吸血鬼
★★★★★
独立蜂起の火種が燻る、十九世紀ポーランド。その田舎村に赴任する新任役人のヘルマン・ゲスラーとその美しき妻・エルザ。赴任したばかりの村で次々に起こる、村人の怪死とその凶兆を祓うべく行われる陰惨な因習。怪異の霧に蠢くものとは―。
最初から何か恐ろしいことが起こりそうな不吉な予感に満ちていて、その正体がなんなのか、ドキドキしながら読み進める。
村の土地の大半を所有する元詩人クフルスキとその妻。可愛らしい妻を連れてこの地に赴任してきたオーストリア帝国の行政官ゲスラーは文学を愛し村の人にも公正であろうとする善人。
貧しすぎる村で変死を遂げる子ども、妊婦、そして美しい女中。
昔パニックを起こした村人たちが村を焼き払ったこともあると聞かされていたゲスラーは、彼らの恐怖心を静めるために、自分が最も軽蔑していた野蛮な風習を復活させることを決意し…。
ゲスラーが宿屋で会話した青年の声。不可視な存在が自分の信念や常識を脅かしていく恐怖はとてもリアルで苦い。
何が正義なのか、何を守ればいいのか、吸血鬼とはいったい何者なのか。
翻訳本のようでもあり、非常に日本的なようでもあり。
2016年のtwitter文学賞がこれっていうのも渋い。