りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小三治”春の会”

5/31(金)、中野ZEROホールで行われた「柳家小三治”春の会”」に行ってきた。


・〆治、一琴、三三、三之助、小はぜ、小ごと、マネージャー トーク&くじ引き
・小はぜ「まんじゅうこわい
・三之助「棒鱈」
・三三「元犬」
~仲入り~
・一琴 紙切り
小三治厩火事


〆治師匠、一琴師匠、三三師匠、三之助師匠、小はぜさん、小ごとさん、マネージャー トーク&くじ引き
三三師匠が描いた小三治師匠のイラスト入りのトートバッグを開演前に販売していて私もウハウハと買ったんだけど「おひとり様一個」だった。
それはお客様がどれぐらい買われるかわからなかったのでそうしたんだけど、実は…まだ余っております、と三三師匠。仲入りの時にまた販売しますのでほしい方はぜひ複数お買い上げください、と。わーい!

それから師匠以外は誰が出るかまだ決まってないということで、くじ引き。
星とハートの絵が書いてあるうちわを全員が引いて…今回は星を引いた人が高座を務めることに。
小三治一門でこういうわいわいがやがやって珍しいから見ていてとても楽しくて嬉しかった。

小はぜさん「まんじゅうこわい
袖に下がらせてもらえずいきなり高座に上がったのでおそらくパニック状態の小はぜさん。
「噺の方にはいろんな登場人物が出てまいります」というのを何回か繰り返して、なかなか何をやったらいいか決まらない様子。がんばれ~。
まんじゅうこわい」、これは芸協の方に教わったのかな。夢丸師匠かな。
若い連中のわいわいがやがやが楽しい。おそらく小はぜさんの心の中もさきほどのくじ引きのわいわいがやがやが続いているのかなと思って微笑ましかった。

三之助師匠「棒鱈」
さきほどの抽選の時に「今日高座に上がりたい人」と聞かれて誰も手を挙げませんでしたけどそれには訳がありまして…と三之助師匠。
我々噺家ですから落語をさせていただかないと話にならないわけで誰もが高座に上がりたいと思ってはいるんですよ。ただ今日はですね…普段こういう会ですと我々自分の出番じゃないときは楽屋にいるわけなんですが、今日は…全員が…袖にいるんです。ということは…師匠も…いるわけで…師匠に落語を聞かれるというのはですね…おわかりいただけますか。

そんなまくらから「棒鱈」。
たしかにこれはたちが良くないわ…とわかるほどの酔っ払いぶりと、隣の田舎侍のご機嫌ぶり。会場を大いに沸かせていた。


三三師匠「元犬」
こういう会で三三師匠を見るの、とっても久しぶり。
「元犬」、以前何回か見たことがあったけど、シロの元犬っぷりとお手をされてまんざらでもないかずさ屋さん。独自のギャグがたくさん入ってサゲも独自。

私は正直あんまり…なんだけど、うーん。師匠に怒られないかな、なんていらぬ心配?


一琴師匠 紙切り
前に見た時よりさらに腕を上げているような…。切ったもののクオリティもそうだけど、スピードが上がっていてびっくり。
トークも絶妙ですごいなぁ。

 

小三治師匠「厩火事
今日のこの会、袖で見たり楽屋のモニターで見ていましたが…お客様の本当に暖かい雰囲気に…ほんとにありがとうございます、と小三治師匠。

でも私は今日は袖にいて落語をやっておりてくる者たちに…小言ですよ、ずっと。
そうじゃねぇんだ、違うだろう、ってね…。
最初にあがったやつにも…それから次にあがった三之助にもね…。あれは「棒鱈」って噺ですけど、部屋にいる二人組と隣の田舎侍。これの声の大きさが一緒で遠近感が出てない。ウケるからってどちらも大きな声で大げさにやって…そういう噺じゃねぇんだって…。

