りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

さん助ドッポ

2/18(月)、お江戸両国亭で行われた「さん助ドッポ」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶
・さん助 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十七回「最後の情婦」
・さん助「二番煎じ」
~仲入り~
・さん助「鴻池の犬」


さん助師匠 ご挨拶
ヘッドハンティングされるような優秀な会社員だった知り合いが脱サラして故郷に戻ってワインバルを開いた、と。
会をお手伝いされているUNA様とも共通の知り合いなので、二人で開店祝いを贈ることに。
開店祝いといえば花が定番だけどただの花じゃつまらない。そこで思いついたのがプリザーブドフラワー。あれなら3年ぐらいもつらしい。
プリザーブドフラワーって結構高いんですよ。これぐらいの大きさでも。で、二人でお金を出し合って買って送ったんですけど、すぐにご本人からお礼の電話があって…そこで言われたのが「こんなシャレたものをさん助さんが思いつくわけないから、UNA様が選んだんでしょ?」。
…こういう時必ずこう言われるんです。「さん助さんがこんなオシャレなもの選ぶわけない」って。
でもこれにしようって思いついたの、わしじゃ!!

…ぶわははは。
話をしながら何度も手で四角を作っていて、なんだろう?と思っていたら、大きさを表しているらしく、「これっぱかりの大きさでも結構な値段がする」とおっしゃる。
それを大きさの話をする前も後もずっとしているのがなんかおかしかった。
そして思いついたのはさん助師匠でも調べたり手配したのはUNA様じゃないのかい?なんて思ってしまった。いや知らんけど。


さん助師匠 初代談洲楼燕枝の述「西海屋騒動」第二十七回「最後の情婦」
首尾よく鬼一郎を始末した義松は、今では平三の片腕となっている。
この町の遊郭で一番栄えているのが萬屋で、そこの板頭がお京という女。
このお京に入れ込んでいるのが金十郎。豪農で金はふんだんに持っているがものすごい不細工。
この萬屋にある時義松が客として来て以来、お京は義松に傍惚れ。2人はいい仲になる。
義松とできた途端、扱いが悪くなったことに気づいた金十郎は、お京を見受けしようと考える。
早速お京にそのことを告げると大喜びしたお京は「すぐにそうしておくれ」と言う。
店に話をすると二百両で見受けという相談がまとまる。
酒肴を運ばせて大宴会となるが、金十郎が目を覚めると隣にいるはずのお京がいない。
部屋を出るとどこかの部屋で男女のヒソヒソ話。聞き耳を立ててみると、お京が義松に、自分は金十郎に見受けされるが、何日かだけおとなしくてしてその後好き勝手な真似をすれば追い出されるだろうから、その時に金を奪えるだけ奪ってしまおう、と話している。
それを聞いて金十郎は見受けすることをやめる。

金十郎が」お前の魂胆はわかってる、わしは二人の話を聞いた。だから見受けをするのはよした」とお京に告げるが、お京は取り合わない。
それでも金十郎が本気だということがわかると、そんなみっともないことができるか!と暴れだし死のうとするので、金十郎は仕方なく手切れ金として百両渡す。
お京はそれまで金十郎にもらった着物や髪飾りを全て売り払い、また今まで貯めたお金と合わせて百両こしらえて、その二百両で義松のもとへ見受けされる。
板頭を見受けしたということで、義松の評判はうなぎのぼり。
面白くないのは金十郎で、義松についてあることないことを前橋藩の重役である森桂之進に訴え、桂之進は御用聞きの石澤文九郎を義松のもとに差し向ける…。


…義松、また新しい親分のもとで片腕になり、またいい女をものにしやがったよ。
簡単なもんだねぇ…任侠の世界も、女も。
どうせみんな義松に殺されちゃうのにさ。ふっ。
でも、旅をして思わぬ人に出会って殺す、みたいなパターンが続いていたから、ちょっと違う展開になったのでよかった。
それにしてもどうにも酷い噺だなぁ…。でも龍玉師匠がやっていた圓朝物も松之丞さんがやっていた講談も同じぐらい酷い話だったけど、いつも満員御礼だったから、やりようによっては面白くできるのかしら。うーん。

 

さん助師匠「二番煎じ」
月番さんがなんかいい。好き、さん助師匠の月番さん。仕切ってあれこれ言うけど優しさを感じる。
夜回りの歌のところ、面白い。顔を真っ赤にして力いっぱい唸るから大笑い。
あと、軽すぎる歌もばかばかしくておかしい。
戻ってきてからの飲んだり食べたりはおいしそう!
見回りに来た役人が意外にも(!)強面。
普通に面白かったけど、さん助師匠だからもっとキャラが立ってほしいかなぁ。ってエラソーですびばせん!

