りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

娘について

 

娘について (となりの国のものがたり)

娘について (となりの国のものがたり)

 

★★★★★

老人介護施設で働く「私」の家に住む場所をなくした三十代半ばの娘がしばらく厄介になりたいと転がりこんでくる。しかも、パートナーの女性を連れて。娘の将来を案じるあまり二人とぶつかる「私」にやがて起こる、いくつかの出来事と変化とは。LGBT、母子の関係、老いというテーマを正面から見つめ「シン・ドンヨプ文学賞」を受賞した傑作長編。


「善い人」として生きてきた母親が、娘の同性愛を恥ずかしく思い、育て方が悪かったのか教育を与えすぎたのがかえってよくなかったのかと悩む姿には「娘の生き方を認めてあげなよ」という思いを抱きつつも、気持ちはわかるので身につまされた。

介護施設で働く彼女は、若いころにアメリカで学びヨーロッパで活躍し自身とは全く関係のない子どもたちを援助したジェンの介護をしているのだが、認知症が酷くなったジェンは待遇の悪い施設に送られるのを目の当たりにする。

常識人としてふるまうことを当たり前と思って生きてきた母親が、職場では明らかに上司の不興を買うような行動をとってしまい、最終的には職を追われてしまう。
また、同性愛であることを理由に職場(大学)を追われた教師仲間のためにデモを行っている娘とその恋人「あの子」の行動を苦々しく思っていた母親だが、現場に行き彼女たちへの激しい憎悪をぶつける「普通の人たち」の言動を目の当たりにして衝撃を受ける。
あの子たちがそんなに悪いことをしたのだろうか。性的マイノリティーであることと仕事は分けて考えるべきなのではないか。

娘と「あの子」に少しだけ歩み寄りながらも、それでもやっぱり娘が普通の家庭を持つことを諦めきれない母親の心情。
タイトル同様地味な内容だけどとても素晴らしい作品。よかった。