あと最初にくじ引きして出番を決めたり仲入りの時になにかグッズを売ったりね。
噺家っていうのは何か作ってお客さんに売ったりしたがるものですけど、私は…うちの師匠はそういうことは喜びませんでしたよ。
ラーメン売ったり…そういうのはね…でもそういう一門はそれでいいんです。お客さんだって喜んでいるわけだし、みんながみんな同じ方向を向いてる必要はない。いろんな一門があってそれが寄り合って協会作ってるわけで…いいと思います。
でもうちの師匠はね…違ってた。

まぁ私ももうあんまりうるさいことは言いたくねぇやと思ってるし、弟子たちがやりたいようにやらせてやりたいとも思ってますから。
落語の小言もね…言う時は勇気がいりますよ。おい、お前はじゃぁそれだけのもんなのか?そんなに違うのか?って声が自分の中で聞こえてますから。気が付けばもう60年ぐらいやってますけど…それでもまだまだだって自分でわかってますから。
うちの師匠の噺はほんとにおもしろかった。「道灌」なんてね…たいして面白い噺じゃねぇのに師匠がしてるとなんともいえずおかしかった。「ちはやふる」だってほんとにおもしろかった。お前のも悪くないよと言ってくれる方もいるけど、まだまだです。全然違う。

私が師匠のところに弟子入りをお願いしに行ったとき、おやじも付いてきました。
おやじは私に大学に行ってもらいたがっていた。だから「落語家になるにしても、これからは教養が必要な時代になっていくから大学に入ってほしい。それからだって遅くない」というようなことをおやじが言って、師匠もそれを否定はしなかった。
私はでもそれを聞いて「それは違う。落語家に大学なんか必要ないんだ。教養のある落語なんてものはいらない。落語はそういうものじゃないんだ」って思わず言ってました。
それから10年して真打になったときに、師匠のご贔屓さんから言われました。師匠が「あいつ、入門の時、こんなことを言いましてね…」って嬉しそうに言ってたよ、って。
それを聞いて私は本当に嬉しかった。師匠はその時もその後も、私には一言もそんなことは言わなかった。だけど嬉しいと思ってくれていて本当に心を許してるお客様にそう言ってくれていた。
嬉しかったです。

…この話はあんまりしたことはないんです、とおっしゃっていて、私も初めて聞いたのでなんか胸がいっぱいになって涙が出てしまった。
「お前の噺はおもしろくねぇな」と言われたという話は何回か聞いていたけど…それは聞くたびになんて厳しい言葉なんだろうと思ったり、でもそう言ったらこいつは自分でもっと深く考えてすごいことになるだろうと思う信頼があったからこその言葉だったんだろうなと思ったりするんだけど。
入門の時の自分の青臭い…でも心からの想いを、師匠が内心喜んでくれていたって聞いたら、それはもう本当にうれしいだろうなぁ…。宝物のようなひとこまを話してくれたことにじーんときたなぁ。

袖から「時間がありません」の声をかけられて「だったら落語を短くやるからいい」と言って、そういう話を聞かせてくれた。
そんなまくらから「厩火事」。

うおおお。小三治師匠の「厩火事」は久しぶり。
なんかとてもエモーショナルな「厩火事」だった。
おさきさんに相談されたご隠居が、自分が大事にしている馬が失われたときに、それよりもなによりも家臣にケガがなかったかということを真っ先に聞いた孔子と、奥方の体のことはこれっぱかりも聞かずに瀬戸物が割れなかったということだけを聞いた麹町の主人、「ここに大きな違いがあるんだ」ということを強く言っていて…その前に話していたことと繋がってるんだなぁという…なんかメッセージ性を強く感じさせられた。
それだけに、惚れてる亭主を試すおさきさんの不安と自分の体を心配してくれたことに対する安堵…そしてこのいかにも落語らしいけむに巻くようなサゲが、なんかいいなぁ…一筋縄ではいかないなぁという感じがしておかしかったなぁ。

楽しい会だったー。小三治師匠に小言を言われながらも、またやってほしいな。