りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

白酒・甚語楼の会

8/29(火)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼の会」に行ってきた。
以前から行ってみたかったこの会、日曜日に行われることが多くてなかなか行けず。
今回は平日だったのでようやく行くことができた。
さすがの人気者の会でお江戸日本橋亭は満員ぎゅうぎゅう。
 
・市若「寿限無
・甚語楼「夏泥」
・白酒「妾馬」
~仲入り~
・白酒「風呂敷」
・甚語楼「小言幸兵衛」
 
甚語楼師匠「夏泥」
我々の世界では「芸盗み」という言葉があって、人の作ったクスグリやギャグを本人に無断でやるのは非常によくないこととされている。
その一方で「芸は盗め」と言われたりする。
矛盾しているようだけどこれには大きな違いがあって、それがわかるようになると少しこの世界のことがわかったということになる。
でも我々はそういうことを結構気にしたりするんです。

ニツ目なりたてのころだったか先代の小さん師匠のお宅にお中元を持って行ったことがあって、その時師匠が玄関を開けてくれたんだけど、私が「師匠、お中元をお持ちしました」とあいさつをすると、師匠から「そこにハンコがあるから押してって」と言われた。
どうやら私、小さん師匠に宅配業者と間違えられたらしい。
この話を楽屋で話したりまくらで話したりしてけっこうウケてたんだけど、そのうち協会の先輩方がまくらでやりだして、しばらくすると芸協の落語家までもやりだした。
これは実話で私が体験したことなのに…でも先輩に文句を言うわけにもいかないし…ともやもや。
でもしばらくしてわかったんです。
小さん師匠の家にお中元を持って行って宅配業者に間違えられたのが私だけじゃなかったっていうことが。小さん師匠、何人もの若手を宅配業者に間違えてたんです!
 
それからある時弟弟子の燕弥の高座を袖で聞いていたときのこと。
どうもこのやってる噺(「妾馬」)が俺のと似てる…いやこれは…俺のじゃないか…。
戻ってきた燕弥にそう言うと「あにさん、この噺は私があにさんに教えたんですよ!」。
 
…わはははは!
面白いなぁ。最高だなぁ。もうほんとに好き。甚語楼師匠。
そんなまくらから「夏泥」。
正直「夏泥」はほんとによく聞くし、最初に聞いたころは好きだったけど、今はそうでもなくなっていて、噺自体で笑うことはあんまりなくなっていたんだけど、甚語楼師匠のこの日の「夏泥」がひっくり返るほど面白くって、びっくり!
なにがって、入ってくる泥棒がまずとってもチャーミング。長屋の入り口で木を燃やしているのを見て「火事になったらどうするんだ!」って慌てて消して「俺が入ってきたからいいようなものの…」
また、畳が外してあるところで、盛大にひっくり返って(笑っちゃうほど大きなアクション!)、「な、なんだよ!この家は!」。
 
それを布団の中でじーっと見ている男のふてぶてしさがまたとっても面白い。
「いいだろ、黙って見てたって。おれのうちなんだから」
「お前な、人のうちに入ってくる時はそんなふうにどかどか上がってくるんじゃねぇんだ。何があるからわからねぇんだから。」
ふてぶてしいけど、なんか突き抜けた明るさがあって、全然嫌な感じがしない。
 
最初に泥棒が金をしたときに、男が本当にびっくりしているのがすごくよくて…。
また最初はしっかりしてるように見えた泥棒がどんどん気弱なところが明らかになっていくのが面白くて。
あとどっちだったか忘れたけど、「…え?!」って驚いた、その声のトーンとか間とか表情がもう最高におかしくて、この間見た権太楼師匠の「花見の仇討ち」の「…だれ?」を思い出した。やっぱりお弟子さんなんだなぁ、としみじみ。
こういう細かい積み重ねが噺をめちゃくちゃ面白くするんだ!
最初から最後まで本当に楽しい「夏泥」だった。
 
