行ってきた。

・左ん坊「からぬけ」
・喬の字「のっぺらぼう」
・喬之助「天災」
・さん助「夏の医者」
~仲入り~
・小太郎「四人癖」
・小平太「馬のす」
喬太郎「拾い犬」

さん助師匠「夏の医者」
おとっつぁんの具合が悪いので隣村の医者の先生を訪ねてきた息子。
山を越えすそ野をぐるっと回ってようやくたどり着き、呼んでも出てこないので見てみると、先生は畑で草むしり。
声をかけると、もうよぼよぼのおじいさん。…さん助師匠のよぼよぼ具合がすごい(笑)。
よぼよぼで耳も遠くてほげーっとしているのに「患者」と聞いて、はっとなって少し普通に戻るのがおかしい。
それじゃ行くべぇと歩きながら「お前は誰の倅だ?」と聞くと、若いころに一緒に遊んだ友達の子だとわかって大喜びの先生。
「あいつとはよくつるんで遊んだもんだ。村におなべっちゅう女がいて、この女が抱かせてくれるっちゅう噂があって二人で夜這いに行って…」。
夜這いの話を克明に語る先生に、「そんな話、聞きたくなかった!」と息子が言うのがめちゃくちゃおかしい。

山の頂上でタバコを一服のシーンものんびりしていて気持ちのいい風が吹いてくる感じ。
そこから一転して真っ暗になってどうやらうわばみに飲まれたらしい、と分かったときの先生の落ち着きがまたいい。

鈴本のトリが終わった次の日のさん助師匠。抜け殻なんだろうなぁと思っていたら決してそんなことはなく…ほどよく力が抜けてとてもいい「夏の医者」だった。
楽しかった。


小平太師匠「馬のす」
仲入りの時に喬の字さんの真打披露のチケットを売っていたんだけど、「私もやったばっかりだからわかるんです。本当に披露目の興行には来てほしいんです。特に鈴本は300名入る大きな会場ですから、ここがガランとしてると寂しいんです。来てください。喬の字の落語なんか聞きたくなくてもいいんです。口上に並ぶうちの師匠目当てでも…他にも豪華なメンバーが集まりますからそちら目当てでもなんでもいいんで。ぜひ来てください」。
心のこもった言葉にじーん…。いいもんだなぁ、兄弟子って…。ちょっと泣きそうになった。

そんなまくらから「馬のす」。
これが本当に素敵な「馬のす」でちょっとびっくり。
釣り好きの小平太師匠らしく、道具の扱いの所作がとてもリアルできれいでウキウキが伝わってくる。
馬のしっぽを抜いて兄貴分が「お前…今…馬のしっぽを抜いた?」と声をかけてきて、上がってからのやりとりは、兄貴分のじらし方と話が聞きたい男のじれ方が絶妙でとても楽しい。
特に兄貴分がどうでもいい話を延々とするところ…「電車…混んでるなぁ?」には大笑い。
すごく楽しかった。
二ツ目の頃から好きだったけど、やっぱり真打になると違うんだねー。と思っていたら、10月に鈴本のトリが決まったとの知らせ。これは行かねば!


喬太郎師匠「拾い犬」
初めて聴く噺。
貧乏長屋に暮らす二人の少年が白い犬を拾ってきて長屋で飼いたいと言うのだが、おかみさんたちに猛反対されてしまう。
間に入った大家さんが「犬は金持ちに飼ってもらうのがいい」と預かり、ある大店で飼われることに。
白犬のことが気になる少年が毎日その店を覗きに行っていると、そこの主人から声をかけられ、その少年のことを気に入った主人は「うちの店で奉公しないか」と言ってくれる。
それから10年が経って…。

いかにも落語の人情噺らしいストーリー。
笑いどころはそれほどない噺だけど、そこはクスグリやギャグを入れて時々ぶわっ!と笑わせつつ…人物がきっちり描かれているから噺に引き込まれる。
そしてシロのかわいらしさよ。やっぱりこういうところから説得力って生まれるのね、としみじみ…。
久しぶりに見たトリの喬太郎師匠。迫力があった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(10日目)

