りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

一龍斎貞寿 真打昇進披露興行 番外編

4/29(土)、お江戸日本橋亭で行われた「貞寿真打昇進披露興行~番外編~」に行ってきた。
まさか講談のお披露目に三回も通うことになるとは。我ながらびっくり。
でも貞寿さんが本当にチャーミングだし、出てくる先生方も本当に豪華だし、なによりもあたたかくて朗らかな雰囲気に満ち溢れていて、ついつい行きたくなっちゃうんだよなぁ。

 

・いちか「渋川伴五郎の頓智」
・南左衛門「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵の婿入り」
・愛山「就活物語」
・貞心「次郎長と伯山」
~仲入り~
・口上(愛山·貞寿·貞心·南左衛門)
・貞寿「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵徳利の別れ」


南左衛門先生「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵の婿入り」
自分が弟子入りした時、師匠は毎日一升酒を飲んでいて、夜飲んだ酒も午前中ですっかりなくなって、午後からまた元気に飲みだすという塩梅。
自分が初めて師匠のもとにおけいこに伺ったとき、午後の1時ぐらいだったんだけど師匠が「お前、稽古の前に酒を飲みたい?それとも稽古が終わってから飲みたい?」と聞いてきた。初めてのことなので「さ、酒?」と驚きながらも「稽古が終わった後にいただけましたら…」と答えると、師匠が明らかに機嫌が悪くなってしまった。これはいかん!と思い「で、では稽古の前に」と言うと「そうかそうか」ととたんにニコニコ顔になり、最初はビール、次は日本酒。あてに出てきたのがインスタントみそ汁。え?汁物?と驚いていると、師匠は味噌汁のわかめを食べてはちびり、お麩を食べてはちびり。自分も真似しながらやっているとそのうち「なんかもう少し食べたいな。じゃ三平のポテトチップスを食べるか」。
三平というのは師匠宅のチワワなんだけど、いったいどうしたらこんなにチワワが大きくなるのかと思っていたら、なんとこの三平、ポテトチップスが大好物。毎日あげてたらこんなになった、と。その三平のポテチがしけないように缶に入っているので、それをつまみに酒。
私の初日の稽古は講談じゃなく酒の稽古でした。

そんな酒飲みの師匠の弟子で自分も酒飲み。
で、貞寿さんが私のところに稽古に来たのが7年前。女流の講談師に稽古をつけたことはなかったので緊張して弟子を全員家に呼び寄せて、弟子がまわりをぐるっと囲んだ中での稽古。
そのあとに親睦もかねて飲みに行くことにしたのだが残った弟子二人が下戸。4人で飲みに行ったのだが、弟子たちはむしゃむしゃ食べてお腹いっぱいになったらぼーーっとしている。
何かいろんな話をしてほしかったから呼んだのに!
一方貞寿さんは酒が好きで話題も豊富で気が付いたら二人で飲んで話をしていて、なんだ、弟子なんか呼ばなくても良かった!

いやぁもう楽しい楽しい。話しはじめた途端に「大好きだーー!」と思った。
表情豊かで明るくて朗らかで優しくて。お稽古に熱心に通ってきて人懐こくてお酒の付き合いもいい貞寿さんをかわいがっているというのが伝わってきて、幸せな気分になる。
トリで貞寿さんが「赤垣源蔵徳利の別れ」をやられるそうなんで、話がつくのはあまりよろしくないですが、源蔵の人となりがわかってよりトリネタが映えることを期待して…と「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵の婿入り」。

赤垣十内の娘のおとくは、背が低くてずんぐりむっくりで「カボチャ娘」と陰口をたたかれていて、お婿さんが来ない。父の十内はそのことに胸を痛め、本人も気にして家に籠っている。
桜の季節になりお花見にでも出かけろと勧められ嫌々ながらでかけたおとく。帰りに酒に酔った浪人者にからかわれ、剣術の心得もあったのでかんざしで応戦すると、頭に血が上った浪人が剣を抜いた。なすすべもなくいるところを、通りかかった若侍が助けてくれた。これが塩山源蔵。
それ以来彼に恋い焦がれやせ細ってきたおとくを心配し事情を知った十内は、出入りの刀屋の与平に間に入ってくれるように頼む。
まとまらなくても10両、まとまれば50両いただけると聞いた与平が脇坂家を訪ね、兄に話をすると…。

