りつこの読書と落語メモ

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斎藤真理子「韓国現代文学入門~その2 IMF経済危機と韓国文学」トークショー

10/26(土)、B&Bで行われた”斎藤真理子「韓国現代文学入門~その2 IMF経済危機と韓国文学」トークショー”に行ってきた。
以下、覚書。

 

1997年韓国のIMF危機。「国難」。
それまで軍事国家だった韓国が民主化したのが1987年。生活が豊かになり中産階級が増える中、1997年株が暴落し韓国経済は破綻。これがIMF危機。この時に、韓国経済が破綻し経済主権を完全に失いIMFに全てを委ねた。
リストラが行われて仕事を失い家を失い自殺する人も多く、また企業が新卒採用をやめたため非正規社員が増え、また格差が広がった。これが韓国文学にどのような影響を与えているか。

 

・「三美スーパースターズ 最後のファンクラブ」(パク・ミンギュ)IMF当時29歳。作品発表時35歳。
デビュー作。IMF当時サラリーマンをしていて、勤めている会社のビルから公園が見え、そこにはリストラされたことを家族に言えない人たちが大勢集まっていた。その姿を見てこの人たちを少しでも励ましたいという思いからこの作品を書いた。これがデビュー作。

弱小のプロ野球チーム「三美スーパースターズ」を通して、プロフェッショナルとして生きること、圧倒的な弱さを引きうけて生きることの意味を描く。

 

・「誰でもない」(ファン・ジョンウン) IMF当時21歳。作品発表時36~39歳。
作家の間で人気があり信頼されている作家。自分が見聞きしたことを丁寧に描き、様々なことを引きうけようという覚悟が見られる作家。
「誰でもない」に入っている「誰も行ったことがない」は、子どもを亡くした夫婦が海外旅行に出かけ、留守番を頼んでいた弟に自分たちが無事についたことを知らせる電話をかけるとそこで「兄さん、韓国がつぶれた」と言われ、意味が分からずに茫然とするシーンが書かれている。

この子どもを亡くしたというのは、2014年のセウォル号沈没事故が示唆されている。IMF世代(IMF危機の時に20代前半だった人たち)にとってこの事故は非常にショッキングな出来事で小説を書けなくなった作家も多数出た。ファン・ジョンウンもこの時期作品を書けなくなっており、しばらくしてから書いたのがこの作品。

セウォル号沈没事故 は船長が非正規で給料も安くそれ故自分が誰よりも先に逃げ出すというような行動をとった、とも言われている。
 
・「走れ、オヤジ殿」(キム・エラン) IMF当時17歳。作品発表時22~25歳。
それまで家長制度がしっかりしていて一家の大黒柱として君臨していた父親が、IMF危機後仕事を失いショックから酒に走ったり鬱になったりして家にいることが多くなる。そんな父親の姿に戸惑ったり軽蔑を抱いたり家庭が崩壊するようなことが当時いくらでもあった。
ここに描かれる父親も逃げる情けない父親。しかしそれを冷たく突き放すのではなくユーモアをこめて少し引いた視点から描いている。この作品ではどちらかというとユーモアがあるが、最新作「外は夏」は喪失感がもっと前面に出ている。


・「あまりにも真昼の恋愛」(キム・グミ)IMF当時18歳。作品発表時36~37歳。
仕事を失って無気力になった父親のみじめな姿、将来への不安、感情の行ったり来たりを繊細なタッチで描く。

 

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斎藤真理子さんが講義形式で話をされ、途中から古川綾子さん、すんみさんも登壇されて自分たちの経験や翻訳された作品についても話をされた。
IMF危機のことなど私は全くよくわかっていなかったのだが、ここで題材として挙げられた作品は全部読んでいたので、あそこに描かれていた焦燥感や危機感はこういう背景があったのか、と初めて知ることができた。
また今なぜこんなに韓国文学が面白いんだろうかと不思議に思っていたのだが、韓国経済がこんなにも急展開したことで我々日本人の三倍速ぐらいのスピードで変化を受けていること、三世代同居していたら全く違う社会を生きているわけで価値観の違いや摩擦も日本以上にあることなども挙げられて、なるほど…と納得した。
社会の変化を見つめ人間の在り方をまじめに考える若い作家がたくさんいるのは素晴らしいことだと思う。

また斎藤真理子さんのようにセンスがあって頭のきれる翻訳家がいることで優れた作品がどんどん見いだされ翻訳されているのだろうと感じた。
日本にいて韓国の若い作家の作品を次々読める幸せを噛みしめる…。