鈴本演芸場8月下席夜の部(10日目)に行ってきた。

 

・左ん坊「子ほめ」
・小太郎「ん廻し」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「財前五郎
・喬之助「堀之内」
・正楽 紙切り
・琴調「さじ加減」
・菊之丞「浮世床(本、夢)」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「お菊の皿
翁家社中 太神楽
・さん助「七度狐」

 

小太郎さん「ん廻し」
めちゃくちゃ面白かった。
お酒を前に「かくし芸をやってそのご褒美で木の芽田楽をあげる」と言われて、それぞれが披露するかくし芸。バカバカしい芸の数々に 笑った~。
ぎゅっと客席を引き付けた感じ。なんかすごいな、二ツ目なのに。

 

正楽師匠 紙切り
「さん助師匠」のお題に、「今日のトリね…さん助師匠」「とにかくすごいから。今日初めて見る人はびっくりするよ。ふふふ」。
この興業、何回「さん助師匠」を切ったのかな、正楽師匠は。
どんどんスピードアップして本人にそっくりになってきているのが最高すぎる。
そのあと、「結婚式」のお題に切り始めた時も「けっこんしきーーー♪けっこんしきーーー」って少し立ち上がって「あ、今ちょっとさん助が入ってます」に大笑い。
ファンにはたまらないこんなトーク


琴調先生「匙加減」
おおお、また違う話だ。
「匙加減」、落語では聞いたことがあったけど講談では初めて。
やくざ者でも恐れることなく対等に張り合える大家さん、素敵…。なんなんだろうな、こういう落語や講談に出てくる大家って。今の世の中にかけているのはこういう人間なのかもしれないなぁ。
10日間…代演もあったけど、全部違う話を聞かせてもらえてほんとに楽しかったなぁ。


菊之丞師匠「浮世床(本、夢)」
最初から最後までとっても楽しい。
「本」はいつも笑っちゃうんだけど、菊之丞師匠はくどすぎずさらーっとスピーディにやるんだけど隅々まで面白い。
「夢」は色っぽい菊之丞師匠にぴったり。音楽的だからおちょこが歌うところもご機嫌で楽しくて。
ほんとにこの芝居、菊之丞師匠にはヤラれたわー。惚れ直したわー。


扇遊師匠「お菊の皿
この日のお客さんにほんとにぴったりな噺。
おそらく落語をあまり聞いたことがないお客さんが多かったので「怪談?」「どういう展開?」ってわからずに聞いていて、この内容なので、ほんとにどっかんどっかん!と受けてた。
扇遊師匠の「お菊の皿」はお菊さんがお客さんが増えてこなれてくるところはなし。
いきなり興行になるので、お菊さんがどんなふうになっているかが初めて見る人にはわからない。
で、皿を数えると確かにくさくはなってるんだけど、おふざけがないので、まだ恨みを持っているようにも見える。
それだけにサゲが生きてくるわけで…
やっぱりこの噺は余計なあれこれをやらないほうがほんとに面白い、としみじみ思った。


さん助師匠「 七度狐」
この間聞いたこわーい映画の小噺で、どっかん!
これ、ほんとに最高。特におずおずと始まる、さん助師匠のちょっと音痴な歌声に笑ってしまう。
江戸っ子の旅のまくらから、気の合う二人連れが旅をしているところ。
後ろを歩く一人が「腹が減ったからちゅうじきにしよう」と何度も。
歩いていると飯屋を見つけて入る。
お、おお?「二人旅」?と思っていると、店にいるのはおばあさんではなくおじいさん。
酒を注文してつまみに何か…と探していると、そこにうまそうなイカ木の芽和えがある。これをくれ、と言うと、いやこれはこれから村の集まりがあってそこで出すものだからダメだ、とおじいさん。
ちょっとぐらいいいじゃねぇかよ、一人前だけ。無理なら半人前でもいい、と言っても「できません」。
ムッとした男が、勘定を支払って、イカ木の芽和えが入っている小鉢を持って駆け出す。

