りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第八回 柳家さん助の楽屋半帖

12/16(月)、駒込落語会で行われた「第八回 柳家さん助の楽屋半帖」に行ってきた。
 
・さん助「狸札」
~仲入り~
・さん助「煙草好き」「ベーリング海のたぬき(泉岳寺、重版出来、人魚)」
・さん助「ねずみ穴」
 
さん助師匠「狸札」
どんな噺家さんも当たり前にやる「狸札」。もう聞きすぎて笑うこともないんだけど、さん助師匠の場合、当たり前のクスグリとかが当たり前に聞こえないので、なんか笑ってしまう。
いや…本人は普通にやってるんだけど…安定してないっていうか危なっかしかったりして、なんでこんなつまらない誰もがやる噺がふつうじゃないんだ?というおかしさ。
あと、さん助師匠の子どもと動物はかわいい。とても。
 
さん助師匠「煙草好き」「ベーリング海のたぬき(泉岳寺、重版出来、人魚)」
高座に上がって頭を下げたら、煙草のまくら。
昔から煙草というのはあったんだけど、最初のうちは葉っぱを噛んでいた。
それを筒状のものに詰めて火をつけると香ばしくて香りがあって美味しいということで、吸うようになった。
煙草には今もいろんな銘柄があるけれど昔もそうで、その地方地方によって味が違って、どこどこのが一番上等…というようなことがあった。
そんな時代のお噂です。
と言って始まったのが、おおお、これが前回幻の噺家にさん助が教わりに行った「煙草好き」?
ということは前回の続き?
主催者のブログでは続きをやりますと書いてあったのに、三大噺のお題取りを始めて「え?」ってなったら「続きはやりませんよ」と言っていたのに?!
 
昔は春になると江戸っ子は大師詣りによく行った。
歩いて行くのにそんなに無理のない距離だし海も近いし魚もうまい
今日ものんびり物見遊山と思われる旅人の姿。
前を行くのは担ぐほど大きな煙管を持った男。その後ろを行くのは小間物屋の商人なのか大きな荷を背負った男。
前を行く男がここらで一服しようと思ったのか、石の上に座って煙草を吸いだすと、後ろから荷を背負った男がそれに追いついて話しかけて来た。
「あなた、そんな大きな煙管を背負って…よっぽどな煙草好きなんでしょうな」
「ええ、私は大の煙草好きです。見てください私のこの煙草入れ。大きいでしょ。毎日これだけの量をやってるんですから。私以上の煙草好きはいませんよ」
それを聞いて荷を背負った男が「あなたはたいした煙草好きではありませんな。素人です」
「何を失礼な!」
「まぁそうお怒りにならないで。これをご覧ください」
そう言ってその男が荷を下ろして包みを開けると、男が担いでいた箪笥の中にはびっしり煙管が入っていて、下の段には炭まで入っている。
「煙草というのは葉っぱによって味が違うし味わい方も違うから、私は葉っぱによって煙管を変えてます。あなた、これを吸ってどこの煙草だと当てることが出来ますか?」
「ええ、もちろんです」。

ということで、急遽始まった利き煙草。
この煙草の銘柄の名前や蘊蓄がとっても楽しい。
「これならわからないでしょう」と自信満々で差し出しても「ああ、これなぞは久しぶりですな…」と答えられる。
差し出す男は感心しながらも負けん気を起こして「これならどうだ」「じゃこっちは」と出し続ける。
答えてた方もさすがに吸いすぎで気持ちが悪くなってきて「そろそろやめましょう」と言うのだが「いーや、まだまだ」と許さない。
もうこれ以上は無理だ!と大きな煙管を持って逃げ出すと、男もまた荷をまとめて背負って追いかける。
煙草好きが渡し舟を見つけて「出してください!お金はいくらでも払うから!」と言って船を出すと、またそれを追いかける煙草好き。
 
この煙草好きが煙草好きを追いかけるところの描写がすごく楽しい
サゲもよくて、楽しい~!!!
 
