りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第17回 よみらくご『白鳥座』へようこそ

11/14(木)、大手町よみうりホールで行われた「第17回 よみらくご『白鳥座』へようこそ」へ行ってきた。
雲助師匠が白鳥師匠の新作をやるらしいよと聞き、ぬおおお!それはぜひとも見に行きたい!と思った時にはすでにチケット発売から何日も経っており、どうにかこうにかチケットを買えたものの一番後ろの席。こーんな高くて遠いところから落語見るの久しぶり~。
 
・白鳥「寄席ざわざわ」
・宮治「ナースコール」
・雲助「鉄砲のお熊」
~仲入り~
・鯉栄「流れの豚次伝~任侠流山動物園」
・白酒「メルヘンもう半分」
 
白鳥師匠「寄席ざわざわ」
こんな大きなホールで自分の新作を他の噺家さんや講談師がやってくれるということが本当に嬉しい、ついに俺の時代が来た!と白鳥師匠。
主催者から「どなたにやってもらいたいですか」と聞かれたときに、絶対に無理だろうけど言うだけ言ってみようと「雲助師匠」と名前を挙げた。
承諾してくれたと聞いて信じられない気持ち。
楽屋でお会いした時に「師匠、何をやりますか?豚の任侠ものがいいですか?それとも…」とあれこれあげると「…まともなやつはないのかよ!」。
台本やCDを渡しておいたけど、ほんとに楽しみです、とニコニコ。
 
で、主催者から「他の演者さんが苦しんでいるんですから白鳥師匠もネタ卸しを」と言われてしまった。
鈴本のトリが終わったところなんですからそんなの無理ですよ!と言ったけど聞いてくれない。
だいたいネタ卸しなんていうのは自分の小さな会でかけて、それから人の少ない池袋でかけて…そうやってどうにか人前で出来る状態にもっていくものなのに、こんな大きなホールで新作のネタ卸しって…。やりますけど。
 
鈴本の追い出し太鼓を叩き終わった時分に席亭が「今日はお疲れ様。何かおごるから飲みに行こう」と前座さんに声をかける。
「急いで高座を片付けますから」と前座が言うと「いいよ、どうせ明日もあるんだからそのままで」。
誰もいなくなった演芸場で、置きっぱなしにされたマイクとめくりがしゃべり出す…。
 
「あーもうこういうときは擬人だよ擬人!」「安直だけどな。得意の擬人で!」そんなことを言いながら、マイクとめくりが最近の新作事情についてあれこれ語りだすと、そこに座布団師匠、最後はふすま師匠も出てきて喋る、という内容。
後から出て来た白酒師匠が「白鳥師匠が今日やった新作、聞いてないけどどうせやっつけでしょ!」と言っていたけど、たしかにやっつけ感は否めず(笑)。笑ったけど内容をまったく覚えてない(笑)。
 
宮治さん「ナースコール」
ハイテンションで前の方のお客さんをいじりながらギャグ入れたりアクション入れたりして頑張ってた。
「ナースコール」は白鳥師匠で見たことがあったけど、白鳥師匠のナースの方が頭悪いけど善意があってかわいかったな。
 
雲助師匠「鉄砲のお熊」
私の隣の席に座った女性も雲助師匠が出てくるときに身を乗り出して大きな拍手をたっぷりしていて、友よ…と思った。
このお話を最初にいただいた時は、白鳥師匠の独演会にスケで出て15分ぐらいやればいいのかなと思ってお受けしました。でもあとから聞いたら、白鳥師匠の作った新作をトリで45分ほどお願いします、と言われて。いやいやいやいや無理無理!そう言ったら、じゃ仲入りをお願いします、と言われました。
それで白鳥師匠の新作の台本やCDを集めてこの中から少しでもまともなやつを(笑)選んで稽古しなきゃと思ってはいたんですけど、どうにも気が進まない。
それでもお客様に会うたびに「白鳥師匠の新作やられるんですよね」「楽しみにしてます」と声をかけられることが多くて、言われるたびに気がおもーーーくなってきて。
こりゃいよいよ手をつけなきゃ間に合わないぞと思って読み始めてびっくりした。
白鳥師匠っていうのは…すごいストーリーテラーなんですね。まさかこんな風にストーリーがしっかりした新作を作っているとは思わなくて。寄席ではおかしな「時そば」とか…短くてくだらない新作しか見たことなかったですから。
これはすごいぞ、白鳥っていうのはもしかすると現代の圓朝かもしれない!
…と一瞬思いました。
 