…おおお、これは「七度狐」だ!
投げた小鉢が林にいた狐に当たって、狐がぬおおおおおーーっと立ち上がるところがおかしい。
さん助師匠がぬおおっと立ち上がるとそれだけでおかしいんだな。
それから川が現れて裸になってそこを渡ろうとする二人。ここにも鳴り物が入ったらよかったなー。なんて思いつつ。

日が暮れて野宿になるかもしれないと思っているところに見えてきた寺。
ここに一晩泊めてもらおうと訪ねてみると、中から出てきたのは尼さん。
尼寺なので男性を泊めるわけにはいかないけれど、お寺でお通夜をするならいい、と言われる。
二人が尼さんからまずいべちょたれ雑炊をご馳走になると、尼さんはこれから自分は用事があって出かけるので留守番をしてもらいたい、と。
その前に、寺は夜になると裏にある墓場でしゃれこうべや赤ん坊の幽霊が騒ぎ出す、と聞かされていた二人は嫌がるのだが、尼さんは出かけて行ってしまう。
灯りを絶やさずにいれば幽霊も出てくることはないと言われていたので必死に油を注ごうとしてまちがえて…。
二人が怖がってきゃーきゃー言っているところで、鳴り物がどろどろどろ!!!
おおお!!と思っていると、さん助師匠は「あ、違います。そこじゃないです。」。
ん??
どうやらこのタイミングで鳴らすところではなかったらしい。
「こういうことがあるんですね…だからちゃんと稽古しなきゃだめですね」に大爆笑。
それからまた気を取り直して噺に戻り…
金貸しのばあさんの棺桶が運ばれてきて、このばあさんが「カネ返せ~」と化けて出たところで、鳴り物がどろどろどろどろ!!!
「そうです、ここです。ここで入るところでした」。
失敗をちゃんと笑いに変えてえらい!

千秋楽にこの噺を選ぶなんて、ほんとにさん助師匠らしいなぁと思うし、この人にはやりたい落語、見せたい景色があるんだなぁ、というのを感じた。
初日が「鴻池の犬」で最終日が「七度狐」。 ほんと、面白い噺家さんだな。
さん助師匠のトリは今回で3回目。見るたびにどんどん変わってきているし、今回は少し太くなった感じもして、ほんとに毎晩楽しみだった。
ありがとうありがとう。

 

【トリネタ】
・1日目 「 鴻池の犬」
・2日目 「子別れ」
・3日目 「もう半分」
・4日目 「佃島
・5日目 「妾馬」
・6日目 「らくだ」
・7日目 「宮戸川(通し)」
・8日目 「不動坊」
・9日目 「藪入り」
・10日目「七度狐」

鈴本演芸場8月下席夜の部(9日目)

8/29(木)、鈴本演芸場8月下席夜の部(9日目)に行ってきた。

 
・ひこうき「狸札」
・やなぎ「牛ほめ」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「お菊の皿
・喬之助「真田小僧
紙切り 正楽
・琴調「万両婿」
・菊之丞「酢豆腐
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「つる」
仙三郎社中 太神楽
・さん助「藪入り」
 
紙切り 正楽師匠
「障子の穴」のお題に、うわ、またこれはあれか、「闇夜の烏」的なお題かと思って、正楽師匠も「障子の穴?」と少しムッとしつつ、「あ、でもこうしよう。決めた」ってニコニコ切り始めてしばらくしてから…「あっ!さっきの噺か!障子にね、子どもが指でこう穴をあける…ね?真田小僧ね!」。
切りながら、お題について考えて、前方の落語の演目だ!って気づくって…すごいな、正楽師匠。
切った作品も素晴らしかった。物語があって。くーーー。
 
琴調先生「万両婿」
おお、また違う話だ。そしてこれは落語の「小間物屋政談」。
まー酷い話(笑)だけど、タイトルからわかるようにこれは一度どん底に落とされたものの逆玉に乗れる成功譚なのだな。
コミカルなところもあって楽しかった~。
 
菊之丞師匠「酢豆腐
わーーーー、菊之丞師匠の「酢豆腐」が見られるとは!幸せー。
もうこの若旦那が菊之丞師匠にぴたりとはまって楽しい楽しい。
センスを斜めにやりながら「こんつわ」とか「〇〇でげしょ」とか言うのが、リズミカルでなよっとしていて最高。
それを聞いて「あーー〇〇ですか」とげっそりする江戸っ子との対比が楽しい。
ずっと笑いどおしだった。楽しかった!
 
