りつこの読書と落語メモ

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冬将軍が来た夏

 

冬将軍が来た夏

冬将軍が来た夏

 
★★★★★

台湾の鬼才による、人生を癒す終活小説》

レイプ事件で深く傷ついた私のもとに、突然あらわれた終活中の祖母と5人の老女。台中を舞台に繰り広げられる、ひと夏の愛と再生の物語。
解説・高樹のぶ子

大河巨篇『鬼殺し』で好評を博した、台湾の若手実力派作家、甘耀明の最新作。台中を舞台に、身寄りのない老人など社会的弱者に着目し、主な登場人物は全員女性という新境地となる長篇小説である。
主人公の「私」は、大規模な幼稚園に勤める二十代の女性保育士。ある年の夏、十数年音信不通だった祖母が、私に会いにやってきた。末期の肺がんに冒された祖母は、気がかりだった孫娘に、死ぬ前に会う責任があると思い、自らが営む小型の共同ホームの老女たち五名と老犬一匹と共に私の家に姿を現した。ちょうどその時、私は自宅で幼稚園の園長の息子にレイプされ、祖母は唯一の目撃者となる。私の心は傷つき、園長の息子を告訴し、幼稚園を退職、祖母を含めた共同ホームの老女たちと行動を共にするようになる。祖母の終活に寄り添いながらひと夏を過ごした私は自己回復していく……。
女性問題、独居老人、同性愛など、現代の台湾社会が抱える問題を捉えつつ、著者のまなざしは、社会的弱者の心を温めて〝生〟をいろどる〝記憶〟に注がれる。それが厳しい現実を生き抜く支えになるというメッセージをユーモア溢れるタッチで描いた傑作。解説・髙樹のぶ子

幼稚園の先生をやっている「私」はある日パーティでしこたま酔っぱらった夜、園長の息子にレイプされる。傷ついた「私」の前に現れたのは死んだと聞かされていた祖母。末期がんの祖母は「私」に別れを告げるために数日前からトランクの中に体を折りたたんで入り、レイプも目撃していたというのである。

祖母は「死道友」という七人のおばあさんたちから成る共同体のリーダーで、「私」はこの女たちと強烈なひと夏を過ごす。女たちには壮絶な過去があり個性的(過ぎる!)で攻撃的。魔法さえ使えそうな魔女たちのようにも見えるが決して無敵ではなく、むしろ虐待されてきた人たち。

彼女らの生は確実に死へ向かっている。
死ぬ前に愛する人に別れ告げる義務があると語り、全力で孫を救おうとした祖母の愛は「私」の中に残り、強さを与えてくれるのだろう。

これを男性が書いたことに驚く。面白かった。