で、サゲを言って頭を下げて、お客さん(私たち)が拍手をすると、「あーー落涙師匠、ありがとうございました」とさん助。
おおお、今の一席は悲哀亭落涙師匠の稽古だったのか!
どうりで話し方がなんかいつものさん助師匠と違ってちょっと落ち着いてて昔の名人(!)っぽいと思った!途中からいつものさん助師匠に戻ってたけど(笑)。
念願の落涙師匠から「煙草好き」を教えてもらえて満足したさん助。
師匠の本棚を覗いて「ああ、これが例の入鹿に乗った少年の本ですね」と言うと、師匠が「ええ、それはとても売れました。 重版出来でした」(パチパチ!)
「それでは私は帰ります」と立ち上がろうとすると「ちょっとあなた、そのまま帰っちゃだめですよ」と落涙師匠。
「え?」と驚くと「あなたは大変な想いをして山を登って私の所まで訪ねてきて煙草好きを教わった。今度は海へ向かいなさい。ベーリング海峡を越えたあたりに、うどん亭たぬきというやはり幻の噺家がいます。その人にも噺を教わりなさい。そうすればあなたの芸は深いものになりますよ。」
ベーリング海峡…わかりました!」
 
それからいきなり海で泳ぎだすさん助。(え?八甲田山は降りないの?その海はどこの海?そこからベーリング海峡を目指すの?しかもその泳ぐしぐさはいったい…もしやさん助師匠カナヅチ?
えいやーえいやーと泳いでいるうちに「ああーーあれはなんだー。鮫が船を取り囲んでる!!」
近づいてみると鮫に囲まれた船で大きな声が聞こえてくる。「頃は元禄14年…」
「あ!あれは鮫講釈、鮫講釈だ!」(ぶわははは!!)
その講釈の中に「泉岳寺」も!(パチパチ!)
「あ、鮫が離れて行って船が動き出した!すごいな」なんて言ってると、鮫がこちらに向かってくる!大変だ!
と、また泳ぎだすさん助。
しばらく泳ぐと「あ、あれは!!氷の上に羽織を着た人が…”時そば”やってる!!あれは間違いなくうどん亭たぬき師匠!たぬき師匠ーーー!」
(そばを食べるしぐさ)
「…それにしても…そばを食べるのが下手だな…下手だよ…うん…でもあれは地方でやるとウケるから…」(ぶわはははは!)
 
師匠に近づいて行ってみると、師匠が変な横座り!
「ま、まさか…うどん亭たぬき師匠は人魚に?!」(パチパチ!)
「そうよ。長く海にいたら人魚になっちゃったのー」
「しかも女性…?」
「性別もかわっちゃったのよー」
「人魚の噺家なんて…師匠東京に行きましょう!絶対売れますよ!
「え?売れる?まだ売れるかしら?」
「ええ、絶対売れます!」
「あら、じゃ行こうかしら。東京まで」
「泳いでいきましょう!」
「あたし泳げないの。だから捕鯨船に乗って行きましょ」
「ほ、捕鯨船?」
 
そんな話をしていると、ぐおーーぐがーーーーと現れたのが捕鯨船ありえない船のしぐさ!)
中から出て来た人が「なんちゃらかんちゃらぺらぺらーーー」
「え?何言ってるの?これ、なに?」
「あらこれはアイスランド語よ(だったっけ…?ノルウェー?)」
「え?師匠、わかるんですか」
「わかるわ。」
「なんて言ってるんですか?」
「乗せてもいいけどお金をよこせですって」
それを聞いて懐を探るさん助が「あー私、お金持ってません。師匠は?」と聞くと、師匠が「あら、あたしもおあしはないわよ。だって人魚ですもの」
 
…ぬおおおお!!サゲがものすごーーくきれいに決まった!すごい!!
めちゃくちゃ面白かった。
なによりも横座りした人魚の師匠。場末のバーのマダムっぽさがあって、たまらなくおかしかった。
 
さん助師匠「ねずみ穴」
あんな爆笑な三題噺をしたあとによく「ねずみ穴」をかけられるよ…(笑)。いいのよ、楽しい噺でも。
なぜかこの会では結構後味の悪い噺をかけることが多い気がする。
 
さん助師匠らしい味を期待したけど、まだそこまでは行ってない感じ(上から目線ですびばせん)。
このお兄さん…結構非道な印象。
お兄さんへの長年の恨みと「ああは言ってたけどもしかして本当は…?」という不安がそういう夢を見させたんだろうな、と思う。
竹次郎の方の甘さは伝わってくるので、お兄さんのキャラクターがもっとはっきりすれば…嫌な噺だけどもしかするとさん助師匠の「ねずみ穴」は好き!になるかもしれない。
 
あー楽しかった。