そんなまくらから「鉄砲のお熊」。
ある村で長吉というガキ大将が村の子どもたち相手に相撲をとって、ばったばったと倒していく。
相撲にはまるで興味のない時次郎というひ弱な少年にむかって「俺と相撲をとれ」と長吉。
自分は相撲には興味がないしできないと言う時次郎に無理やりつかみかかり「あれ、お前いい匂いがするな」。
逃げようとする時次郎を離さない長吉。
そこへ現れたのがおみつ。「長吉、お前また弱い者いじめをして。あたしが相手だ!」。
「女のくせに生意気な!」
長吉とおみつで相撲をとるが長吉は投げ飛ばされてしまう。おみつが時次郎を心配して話しかけているとそこへ後ろから長吉がやってきておみつに向かって石を投げつける。額に当たって血を流すおみつ…。

男勝りで身体の大きいおみつだが、その後父親が借金をして村を出る。
それから何年かして。
おみつは女相撲でメキメキ実力を上げて「鉄砲のお熊」と呼ばれるようになっている。
そんな時、通りかかった故郷の村を訪ね居酒屋に入ると「お前はおみつじゃねぇか?」と店の主に声をかけられる。
はまぐりの塩焼きで酒を飲むおみつにあれこれ昔話をしていた主が「そういえば今この村に時次郎が来ている」と話す。
江戸で歌舞伎役者になり夢之助と名乗る時次郎は女形として人気があり、村の女の子たちが群がっているのだが、江戸から付いてきている御贔屓のキツネ目の女が時次郎を囲ってそばに寄らせないらしい。
そんな話をしているところへ宿屋の小僧が息せき切って入ってきて「時次郎がさらわれた!」と言う。
なんでも最近このあたりを荒らしている盗賊が「時次郎を返してほしければ百両寄こせ」と言っている、と。
残忍なことで知られるその盗賊のもとに百両を届ける勇気のある者はいなくて困っているらしい。
それを聞いたおみつは「あたしがその金を届けてやる」と言い出して…。
 
おみつが故郷の店に入った時、主が「え?マツコ・デラックス?」と言ったほかはギャグなしで古典のしっかりした人情噺のような流れ。
おみつは何事にも動じないしっかりした女。時次郎は美しくてひ弱な男。長吉は手段を選らばない悪党。と、キャラクターがくっきり。
再会した二人がお堂に隠れて想いを語り合うところなんか色っぽくて美しくて…。
さらに最後に横綱の土俵入りの場面の緊張感と美しさと言ったら…。時次郎の口上が芝居仕立てですごくかっこいい。
さすが雲様!!!という素晴らしい高座で、かっこよかった~。しびれた~。
 
鯉栄先生「流れの豚次伝~任侠流山動物園」
鯉栄先生の「 任侠流山動物園」は前にも聞いたことがあったけど、落語を講談にすることで任侠の部分に迫力が出てストーリーに説得力が増しているのは凄いと思う。
笑いもしっかり取りながら、疲れさせないしダレさせない。
そして流山動物園から上野動物園へ向かう道中の言い立てのかっこよさ!
短い持ち時間で存在をしっかりアピールしていてさすがだった。
 
白酒師匠「メルヘンもう半分」
よみうりホールで「白鳥座」って…正気ですか、よみうりさん。この大手町ホールに明らか汚点を残すことになりますよ。うちの師匠もう帰りましたけど、泣きながら帰りましたからね。
1席目の白鳥師匠の高座、私は見てないですけど、どうせやっつけだったんでしょ!この間楽屋で会った時「めんどくせえなぁ」って言ってましたから。
今日のことは記録なんかしないでくださいよ。会場出たらプログラムも破り捨てて!記憶からも消し去って!
…毒吐きまくりの白酒師匠。
そんなまくらから「メルヘンもう半分」。
 
タイトルだけは聞いたことがあったけどまさかこんな噺だったとは
もうとにかく「もう半分」っぽい世界観と、それをぶち壊すカレたちの存在感のギャップがたまらない!!
あのだめだめな主人公が今ではこんなやさぐれた居酒屋の主人に!というのもおかしいけど、ということは連れ添う女房(より悪人度が高い)がみんなのあこがれの的だった彼女なのか、というのも最高におかしい。
この二人がいかにも生活に疲れた感じで悪党っぽくて、二人だけのシーンを見ると「もう半分」以外の何物でもないのに、そこにものすごい異物が入ってくることで生まれる破壊的な面白さ。
しかもタイムマシンで訪ねてきたカレがもうめちゃくちゃかわいい!声がそっくり!うまい!そもそも体形からしてカレっぽいからぴったりはまってるんだよぅー。手がまるくてかわいくてそれがその声とマッチしていて。
そして脇役たちの声真似のレベルもめちゃくちゃ高い!!
 
「なんでそこ、”もう半分”に寄せてくるんだよ。もういいだろ、寄せなくても。めちゃくちゃなんだから!!」なんてセリフが入るのもすっごくおかしい。
すごい芸がちゃんとしてるから余計に面白いんだな。
笑った笑った。最高だった。
雲助一門すげぇ!!!っていう会だった。すばらしい。