もちろん初めて聞いた話だったんだけど、面白い!まるで落語のよう。
そして上方落語が聞きやすいように、上方講談ってすごく聞きやすいんだなぁ。笑いっぱなしで楽しかった~。


愛山先生「就活物語」 
顔も怖いしきっと堅~い講談をされるんだろうなと思っていたら全然そんなことはなくて、まくらも楽しいし、話もなんと新作!
毎日新聞をやめて就職活動の指南をしている中田先生から聞いた話を講談にしたという実話講談。
ちょうど長女が就職活動中ということもあって興味津々で聞いていたのだけれど、いいなぁ…なんかすごくよくわかる。そうだよなぁ、結局は人間を見ているんだよな、企業は。そうであってほしいという想いもあるし、長年勤め人をしている側からすると結局はそこが一番肝心なんだよなとも思う。

まくらでサラリーマン川柳(「サラリーマン やる気はないけどいる気はある」)を紹介されたんだけど、そうそう!わかるわかる!と笑ってしまった。
楽しかった!
きっと苦手と思い込んでいた愛山先生、こんなに面白いとは。もっと見てみたくなった。


貞心先生「次郎長と伯山」
講談師・京伝が次郎長宅を訪れる。着ている着物もぼろぼろで見るからにおちぶれている。博打が好きで身をもちくずしていたのだが、次郎長のことを書いた本が出たことを知っていてもたってもいられずに訪ねたのだという。
それを聞いた次郎長が、今からでも遅くないから、私のことを講談にして私の前でやってくれ、と言う。京伝は「必ず作ってみせます」と約束をする。

それから一生懸命、次郎長のことを講談にしてみるのだが、芸があまり良くないものだからやってみてもお客の反応も良くなくて、出番ももらえず、下足番になりさがってしまう。
そのころ売出し中だった伯山という講談師のもとを訪ねた京伝。自分が書いた次郎長伝をどうか作り直して高座にかけてくれないか、ともちかける。
言われた伯山は快諾し、自分の家の近くに京伝の家を借りてやり何かと面倒をみてやりながら、次郎長の話をあれこれ聞くのだが、ある時女ともめ事を起こした京伝は面目なかったのか書置きを残していなくなってしまう。

それから何年もが過ぎ、次郎長伝を高座でかけるようになった伯山。
熱海で落ちぶれた京伝と再会し、京伝の前で新しい次郎長伝をかける。そして宿の主人に京伝の世話をしてやってくれと金を渡すのだが、しばらくすると京伝は亡くなってしまう。

淡々としたところと、息もつかせぬ迫力のあるところの対比が見事で、じーーーっと集中して聞き入ってしまった。
貞心先生、素敵だなぁ…。特に最後、伯山が次郎長伝を読み始めるところでは、鳥肌がぞわぞわ~。すばらしかった。


真打披露口上(愛山先生:司会、貞寿先生、貞心先生、南左衛門先生)
司会の愛山先生がちょっとブラックで、でも愛嬌があるっていうか愛情があるっていうか…すごく楽しい口上で。
南左衛門先生も自分の弟子のように貞寿さんをかわいがっているのが伝わってきて。
それを聞いて貞心先生がちょっと張り合って見せるのがまたかわいくて。

すごく楽しくて素敵な口上。
三回行ったけど三回ともカラーが違っていて素晴らしかったなぁ。


貞寿先生「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵徳利の別れ」
この三人が口上に並ぶってすごいでしょ!!と貞寿さん。今回の番外編を心の底から楽しんでいるのが伝わってくる。
好かれたかったら好きになるのが一番なんだなぁ、と貞寿さんを見ているとしみじみ思う。こんなに手放しで尊敬して好きでいてくれたら、そして講談が大好きで熱心で稽古ではすっぽんのように食いついてきてくれたら…そりゃこわもての先生でも思わずにっこりしちゃうよなぁ。

貞心先生から二ツ目になった時に教えてもらったという「赤穂義士銘々伝 赤垣源蔵徳利の別れ」 。
今自分ができることを精いっぱいやろうという気合十分で、迫力があって、でもしんみりと悲しくて…とてもよかった。泣いてしまった。


みんながにこにこ顔の口上。

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