私に付け足されるもの
★★★★★
どこが好きかと聞かれると答えるのが難しいんだけど、たまらなくいい、大好き。
当たり前のなんてことはない人たちの日常だけど、ちゃんと一人でちゃんと人とも関わっていてちゃんと暮らしてる。普通の生活の中で、好きだなと思ったり違和感を感じたり…少しだけ風向きが変わる瞬間を無駄のない言葉できちっと表現してる。
文章が好きだなぁ。よく練られてるけど作為的じゃなくて素朴。
「私に付け足される」…この発想がまたいい。
特に好きだったのは「Mr.セメントによろしく」「桃子のワープ」「Gのシニフィエ・シニフィアン」「瀬名川蓮子に付け足されるもの」。
誰でもときに身を切るほど辛い経験をするし、誰でも平気になる。今から思えばよくある失恋で、特別なことでもない。
(中略)
執着した恋愛相手より、干渉せずに暮らした、名前もうろ覚えの同居人の方が今は懐かしい。
かつて、大昔に、誰かや誰かに対して抱いた自分の気持ちに今また瞬時に降り立ったのだ。性懲りもない、年甲斐もないと自嘲しながら、しちゃったものは仕方ない。
恋はしたいと思ってするものではないし、もう二度としないと誓ってしないでいられるものではない。しちゃうものなのだ。
でもその熱が冷めてみれば、それはただの「恋」で、別に懐かしくもなんともない。それよりその時に気を紛らわせるために一緒にいた人の方が懐かしい。この感じ。リアル。
大好きな長嶋有さんだけどこの作品はその中でも上位に来る感じ。よかった。