りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

蜃気楼龍玉独演会(長講 女殺油地獄)

5/30(火)、国立演芸場で行われた「蜃気楼龍玉独演会(長講 女殺油地獄)」に行ってきた。
 
・龍玉「女殺油地獄(上)」
~仲入り~
・龍玉「女殺油地獄(下)」
 
龍玉師匠「女殺油地獄(上)」
近松門左衛門の「女殺油地獄」を本田久作さんが落語に書き下ろし龍玉師匠が高座にかけるというこの会。
 
向島の花見に女を連れていくという「女」は花魁ではなく芸者。なぜなら花魁は籠の鳥で吉原から出ることができなかったから。
そんなまくらから「女殺油地獄(上)」。
 
子どもを二人連れて向島に花見に来た油屋の女房・お吉。
そこで隣家でやはり同じく油屋をやっている河内屋徳兵衛の次男与兵衛と会う。与兵衛は「芸者狂い」と評判の放蕩者。自分が入れ込んでいた芸者が他の男と花見に来ると聞き、二人を「踏んづけてやろう」と友だち二人を連れてやってきたと言う。
与兵衛に向かって両親がどんなに嘆いているかと説教をするお吉だが、与兵衛は聞く耳を持たない。
 
与兵衛が友人と向島をうろうろしていると、頭巾をかぶった男と二人で歩く芸者・小菊を見つける。あろうことか自分が買ってやった着物を着て他の男といる小菊を見て逆上する与兵衛。
相手の男は金貸しの小兵衛だった。小兵衛を責めると、逆に「貸した金を返さないのは盗人だ」と言い返されてしまった与兵衛は、泥をつかんで小兵衛に投げつけるが、その泥は小兵衛ではなく通りかかった武士の着物に当たってしまう。
この時お供をしていたのが与兵衛の叔父の森右衛門で、森右衛門はこのことが原因で浪人に身を落とさなければいけなくなる。
泥だらけの着物で呆然とする与兵衛を見つけたお吉はお茶屋の中に入って与兵衛の着物を拭いてやる。
娘たちに、父に会ったら二人でお茶屋にいると言ってくれと告げるお吉。
言付けを聞いて二人が怪しい仲になっているのでは?と慌ててお茶屋に乗り込んでみると…。
 
前半は笑いどころもたっぷりでサゲも落語っぽいばかばかしいサゲ
深刻な物語なのにサゲだけ妙にばかばかしいって、すごく落語っぽいと思う。
やりおさめなんて言わずにぜひとも寄席でかけてほしいなぁ。
「陰惨」を覚悟して聞いていたけど、前半は予想に反して笑えるところがたくさんあった。
 
龍玉師匠「女殺油地獄(下)」
与兵衛と違って、まじめで堅い長男の太兵衛は父・徳兵衛に与兵衛を勘当するようにと説得するが、徳兵衛は首を縦に振らない。
徳兵衛はもともとは河内屋の番頭だったのだが、主が亡くなった時に奥様のお沢を嫁にもらって河内屋を引き継いでくれと叔父の森右衛門に頼まれて、番頭から店の主になった身の上。太兵衛と与兵衛はもとは自分の主の子なので遠慮してきつくしかることができず、与兵衛がますます増長するのだった。
 
太兵衛と入れ替わりに入ってきたのが与兵衛で、徳兵衛に嘘をついて50両をだまし取ろうとするがすぐに嘘を見破られ金を渡してもらえない。
そのことにかっとなり徳兵衛を踏みつけているところに、実母であるお沢が入ってくる。
父を踏みつけてる与兵衛を見て勘当を言い渡すお沢。
与兵衛は渡された油徳利を持って家を出て途方にくれ、自分に親切にしてくれるお吉を頼ることにするのだが…。
 
…いやもうやっぱりそうですか、そうきますか、という展開で、さん助師匠がやっている「西海屋騒動」でも圓朝物でもいつも感じることだけれど、悪党には関わっちゃいけないね。なまじ親切心を起こすと必ず殺されちゃったり金を盗まれたり店をめちゃくちゃにされたりするんだもの…。
これだってそうだよなぁー。もうだめなものはだめ。性根の腐った奴に関わっちゃダメ。
まぁそんなこと言ってもしょうがないんだけど…。
 
面白かったのはこの与兵衛という人物。とにかく性根の腐ったクズなんだけど、なんかこう甘ったれっていうか「僕を助けて」と臆面もなく言ってしまうようなところがあって、そこが原作でもそうなのか、あるいはこの物語を落語にする際にそう変えたのか。
でもだからこそ、お吉もかわいそうになって家にあげてしまったのだろうし、両親も冷酷な態度をとることができなかったのだろうな、という納得感。
 
お吉が櫛が折れたことと夫が立ち酒をしたことを怖がるところが、この先の展開を予感させてこわかった…。
そして与兵衛が聞こえてくる鐘の音にどんどん追い詰められていき、迷いながらも殺人の一歩を踏み出すところ。リアルだった。
 
いやしかしやっぱりすごいな、龍玉師匠。
とてもきれいなんだ。所作とかすっと伸びた腕とか。そして芝居くささっていうか演技してる感がない。
淡々としてるけど、ただ筋を追ってるっていうんじゃなくて、ちゃんと人物が浮かび上がってきてる。
 
私もともと落語はばかばかしい滑稽話が好きで、あえて落語で陰惨な噺を聞きたいとは思わない方なんだけど、面白かった。