りつこの読書と落語メモ

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その話は今日はやめておきましょう

 

その話は今日はやめておきましょう
 

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一人の青年の出現によって、揺らぎ始める定年後夫婦の穏やかな日常─ 。老いゆく者の心理をとらえた著者の新境地。

定年後、健康のために昌平が妻のゆり子にプレゼントしたのはロードバイク。最初はおっかなびっくりだったゆり子も徐々にロードバイクの魅力にはまり始め、サイクリングが二人の日常に欠かせないものになってきたころに、昌平が事故にあい足首を骨折してしまう。
まだしばらくは元気な老後を楽しめると思っていたのに、急に不自由になった身体にこの先の生活が不安になる二人。
そんな時、サイクルショップで出会った一樹という青年。ちょうど店を辞めたばかりだという彼に、病院への送り迎えや庭の手入れ、掃除などを頼むことになるのだが…。

年を取って徐々に衰えていくことへの不安。若い人になめられているのでは、みっともないと思われているのではという不安。それでも人を信じたい、自分の直感を信じたいという気持ち。ゆり子の気持ちが痛いほどわかる。
またそんな妻が自分には見えない膜を張ってるように感じる昌平の気持ちもリアルだ。

「おいしい仕事」を得て、老夫婦に頼られて、悪い気はしない一樹だったが、かっとして人を殴ったり暴言を吐いたりという悪性もあり、ゆり子が善意からしたある行為がきっかけとなって、悪い方へながされていく…。
オレオレ詐欺をやるのはきっと一樹のような人間だ。100%の悪人ではないが、人を殴りたい、汚したいという衝動を抱えて、虚ろに生きている。

終始ざわざわした気持ちで読んでいたが、後半は爽快だった。よかった。