白酒師匠「妾馬」
今、テレビではほんとに政治のこととか批判的なことを言ったりすると全部カットされちゃう。
生放送とうたっていても実はそうじゃなくて1分ほど遅らせて放送しているからその1分でなんとでもできちゃう。
だからこういうライブでないとそういうことも聞けなくなるから、みなさんこうやって出かけてくるんでしょう。
そういって、北朝鮮のミサイルや小池都知事など、次々とパーパー毒を吐きまくる白酒師匠。
 
で、私たちはこういうことを言いますけど別に何か主張があったりするわけじゃないですから、ただ思ったことを言ってるだけですから、と。
 
そうだよなー。それを変な風に拾われて右だとか左だとか言われるの、いやだよねぇ。
 
そして今の落語協会の会長、久しぶりに人望のある人が会長になったから、謝楽祭も参加して盛り上げようという気持ちになる、と言いながら、「妾馬」へ。
明るくて軽くてギャグ満載でひたすら楽しい「妾馬」だった。
でもどうしても白酒師匠には「もっと」を期待してしまうので、普通の展開だとなんか物足りなく感じてしまうんだよなぁ。
 
白酒師匠「風呂敷」
根拠もなく自信満々に説を述べる人がいる、というまくらから「風呂敷」。
白酒師匠の「風呂敷」は前にも聞いたことがあるけど、相手を強制するための「し」って…どこからそういう発想が出てくるんだろう。おかしいなぁ。

兄貴がでたらめの蘊蓄を語るところが最高におかしい。
やっぱり白酒師匠にはこれぐらいのこうギャグを求めてしまうよね
 
甚語楼師匠「小言幸兵衛」
自分たちは不特定多数の人に会の案内状を送ったりするから、住所も電話も当たり前に公開している。
そのため、時々とんでもない電話がかかってきたりする。
この間は私の落語をよく見てくれているという方から電話があったんだけど…ちゃんと名前も名乗って決して感じの悪い人ではなかったんだけど、「こんなことを言ったら失礼かもしれないですけど…でもあの…師匠の落語はまじめすぎるというか、だからまだ一歩足りてないんだと思います。あきらめないでください!」と。
 
相手に悪気はないことはわかるから「そ、そうですか。ありがとうございます」と電話を切ったけど、でも…おれ…あきらめてないし…悪気がなくほんとにこれは言ってあげなきゃ!と相手が思ってるだけになんか落ち込んじゃって。しかもそれが鈴本のトリの初日の朝。
人はだれしもこれを言ったら失礼だとか相手を傷つけるとか思って、言わないようにしている部分が多いと思うんですけど…その人はどうしても言いたかったんでしょうね…。
 
…ひぃーー。そんなこと電話で言われたらほんとにへこむよなぁ。悪気がないっていっても…おい!
 
そんなまくらから「小言幸兵衛」。
これがまたすごく面白かったのだ。そんなに好きな噺じゃないのに。これも。
 
最初に訪ねてくる豆腐屋さんも威勢がよくて口は悪いけど少し気が弱い感じで。
あれこれ小言を言われて「え?じゃどう言えば?」と若干困ってる感じがなんともいえずおかしい。
それだけに子どもがないことを言われて本気で怒り出すところが楽しい。
 
また二人目の丁寧な仕立て屋さんに、幸兵衛が気をよくしてそこからどんどん妄想が広がって、仕立て屋さんが全く付いていけなくなるところ。
幸兵衛の広がる妄想とそれに対する仕立て屋の反応がいちいちおかしくて大笑い。
 
芝居調子になるところも、全く無理がないのにかっこよくてばかばかしい。
芝居調子にやって「ばかばかしいおはなしで」と終わることが多いけど、最後にからかうつもりでやたらと逆らうやつが訪ねてきて…という終わり方は初めて見たけど、こっちのほうがいいなぁ。
楽しかった~。