りつこの読書と落語メモ

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草の花

 

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

 

 ★★★★★

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。 

サナトリウムで療養中に「私」が出会い親しくなった汐見茂思という青年。
自分を含め他の患者たちは自分の病状や先行きに不安を感じ悶々としているのに、汐見はそのようなことにまるで無関心で悠然としている。その汐見が結核の治療に成功率の低い手術にのぞみ、自分に何かあったら二冊のノートは君にあげるから読んでくれ、と「私」に告げる。

二冊のノートには汐見が学生時代に出会い一方的に愛した藤木忍と、その妹千枝子への想いがつづられていた…。

戦争に反対しながらも抗うことができず戦地へ赴かなければならないこと。熱烈な恋心を自分で扱いきれずまた相手にも受け入れられない苦しみ。お互いに想いあいながらも一歩を踏み出せずひとりよがりに終わってしまったこと。

いろいろな読み方ができるのだろうが、私は汐見と千枝子との恋愛のところがとても面白かった。
宗教の問題があって千枝子の方から拒絶したように読んでいたが実は拒絶されていると感じていたのは千枝子のほうだったのか。女はじぶんをちゃんと見てくれてなりふり構わず求めてくれる男がいいのだよなぁ…。汐見の内省的な態度を千枝子が自分への拒絶と感じたのは無理からぬことだと思ったし、汐見自身も二人の愛が成就することを望んでなかったように思える。

文章がとても美しくて何度も読み返したくなる。素晴らしかった。