アクシデンタル・ツーリスト
アクシデンタル・ツーリスト (Hayakawa Novels)
- 作者: アンタイラー,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/04
- メディア: 単行本
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★★★★★
再読。アンタイラーの中でも特に好きな作品。
主人公のメイコンは「アクシデンタル・ツーリスト」という旅行ガイドを書く仕事をしている。これは仕事で旅行をする人のためにガイドブック。彼らの関心は物見遊山ではなく旅先で家にいるのと変わりなく過ごすことだろうという意図から、ホテルのベッドのサイズ、近くにマクドナルドがあるかどうか、低温殺菌牛乳はどこに行けば買えるか、等を徹底的に調査して書いているガイドで、空港の本屋に置かれたりしてそれなりに売れている。
メイコン自身が旅が嫌いで、日常生活のルールを破るのが嫌い、という変化を嫌い秩序を愛する男。
メイコンは息子をなくした悲しみを何事もなかったかのように毎日を送ることで取り繕おうとする。
妻のサラはそんなメイコンに愛想をつかし家を出る。
メイコン自身、自分は冷たいのではないか、感情が乏しいのではないかと思っているのだが、読んでいるとそんなことは決してないのだということがわかる。
確かに彼は感情表現が乏しく冷たいように見えてしまうところがあるけれど、それは幼い頃奔放な母親に捨てられたも同然の扱いを受けたことから自分の世界を頑なに守ろうとするようになった経緯があって、それは彼の二人の兄、妹も同様。
一人暮らしを続けるうちにますます偏屈になりおかしくなってきたメイコンは、家の中で足を折ったのをこれ幸いと、兄妹たちが暮らす実家へ身を寄せる。
変化に弱いのはメイコンばかりではなく、愛犬のエドワードもそうで、もともとダメ犬だったのが今ではメイコン以外の人間に吠えまくり噛みつくどうしようもない状態に。
駄犬ゆえに今まで預けていたペットホテルに拒絶され、途方に暮れたメイコンが訪ねたペットショップ。そこにいたミュリエルという若い女がエドワードを受け入れてくれただけでなく、自分がエドワードの訓練をしてあげると申し出る。
積極的なミュリエルに腰の引けるメイコンだったが、兄や妹からエドワードを処分しろと強く言われ、ミュリエルに頼らざるをえない状況に。
ミュリエルが積極的なのはエドワードに対してだけではなく、メイコンに対しても、で、身の上話をして距離を縮めようと挑んでくるミュリエルに、最初は拒絶反応を示していたメイコンだが徐々に彼女に惹かれるようになる。
パーパーうるさいミュリエルだけど彼女の闘志と感性にメイコンが惹かれていくように、読んでいる私ももうどうしようもなくミュリエルが愛しくなってくる。
宇宙人が救急車を見たら…の台詞には今回も泣いてしまった。ミュリエル自身が気が付いていない彼女の優しさやひたむきさが台詞やちょっとした描写で伝わってくる。
うまいなぁ、アンタイラー、と思う。
出てくるのは問題のある人ばかり。だけど読んでいるとたまらなく愛しくなってくる。
人生は旅。いい道連れを見つけることが旅の醍醐味なのかもしれない。
こんな素晴らしい本が絶版なんだね…なんて残念なんだろう。復刊するといいなぁ。もっとたくさんの人に読んでほしい。