りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

さん助ドッポ

6/30(日)、さん助ドッポに行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十九回「熊吉の亡霊」
~仲入り~
・さん助「京見物」
・さん助「麻のれん」


さん助師匠 ご挨拶
私は、当たり前のことを当たり前に聞いてしまうところがあります、とさん助師匠。
頭痛が続いていて…という話をしている人に向かって「頭痛って辛いんですか?」と聞いてしまったり(頭痛がつらいっていう話をしているんだから辛いに決まってる…)、この間は楽屋で小燕枝師匠と圓丈師匠と一緒になりまして…お二方とも楽屋でぱーぱー話すタイプの師匠じゃないんですが…。我々の着る着物は春、夏、秋、冬といろいろ種類がありまして、中に「綿入れ」というのがあって今では着る人はまずいないです。五代目小さん師匠は季節ごとにきっちりと着物を替える方で、冬には綿入れを着ていらしたという話を小燕枝師匠がされていまして。「らくだ」なんていう長講を綿入れを着て1時間弱やっても汗一つかいてなかったそうです。普通「らくだ」をやるとたいていの噺家は汗だくになるものなんですが。
それ、すごいいい話じゃないですか。私それを聞いて思わず「あの…綿入れって暑いんですか」って聞いちゃったんです。そうしたら小燕枝師匠が一瞬「うっ」って詰まって…その後に「うん…暑いよ」。
そうしたらそれまで黙っていた圓丈師匠が「綿が入ってるからね」。

…ぶわはははは!!最高だな、その話。まるで落語だ。ほんと、面白いわ、さん助師匠って。


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十九回「熊吉の亡霊」
ついに御用となった義松。
親分の平三を始め、その手下の者もみな牢に入れられてしまう。
しばらくお裁きもなく放っておかれたが、何か月か後についにお裁きとなり、義松は今までの悪事が露見して極悪人としての扱いを受ける。籠の中に入れられ糞尿もそこでしなければならない。見せしめの意味もあるのでその状態で町中を引きずり回される。
江戸からは「その者は極悪人のため決して逃がすことのないように。早く引き渡してもらいたい」とのお達し。

義松が連れてこられるという噂が流れると町の人々は極悪人を一目見ようと街道に集まってくる。
その中で「これから通るのはなんという者ですか」と尋ねた旅の男。「八艘飛びの義松」と聞いて顔色を変える。
そのうち義松を入れた籠がやってきて、一目見ようと人々は群がる。その姿を見てはっとした旅の男、その気配に反応する義松。

その晩は大雨に雷。見張りの者たちが雷に怖気づいて中に入ってしまうと、牢に入ってきた男。真っ暗闇の中「親分。義松親分」と声をかける。義松がだれかと尋ねるとこれが木更津で自分の子分になった鷲の三蔵。籠を匕首で引き裂いて義松を出してやる。
長いこと閉じ込められていた義松は糞尿にまみれ一人で歩くこともできない。そんな義松を背負い雨の中駆け出す三蔵。
二人は一軒のあばら家を見つけそこにいた老人に一晩泊まらせてくれと頼むと、老人は何も聞かずに二人を中に入れ雑炊をふるまってくれる。
囲炉裏の脇で眠ればいいと言って老人が部屋に引っ込むと、二人はそれまでの出来事を語り合う。

三蔵は今まで自分の体についた垢を落とそうと思っていると言い、「俺たちの体についた垢が落ちるなんてことがあるか」と笑うのだが、三蔵はそれができるのだ、と言う。
慶喜公は次郎長親分を自分の用心棒にして他にも信頼できるやくざ者を300名集めようとしている。自分はその300名の中に選ばれた。今まで悪いことばかりしてきたが今度は次郎長のもとに行って働こうと思っている、と。
そして自分がそういうふうになれたのは義松のおかげ。木更津の海に落ちた時、これで命は尽きたかと思ったが義松は自分を助け出してくれた。その恩義は忘れない、と言う。
それを聞いて義松は喜ぶが今の自分は一人で歩くこともままならないから足手まといになってしまう。まずはお前が一人で行って、後から自分も追いつくから、と言う。
三蔵はそれならばと闇の中飛び出していく。
一人残った義松がなかなか寝付けずにいると、部屋から老人が出てきて「私の昔話を聞いてくれるか」と言う。

老人は自分の名前は熊蔵といい、自分には熊吉という息子がいた、と語る。
熊吉は子供のころから悪くて、大人になってからは旅商人の魚屋になったがそれは表向きの商売で裏では人買いをしていた。
熊吉は女だけではなく男も好み、そのために命を落としたのだ、と聞いて「それはいったいどういうことで?」と聞くと、土手である男と色事に及びその男に殺された、と。
倅は悪党だったがそれでも自分の子どもには違いない。なぜ命を落とすことになったのかと悔しくて仕方ないのだが、噂では熊吉を殺したのは義松という男…。
そこまで言われて義松が老人の顔をまじまじと見るとなんと老人ではなく熊吉本人。
義松が匕首で熊吉に襲い掛かろうとすると「一度殺した俺をもう一度殺すのか」と熊吉。
すると後ろのふすまがすすすーっと開いて、中から今まで義松が殺した人たちが出てくる。
義松が必死になって匕首を振り回しはっと気づくと、そこには老人が血だらけになって倒れていた。老人は義松に布団をかけてやろうとやってきたところだった…。

