りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

体温

 

体温

体温

  • 作者:多田 尋子
  • 出版社/メーカー: 書肆汽水域
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

 15歳のとき、両親が本当の両親ではないと知らされた素子。兄の藤一とも血が繋がっていないと知ったそのときから、素子は藤一に恋心を抱くようになる(「秘密」)。
8年前に夫を亡くした率子は、夫の仕事仲間だった小山と再会し関係を深める。率子の自宅の客間を間借りしている女子大生の清子とあけみ、そして娘の百合、幼馴染の光子。賑やかな生活を送る中で、小山との関係はどのような進展を見せるのか―(「体温」)。
心地好い温かさに包まれていたはずが、いつのまにか孤独や哀しさの方に針が振れ、心に引っ掻き傷を残す。歴代最多の六度芥川賞候補にあがった著者の、成就しない大人の恋愛小説集を復刊。
「体温」「秘密」「単身者たち」の3作品を収録。

 私が読んだのは講談社の「体温」で、収められていたのは「やさしい男」、「焚火」、「オンドルのある家」「体温」。絶版になっていて書影もなかった。

とても面白かった。それぞれの物語に出てくる男性が独特で「こういう時代もあったのね」では済まされない何かがあるように思う。
「男とはこうあるべし」という社会的な圧力のようなものが確かに存在していて、それに守られたり追い詰められたりしながらも、「男」として生きようしている。

そういう男性を許すでもなく受け入れる女性がまた独特で、彼女たちの感じ方や行動は明らかに自分とは異質なものなんだけど、そこに強さも弱さも透けて見えてなんだか揺さぶられる。

こういう男女の描き方は今の時代では「古い」と言われてしまうのかもしれないけど、でもその実ここに描かれてる女性はみな凛としていて強い。「自立」って経済的な自立だけじゃないんだよな。

何かとても生々しいものを見た気がするけど、それが全然不愉快でないというか、人間って面白いなぁと思う。他の作品も読んでみたい。
というか、この書影にある「体温」買って読まなきゃ。