さん助師匠「藪入り」
先代のさん助師匠のおかみさんのところに年に二回伺っているというさん助師匠。
だんだんなじんできて最近ではおかみさんがいろんな話をしてくださるようになって、この間はさん助師匠との馴れ初めを話してくださった、と。
 
…ああ、素敵だなぁ。さん助師匠って緊張症だからきっと最初のうちはあわあわしてて話どころではなかったんだろうけど、徐々にお互いに慣れていって、昔話をいろいろ聞かせていただける…さん助師匠がそういう話をとても楽しんで聞いていることが伝わってくるし、私たちもそういう話を聞けるとものすごいお得感。嬉しくなる。
 
そんなまくらから「藪入り」。
さん助師匠の「藪入り」は、くまさんがちょっとひねくれてる。
まだかまだかと待ちわびて4時と聞いて家を飛び出すと家の前の掃除。そこで近所の人たちに声をかけられたときのしゃくれ方に笑ってしまう。
ようやくかめちゃんが帰ってきたら変な任侠みたいなあいさつで返すし、顔を見られなくてヘンテコな態度。
でも自分が病気の時にかめちゃんがくれた手紙がなにより薬になったということを話し始めると、それまでのヘンテコな態度はなくなって、素直に自分の気持ちを語りだす。
まだ10歳の子どもを奉公に出す親の心配はいかばかりだったかと思う。その子が三年ぶりに帰ってきて大人びた口をきかれたら、確かにどう返していいかわからなくなるよな…。
 
がま口に大金を見つけたあとは、かーっと頭に血が上ってかめちゃんをぽかりとやってしまうくまさん。
盗んだと決めつけられたかめちゃんが、それまでの大人びた口調から一転して子どもに戻ってしまうところが泣ける…。
ほんとはまだまだ子供なんだよ。
でも誤解されて傷つけられてもけろっと水に流せるのが親子。
さん助師匠にしたら抑えめ?だったけど、じんわりとよかった。
 
いよいよ残り一日。
あー、あっという間だったなぁ。
 

七つのからっぽな家

 

七つのからっぽな家

七つのからっぽな家

 

 ★★★★

家庭や日常に潜む狂気をえぐりだす「家」をめぐる7つの短篇。国際ブッカー賞最終候補、ラテンアメリカ新世代の旗手の代表作。 

一話目を読んで、この母親、何かがあって一時的に正気を失っているのか、あるいは狂ってるの?と思いながら読んでいると、あーでも自分もほんの少し理性が飛んだら同じことをしそうだなと思う。

そもそも正常と異常の境目ってなんだろう?
自分が生きている「日常」にも異常なことは幾らでもある。これは今は正常、これはぎりぎりセーフ、こうなるとアウト、みたいな判断をしながら生きることのつまらなさをふと空しく思い、いやでもまだ私は…まだ!とも思う。

足元がぐらつくような不穏な短編集。「空洞の呼吸」が飛びぬけて凄かったけど、楽しそうに庭で走り回る裸族の両親の姿が目に焼き付いてる。

南米の作家だけどいかにも南米という感じはしなくて、むしろ最近の日本の若い作家に似た雰囲気。
面白かった。

鈴本演芸場8月下席夜の部(8日目)

