りつこの読書と落語メモ

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送り火

 

送り火

送り火

 

 ★★★★

159回芥川賞受賞作

春休み、東京から山間の町に引っ越した中学3年生の少年・歩。
新しい中学校は、クラスの人数も少なく、来年には統合されてしまうのだ。
クラスの中心にいる晃は、花札を使って物事を決め、いつも負けてみんなのコーラを買ってくるのは稔の役割だ。転校を繰り返した歩は、この土地でも、場所に馴染み、学級に溶け込み、小さな集団に属することができた、と信じていた。
夏休み、歩は家族でねぶた祭りを見に行った。晃からは、河へ火を流す地元の習わしにも誘われる。
「河へ火を流す、急流の中を、集落の若衆が三艘の葦船を引いていく。葦船の帆柱には、火が灯されている」
しかし、晃との約束の場所にいたのは、数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった。やがて始まる、上級生からの伝統といういじめの遊戯。

歩にはもう、目の前の光景が暴力にも見えない。黄色い眩暈の中で、ただよく分からない人間たちが蠢き、よく分からない遊戯に熱狂し、辺りが血液で汚れていく。

豊かな自然の中で、すくすくと成長していくはずだった
少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――

 


父親の転勤で東京から津軽に転校してきた歩。男子生徒が5名しかいないという逃げ場のない環境の中で不穏なものを目にしたり感じながらも、とりあえず自分に危険が降りかからないよう、スイスイと泳いできた歩がたどり着いた場所は…。

見て見ぬふりをして「公正」を装っていた自分に向けられた憎悪と暴力。
圧倒的な暴力を前に立ちすくむ歩は自分そのもので、読んでいて胸が苦しくなる。
息子は学校で楽しくやっていると信じて、小遣いを持たせて送り出した両親はこのあとどうなるのだろう…。

以前読んだ「共喰い」もそうだが、好きな話ではないが風景や情景がいつまでも心に残る。
話の内容が好きじゃなくても、小説として好きだなぁ素晴らしいなぁと思うことがある。この作品はまさにそう。

こんなに陰鬱で陰湿な話はまったくもって好みではないし、読み始めてから読み終わるまで「私はなんでこれを読んでいるんだろう」と辛くて仕方なかった。
最後まで読んで「そんな…」と呆然となったけれど、しかしなにか強烈に心に残るものがある。読んでよかったと思ってる。