父の遺産
- 作者: フィリップロス,Philip Roth,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: 文庫
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★★★★★
驚異的に頑強な86歳の父の顔面を麻痺が襲った。検査の結果、脳に腫瘍があることが判明したが、私は高齢の父にリスクの高い手術を受けさせる決心がつかない。ユダヤ系移民2世として人生を闘い抜き、家族を護るために身を粉にして働いた情愛深い父が、病魔に蝕まれていく。そして壮絶な介護の日々、私は驚くべき“遺産”を受け取った。感動の全米批評家
数パーセントの可能性に賭けて手術を受けることも戦いなら、延命治療をしないことも戦いなのだということを教えられた。
老いや死を前にしていくたびも辛い選択肢を突きつけられるけど、その都度その問いを年老いた親に直接聞かなくてもいいのかもしれない。積極的に選ばなかったとしても、選ばなかったことが一つの選択になる。そのことを後悔することもあるかもしれないけれどそれだってちゃんとした選択なのだ。
どんな風に死ぬかということはどんな風に生きてきたかということの裏返し。ここに出てくる父親、独断的で頑固でめんどくさい人だけどなんて魅力的なんだろう。
フィリップ・ロスがこんなにシンプルで力強い私小説を書いたということに驚くが、あとがきを読んでこれがフィクションでないという確証はどこにもないということにも驚く。
でもフィクションなのかノンフィクションなのかということは、たいした問題ではない。
なぜならここには生身の人間が描かれてるから。ここに描かれる親子の会話。なんてことのない近所の人の思い出話や野球、ボクシングの話、先立ってしまった妻の美化された思い出、今一緒にいる女性への愚痴、悪口…こんな会話が救いになっている。
これが文学の力。素晴らしい。