…うおおお。なんとまたこれはすごい展開に。
三蔵が義松を助けるくだりでは、はぁ?義松が親分らしいことなんかしてやったことがあった?なんだその命の恩人エピソード。聞いてねぇよ。(聞いたかもしれないけど忘れてるよ!)
次郎長のもとに行っていまさら「いいやくざ」として生まれ変わろうなんてそんな都合のいい話があるかよ!とムカムカ。
でも熊吉の幽霊が現れたところは、そうだよねそうだよねやっぱりそのまま赦されるわけないよね、こういう展開になるわよね!と、ぞくぞくっ。
ふすまが開いて今まで殺した人たちがわら~っと出てきたところでは思わずゲラゲラ笑ってしまった。なんかゾンビ映画みたいで怖いというよりおかしくなっちゃって。

そしてやっぱり義松を泊めると殺される、のジンクスは今回も。


さん助師匠「京見物」
ネタだししている「麻のれん」は扇橋師匠に教わりました、とさん助師匠。
扇橋師匠と言えば雲の上の存在ですけれど、気軽に噺を教えてくださる師匠で、扇橋師匠しかもっていない噺もたくさんあったので若手はこぞって教わりに行っていました。
稽古に伺う時はお礼に何か持っていくんですが、扇橋師匠は甘党でしたので、デパートでは売ってないお店の栗饅頭を持っていきました。
そうしたらその晩…11時頃に携帯に知らない番号から電話が。出られなかったのですが留守電が入っていたので聞いてみると「扇橋です」と一言言って切れた!
うわ、これは私はなにかしくじったんだ!と思いまして。扇橋師匠をしくじるなんてもう噺家ではいられない。師匠に言いに行かなくちゃとか、私の噺家人生もこれで終わりか、と絶望。折り返しかけようと思ってももう11時15分ぐらいですからそれも失礼だろうと思うとかけることもできない。
すると11時半にまたかかってきたんです、扇橋師匠から。
慌てて出ると「あ、扇橋です。さん弥くん、今日持ってきてくれた栗饅頭とってもおいしかったよ。じゃあね」。

…ぶわはははは!!すてきーーー。なにその素敵エピソード。素晴らしすぎる。いいなぁ…扇橋師匠からそんな電話。泣けるー。

それから、「私も時々稽古をつけてください」と頼まれることがあります、と。
この間も稽古を頼まれましてしどろもどろで教えたんですが、お礼ですと渡されたのがハーブティでして。それも代官山とかそういうところにしか売ってないようなやつ…。
おしゃれ女子かよ!私はいったいどういうふうに見られてるんでしょうか。
私もいつか栗饅頭をお礼にもらえるようになりたいです。その時に稽古をつけた噺です、と「京見物」。

おおっ、これ前に末廣亭で聞いたことがある。
江戸っ子二人が京都見物。疲れたもう歩けない足に豆ができたと嘆く男に、豆なんかつぶしちまえ!ともう一人の男。
お前なんでそんなひどいこと言うの?この豆は江戸を出る時に友達に見送ってもらってそこからえっちらおっちら歩いて箱根の山を越えたところでできた豆。そこからずっと一緒に歩いてきた。豆にも京見物をさせてやりてぇじゃねぇか。
京都の名物は女なんだよ、京女っていうのは水がいいから美人が多いんだ、と言われると「え?なに?女?」と目を血走らせる。
どこにいるの?京女は?どこどこ?
ほら、あそこに女がいるじゃないか。
え?あれも京女?おばさんだよ?
湯に入りてぇからあのおばさんに湯の場所を聞いてこいと言われて行くのだが「〇〇どすえ」と言われると「どすで刺すと言ってる!」と怖がって戻ってくる。
そんなことないからちゃんと聞いてこい、江戸弁が通じなかったらしぐさでやってこいと言われて、お風呂を表すしぐさがたどたどしくてめちゃくちゃおかしい!
おばさんに何か言われてそのたびに異様に怖がったり過剰な反応をするのがほんとに面白い。ばかだなー。

それからゆずを湯と聞き間違えて八百屋の前で素っ裸になる二人。
まぁ最初から最後までにぎやかでばかばかしくて楽しかった~。


さん助師匠「麻のれん」
意地っ張りで助けてもらうのを嫌がる按摩の杢市。
療治のあとに旦那から泊っていけと何度も言われるのだが、そのたびに断る。
直しを井戸に冷やしてきたのを寝る前に飲むのを楽しみにしていると言うので、旦那がだったらうちでも直しをご馳走しようと言うと、ようやく泊まると言う。
直しを飲んで枝豆を食べて、奥の八畳に蚊帳を釣っておいたと言われ部屋に入るのだが、麻ののれんを蚊帳と間違えて蚊帳の外で寝てしまって蚊に刺されてしまう。
それから何日か経った後また療治に来た杢市。今度は雷が鳴っているので自分から「泊めてください」と言う。
女中が今度は間違えないようにとのれんを外しておいたために…。

意地っ張りな按摩の杢市がとてもらしくて無理がない。なんかほんとに不思議な人だなぁ、さん助師匠って。ふわっとその人になってるんだな。
でも枝豆を食べるのが下手(笑)。なのにお酒飲むのはすごい上手。お酒の好きさと意地汚さが自然に出てる。

面白かったなぁ。のんびりとした落語の世界、よかった。