りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小三治独演会

8/12(日)、読売ホールで行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・三之助「棒鱈」
小三治船徳
~仲入り~
小三治「小言念仏」


小三治師匠「船徳
今日の日のために早く寝て英気を養えばいいんですけどね、と小三治師匠。
なかなかそういうわけにはいかない。
昨日もテレビですよ。私はちょっと見ていて「あ、これはいいぞ」と思うとすぐに録画するようにしてます。
VHSの時代から録りだめてますから相当な量になる。
これはいつか自分が高座にも上がれなくなった時に片っ端から見てやろうと思ってね。
でも残念なことにそうやって気が付いて録ったやつっていうのは…私が気づく前の部分は録れてないんですね…。

…ぶわははは。
わかるー。そうなんだよなぁ。
そしてそうやって録ったものってまず見ないんだよなぁ。
師匠は「私が高座に上がれなくなったら」とおっしゃってたけど…きっと師匠は最後まで高座に上がってるような気がする。


それで昨日は映画をやってましてね、私これはもう3,4回見てます。「愛を読むひと」っていう、ケイト・ウィンスレットっていう女の子…もう今は女の子じゃなくて女の人ですけど…前にあのほら大きな船が沈没しちゃう映画…あれで帆先のところにこうやって立って、後ろからあのどこがいいんだかわからないような俳優がこうやって支えて…ね?エンケンを太らせたようなあの俳優。あの子ですよ。

タイタニックですね、師匠。
ディカプリオはどこがいいんだかわからないんですね(笑)。


この映画はかいつまんで説明しますと、15歳ぐらいの少年がある時具合が悪くなってあるアパートの前で吐いていると、そこの住人の年増…これがケイト・ウィンスレットですけど、それが通りかかって「あなたこんなに汚しちゃってだめじゃない」とかなんとか言って自分の部屋に連れて行って服を全部脱がせて介抱してやるんですけど…そうこうしているうちにまぁ…そういうことになってしまうんですね。ベッドの中で手ほどき…みたいなね。

私、この映画何回も見てるんですけど、ここの部分にいつも気を取られていて、本質をちゃんと見られてなかったんですね。
いやこういう部分も私は…嫌いじゃないですよ、嫌いじゃない。
でもそれがこの映画の本質じゃない。

この女がベッドの中でいつもこの少年に本を読んでくれって頼むんです。
それで読んでやるんだけど、覚えているのは「犬を連れた奥さん」ですね。これは私も読んでいて印象に残っている本で。
いろいろ読んでやるんですけどある日少年が「チャタレイ夫人の恋人」を読むと女は激怒するんです。「そんな汚らわしい本を!」って。自分たちも汚らわしいことをしているのに。

…ああ、それでそんなことはどうでもよくて。
その後10年ぐらいしてから少年は大人になって弁護士になるんですけど、そこで女と再会するんです。
女はナチスの時代に看守をしていて「選別」に加わった疑いで逮捕されてる。
男はその女の弁護をするんだけど、これを言えば無罪になるということがわかってはいたけどそれを言わない。それはなにかというと、この女は字が読めないんです。字が読めなければ戦犯でないことを証明できる。だけど言わない。
なぜならそれは女が決して知られたくないことだったから。
命よりも自分が絶対に知られたくないこと、それを男は知っていたから言わなかった。
私はそれを今回見て初めて深く理解できて、思わず「ああっ」って声が出ました。
今まで自分は何を見てきたんでしょう。もう…78ですよ、私。

…映画は見たことないけど、原作「朗読者」は読んでる。
師匠がその映画を見てそんな風に感じ入ったのかと思うとなんか胸がいっぱいになるなぁ…。
会場の反応は師匠にしたら物足りないものだったかもしれないけど(ちょっとぽかーん?)、私は「あーわかる」となんかこう…分かり合えたような気持になったのだった。


そんなまくらから「船徳」。
小三治師匠、今日はこれをやろうと決めて上がったのかな。
話が脱線しそうになると「ええとこの話をすると長くなるからやめて…」「元に戻して…」と気を付けていらして、でも脱線しないように気を付けながら「愛を読むひと」の話はきっちりされたというのが面白かった(笑)。

話し始めて「え?まさか船徳?!」と驚いたのは、これってしぐさが大きくて体力を使う噺。小三治師匠の「船徳」を見たこともあったけどこの数年は見てない。

徳が「お前のところで船頭をやるよ」と決めているのを親方が必死に止めようとして「旦那様に申し訳が立たない」と言うと「あんなおやじはもういいんだ。こっちから勘当だ」「なりたいものになるのが一番なんだ」とからっという気楽さがおかしい。
いつまでもグズグズ言う親方に「よし、決めた、今から3数えたら船頭になるよ。一、ニ、三!」。
そして自分が船頭になった祝いに芸者をあげて披露目をやろうと言う能天気さ。

親方に呼ばれた女中のタケの「はーーい」の気だるさに笑う。
「くまさーん、はっつぁーん、くまんはっつぁーん」。なんか顔まで浮かんでくるんだよなー。

また船に乗る二人の男。
嫌がる男に対して最初に船に乗るときの親切なこと。「ほら、手を出して。引いてやるから」。
また船が動き出すと船底を叩いて「もしもーし」と声をかける、なんていうのは初めて見た。ほんとに怖がってるんだなぁ。
徳さんがまだもやってあるのに一生懸命力を入れるところでは、師匠の血管が切れるんじゃないかとドキドキするくらいの力の入りように大笑い。
決して動きが大きいわけではないけど、すごくおかしい。

ようやく動き出すと「いつもより(動き出すのが)はやい」とつぶやく徳さんのおかしさよ…。
最初は丁寧なのに、汗が目に入りだすと途端に客にもきつく当たりだす徳さん。
「こういうところから教えなきゃいけない。だから素人は嫌なんだ」。
太った男が船の先にいると言って叱責する…その剣幕にも笑う。

「これからですよ。景色が変わって気持ちがいい」と言っていた男が「景色が…さっきから変わらないよ。ずっと石垣だよ」って不穏になるのがまたおかしい。
煙草を吸いたがると「なにもこの忙しい時に吸わなくてもいいのに」って…わはは。

じたばたしてるけどそれでも船はどうにか進んで行ってるのが伝わってきて、楽しい~。
たけやのおじさんの心底心配そうな声にも笑った笑った。
たっぷりの「船徳」、いいものが見られた。うれしかった。


小三治師匠「小言念仏」
前半がたっぷりだったから後半はまくらなしで「小言念仏」。
一定したリズムと小言のたねを探してぎょろっと周りと見渡すおかしさはやっぱりピカイチで、「小言念仏」はほかの誰のもイマイチに思えてしまう。

「めしがこげてるぞーー」「鉄瓶がぱっくんぱっくん言ってるぞーー」
「赤ん坊が考え込んでるから気を付けろ」
言葉の選び方が絶妙で、間と表情も最高で楽しいったらない。

日曜日の会、出かけるときはちょっと憂鬱だったけど行ってよかった。満足。