 

さん助師匠「鴻池の犬」
子どもの頃、犬を飼ってました、とさん助師匠。
それは親が私のために買ってきてくれた犬で、私が付けた犬の名前が「ジャック」。当時「ジャックと豆の木」を読んでたもので…。
来たときは小さかったけど10年以上飼ってる間に大きくなってきて、自分より父親が世話をするようになり、散歩も連れて行っていた。
そのジャックが年をとって夜泣きをするようになって近所迷惑なので病院でもらった睡眠薬を飲ませるようになって…。

…今の時代のペットを溺愛して子供のように扱うというより、もう少し遠い距離感。わかる。私が子どもの頃はそうだった。あと自分の親とかその親の世代はとくに。
ジャックの話にはなんかちょっとこう…しーんとなっちゃったね。
そんなまくらから「鴻池の犬」。

いやぁこれがもうびっくりするくらい良くて。
なんでこんな噺がこんなにいいんだ?さん助?!(←いきなり呼び捨て)やっぱおかしいよ、この人、ほんとおかしい。いい意味で?
捨て犬を見つけた時の定吉のかわいらしさ。乾物屋をやってるから犬は飼えないよと言いながらも定吉に「捨てるのはかわいそうですよ」「死んじゃいますよ」と言われると「それもそうだな」と飼い始める店の主。それでもこれは誰かが飼いたいと言ってきてたらその人に譲るんだよ、と定吉に念押しする。
そこへやってきた鴻池の奉公人(番頭?結構エライ人っぽい)。おぼっちゃんが大事に飼っていた黒犬が焼け死んで代わりの犬を探している。ここの黒はおぼっちゃんが飼っていた黒にそっくりなのでぜひとも譲ってもらいたい、と言う。
主人は定吉に話をして説得し、黒を引き渡す。黒は江戸から大阪まで駕籠に乗せられて大事に運ばれていく…。

人物もきちっと描かれているし、なによりも犬…犬がかわいい。
鴻池の犬になって美味しいものを食べさせてもらってかわいがられて江戸っ子気質を発揮してその界隈でいっぱしの「親分」になった黒。
一方、お気に入りの黒がいなくなってがっかりした定吉が面倒をみてくれなくなって餌もろくにもらえなくなりやせ衰えてしまった残された白とぶち。
白に食べ物を持って来てやろうとしたぶちが車に轢かれて死んでしまい、どうしようもなくなった白は一人大阪の鴻池を目指す。
途中で出会ったのが主人のかわりにお伊勢参りに行こうとしている犬。気のいいその犬としばらく一緒に旅をする白。この二人の別れの場面には思わず涙がどばーーーーっ。
ほんとは白と一緒に伊勢へ行きたいけれど事情を聞いて納得した伊勢参りに行く犬が「もうここでお別れ」と言うと、白が寂しがって「くぅーーん」って鳴いて、お互いに何度も何度も「さよなら」って言うのがほんとに寂しそうで哀れで、涙が…。ううう。
そしてボロボロになってたどり着いて黒と再会。ここでもまた涙。
さん助師匠が薄汚れた白犬にしか見えなくて、その頼りなさと寄る辺なさに胸が締め付けられる。
擬人化されているんだけど、ちゃんと「獣」であるところにもびっくり。その加減が、ジャックのまくらからもつながっているようで、あの微妙な空気になったまくらにも意味があったのか、と。
なんかサゲのところは言い間違えてたような気もするけど。すごくよかった。いいもの見られた。
あちこちからすすり泣きが聞こえてきて、でも「鴻池の犬」でみんなが泣いてるっていう状況がとてもシュールで、全てひっくるめて「落語」の世界だなぁと思っておかしかった。
これがあるからさん助師匠はやめられないんだよー。いがったー。