りつこの読書と落語メモ

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あちらにいる鬼

 

あちらにいる鬼

あちらにいる鬼

 

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人気作家の長内みはるは、講演旅行をきっかけに戦後派を代表する作家・白木篤郎と男女の関係になる。
一方、白木の妻である笙子は、夫の手あたり次第とも言える女性との淫行を黙認、夫婦として平穏な生活を保っていた。
だが、みはるにとって白木は肉体の関係だけに終わらず、〈書くこと〉による繋がりを深めることで、かけがえのない存在となっていく。
二人のあいだを行き来する白木だが、度を越した女性との交わりは止まることがない。
白木=鬼を通じて響き合う二人は、どこにたどりつくのか――。

井上光晴ドキュメンタリー映画を見たことがあったので、あれはいったいどういうことだったのか、また当事者やその家族はどう感じていたのか、そういう下世話な興味もあって読んだ。

インタビューや自分が幼い頃から見聞きしたことを「こういうことだったの?」と作家の目で練り直して、母と愛人の視点から描くというのは相当にしんどいことだと思うが、恨みがましいところがひと欠片もなく、とても清々しかった。

見て見ぬふりをして共に生きること。そういう関係から離脱すること。書くこと。書かないこと。
火の玉のような男を挟んで生きる二人の女性の魅力的なこと。
「どんどん書いてちょうだい!」と言ってくれたという愛人のモデルになっている寂聴さんも素敵だし、何も語らなかった妻である作者の母も素敵。
そして本当にどうしようもない男としか思えない作者の父も、嫌いになり切れない何かがあって、そこを描ききっているのもすごいと思う。

天晴れな生きざまをこうして一つの物語として読むことができて幸せだ。
素晴らしい作品だった。小説が好きな人みんなにお薦めしたい。

 

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