りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

樽とタタン

 

樽とタタン

樽とタタン

 

 ★★★★★

忘れかけていた子どもの頃の思い出を、あざやかに甦らせる傑作短篇集。小学校の帰りに毎日行っていた赤い樽のある喫茶店。わたしはそこでお客の老小説家から「タタン」と名付けられた。「それはほんとう? それとも??」常連客の大人たちとの、おかしくてあたたかな会話によってタタンが学んだのは……。心にじんわりと染みる読み心地。甘酸っぱくほろ苦いお菓子のように幸せの詰まった物語。 

 喫茶店の大きな樽の中で大人たちの世界を見つめるタタンちゃん。
集まるのはヘンテコリンな人ばかりで、独自の距離感でお互いに関わりあう。
タタンちゃんが子供だからこその視点で大人の世界をそれなりに理解しているのが面白く、読んでいる間とても幸せな気持ちでいられた。

どの話も好きだったけど、自分の死生観を繰り返し語るおばあちゃんの話が特に好きだったなぁ。時々どきっとするような宝物にしたいような言葉もあって、ぐっときた。
読んでいる間、安心な場所に避難しているような…幸せな布団にくるまっているような、そんな感じがした。