りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ヌヌ 完璧なベビーシッター

 

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫)

 

 ★★★★

パリ十区のこぢんまりしたアパルトマンで悲劇が起きた。子守りと家事を任された“ヌヌ”であるルイーズが、若き夫婦、ミリアムとポールの幼い長女と長男を殺したのだ。そしてルイーズも後を追うように自殺を図り―。子どもたちになつかれ、料理も掃除も手を抜かない完璧なヌヌに見えたルイーズがなぜ?事件の奥底に潜んでいたものとは!?2016年フランスのゴンクール賞を受賞した話題作。

サスペンスと思って読み始めたがそうではなかった。

二人の子どもに恵まれたものの弁護士のキャリアを諦めきれず鬱状態になる妻ミリアム。生まれてきた子どもと妻への愛情がないわけではないが、なんとなくまだ大人になり切れない夫ポール。
若夫婦が雇ったのは子どもに愛情を注ぎ家事もこなす完璧なヌヌ(ベビーシッター)のルイーズ。
最初は完璧なヌヌに心酔するミリアムだったが、子どもへの愛情をむき出しにするルイーズを脅威に感じて時に居心地の悪さを覚えたり、距離感に悩むようになる…。

雇う側と雇われる側。立場の違いがお互いの好意を捻れたものに変えていく。
ルイーズにはルイーズの生活があり悩みがあり人生がある。
バカンスに一緒に連れて行くほど親しくするのなら、なぜ彼女の話を聞かなかったのか。また、彼女のことをそれほど知りたくないのならなぜ連れて行ったのか。それは好意から出た行動だったのだろうが、それがなければ…と思わずにはいられない。

深刻な人ほど助けを求められないものだし、もしルイーズが助けを求めても結果は同じだったかもしれない。
でも追い詰められて常軌を逸していくルイーズがあまりにも哀れだ。そして若夫婦の失ったものはあまりに大きい。

格差のある人間同士の関わり方の難しさ、そしてわかりあうことの難しさに胸が詰まる思い。