8/28(水)、鈴本演芸場8月下席夜の部(8日目)に行ってきた。


・小はだ「二人旅」
・小んぶ「強情灸」
・アサダ二世 マジック
・玉の輔「宗論」
・喬之助「寄合酒」
・正楽 紙切り
・琴調「鋳掛松」
・菊之丞「幇間腹
~仲入り~
・ニックス 漫才
・扇遊「浮世床(夢)」
翁家社中 太神楽
・さん助「不動坊」


琴調先生「鋳掛松」
わーい、また聞いたことがない話だ。嬉しい~。
鋳掛屋の息子・松五郎。12歳の時に呉服屋に奉公に出る。ある日、使いに出た時に泥棒に脅されるが機転を利かせて泥棒を手玉にとる。それを知った店の主人、褒めるどころか「この子は頭が良すぎるからいつか店を滅ぼすことになるかもしれない」と言って松五郎に暇を出す。
そんな理由で暇を出されるとは…これも鋳掛屋の倅だからだ…と父親は嘆くが、松五郎は自分は鋳掛屋を継ぐから教えてくれ、と言う。
父が亡くなったある日、両国橋で枝豆売りの母子に出会い…。

同じ人間でも金を持ってる人間と金のない人間がいて雲泥の差があるというのを目の当たりにした松五郎が「だったら俺も太く短く生きようじゃねぇか」と考えるところは、確かに呉服屋の主人の見立てもあながち間違ってはいなかったのかもしれない、と思わせる。
悪の道もかっこよく描くところが講談の魅力だなぁ。


菊之丞師匠「幇間腹
この芝居、菊之丞師匠の高座がほんとに素敵で。
さん助ファンにマニアックな香りを感じるせいなのか?普段聞けないような話をまくらでしてくれたり、さん助師匠の落語と対極にあるような音楽的なノリのいい落語を披露してくれるのが毎回楽しみで楽しみで。
ほんとに顔付け最高だな~。鈴本演芸場よ、ありがとう。

幇間腹」も一八の調子の良さがたまらなくおかしい。
しなやかなんだなぁ。だからもう見ているとウキウキお腹の底から楽しくなってくる。
うーん、丞様素敵。

 

扇遊師匠「浮世床(夢)」
女にもてた話を気取ってするはんちゃんとそれに食いつく若い連中のワイワイガヤガヤ。
楽しいなぁ。浮世床の夢がこんなに楽しいか。扇遊師匠がこの位置で出てるってすごい贅沢!
すごくいい感じにあったまるんだよなー。


さん助師匠「不動坊」
さん助師匠の「不動坊」の面白さったらない。
大家さんにおたきさんとの結婚を勧められた吉さんが「おたきさんはあたしの女房なんです」と言って「ください!ください!」と迫ると、大家さんが「お前さん、気持ち悪いよ」と言うのがめちゃくちゃおかしい。
自分で気持ち悪いってわかってるんだ?(笑)

風呂屋さんでの浮かれっぷりも楽しいんだけど、なんといっても元前座のおじいさん。これがもうたまらない。
稽古の時のド迫力。これがまた気持ち悪い(笑)。
そして本番になったときの…。

もうほんとにおかしくておかしくて爆笑の連続でこういう「不動坊」は他の噺家さんでは見られないなぁと思うと、私はほんとにさん助師匠の落語が好きだなぁと思う。
好きじゃない噺なのにこんなに面白いってすごい。

あーーさん助師匠のトリも残すところあと2日。
あと2日で終わってしまうのがとても寂しい。でもあと10日続いたらお金も体力も持たない(笑)。

そして昨日はついに正楽師匠に「さん助師匠」を切っていただけた。
というより自分で声をかけたのに声が届かずぐずぐずしていたら私の前に座っていた方が私の代わりに声をかけてくださって「はい」と手渡してくれたのだ。うううううー。こんなことってあるかな。ほんとに人の情けが身に沁みた…。
そして切りながら正楽師匠が「さん助さんね…動きのある落語。動くね。なんであんなに動くかね」とか「有望な若手」とか「意外に若い。年寄りに見えるけど意外にね…あはははは…若いんですよね」とかおっしゃるのがまた嬉しくて。
家宝や!

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