2016年・年間ベスト
2016年に読んだ本が89冊、行った落語が213回。
213回て…。ばかでしょう?
好きになるとキチガイみたいになるという自覚はあったけど、この回数にはわれながら引くわー。
そして89冊は少ない。ついに100冊を切ってしまった…。なにせ落語とポコポコ(ゲーム)に時間をとられて…。反省。今年はもう少し読みたいなぁ。
まずは海外から。全15冊。
こうして挙げてみると、新潮クレスト・ブックスとエクス・リブリスがほとんどで、読書不調の時でもクレストとエクス・リブリスを選んでいれば間違いないということを実感。
1位:異国の出来事(ウィリアム・トレヴァー)
トレヴァーの短編集が良くないはずがないのだが、期待を裏切らない素晴らしい作品だった。
誰にも気づかれることのなかった恋が生まれた瞬間と、それを一生引きずって生きていくことの甘やかさと苦さを描いた「版画家」。この作品が一番好き。
苦い物語が多いけれど、静かに慰められる。
トレヴァーが亡くなってしまったことが本当に悲しい。
2位:「キャロル」
- 作者: パトリシアハイスミス,Patricia Highsmith,柿沼瑛子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/12/08
- メディア: 文庫
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ハイスミス=イヤミスの女王という私のイメージを見事に覆す作品だった。
キャロルという美しい人妻に一目ぼれしたテレーズ。恋が始まった時の高揚感、想いが実った時の無敵感、でもそれは永遠には続かなくて、何もかもを失って裸になった時に初めて見えてくる相手の本当の姿と自分自身。
むき出しの恋愛が丁寧に描かれるが、これはテレーズという一人の女性の成長物語でもある。素晴らしかった。
3位:「つつましい英雄」(マリオバルガス=リョサ)
- 作者: マリオバルガス=リョサ,Mario Vargas Llosa,田村さと子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/12/21
- メディア: 単行本
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二つの物語が交互に語られ、過去の出来事や会話が現在の物語と同時に展開する。
ストーリーはかなり不穏なのだが、片方は揺るがない信念、もう片方はユーモア精神のある主人公なので、ハラハラしながらも楽しく読める。
タイトルにあるとおり、リョサらしくなく?物語がどこかつつましくて(笑)そこがまた面白かった。
4位:「優しい鬼」
苦手なテーマだったので内容を知っていたら恐れをなして読まなかったかもしれない。
かなりヘヴィな内容だったけれど、語りが静かで優しくそこに救われた。
独特な味わいがあった作品。
5位:「誰もいないホテルで」(ペーター・シュタム)
何の前知識もなく読んだのだが、ことのほか良かった。
圧倒的な孤独が際立つような作品が多かったが、今の自分の心情にマッチしていたのかやけに胸に染み入った。
6位:「ジュリエット」(アリス・マンロー)
今まで読んだマンロー作品の中で一番好きだった。短編集。
ほんの一瞬の決断や出会いが人生を変えていく。
出会いがあって想いが実ったとしても人生はそこで終わりではない。人生にハッピーエンドなんてなくて、誰もが最後は一人ぼっちになってしまう。
相変わらず苦い物語が多いけれど、静かな諦めの境地に不思議と励まされる。
アリス・マンロー、年齢を重ねるごとに好きになる予感がする。
7位:「レモンケーキの独特なさびしさ」(エイミー・ベンダー)
食べたもので作ってる人の感情がわかってしまうローズ。
9歳の時に母の作ったレモンケーキを食べて母の心の中の空虚を知ってしまう。
繊細でありすぎることは時に生きることを苦しみに変える。
寂しいけれど優しい物語。いままで読んだエイミーベンダー作品のなかで一番好きだった。
8位:「邪眼: うまくいかない愛をめぐる4つの中篇」(ジョイス・キャロルオーツ)
- 作者: ジョイス・キャロルオーツ,Joyce Carol Oates,栩木玲子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/02/26
- メディア: 単行本
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容赦ない悪意に満ちた短編集。ひぇーーと引くほどの残酷さなのだけれど、げらげら笑いたくなるような爽快感もある。
面白かった!
9位:「軋む心 」(ドナル・ライアン)
21人それぞれが自らの境遇と心情を語る。
失業したり悲運に見舞われて絶望する人たちは攻撃的になったり他人の不幸を喜んだり自暴自棄になったり。
その不穏な空気がリアルでヒリヒリするが、人を見る目がある人もちゃんといてその確かさがこの暗い物語に少しだけ光を与えてくれている。
10位:「黄昏の彼女たち」(サラ・ウォーターズ)
上巻では主人公フランシスの暗い過去や閉じ込められているように暮らしている現在と、彼女の心の動きが丁寧に描かれる。
下巻で事件が起こり、その均衡が破られる。
ミステリーの枠に収まりきらないような人間ドラマで、人間そのものが大きな謎であるということを思い知らされた作品。
11位:「ムシェ 小さな英雄の物語」(キルメン・ウリベ)
ノンフィクションをもとにしたフィクション。
ムシェという魅力的な人物が生き生きと描かれていて、そこには確かに時代や国を越える普遍的なものがあって、それこそが物語の力、文学の力だと思う。
最後まで読んで、大切なものを全て根こそぎ奪っていく戦争への憎しみが残る。
12位:「あの素晴らしき七年」(エトガル・ケレット)
「突然ノックの音が」の作者による自伝的エッセイ。
戦闘の絶えない国で生きていくこと、守らなければならない家族を持つこと、それはもう他人事とは思えなくて読んでいて苦しくなってくる。
しかしどんな状況であってもこの人はユーモアを忘れない。何事も笑い飛ばす。戦争さえも。
国が戦争に向かって行ってしまったら、私たちはもうなすすべもなく受け入れて生き延びることだけを考えるしかないのだろうか。その時私はこの人のように生きられるのだろうか。
13位:「ミニチュアの妻」(マヌエル・ゴンザレス)
奇想短編はかなりの数を読んできていて読み慣れている方だと自負(?)しているけれど、また一味違っていてとても面白かった。
不条理な出来事を感情を排した文章で淡々と描写しているのだが、なにか不思議な懐かしさが漂う。
人間の感情や行動の摩訶不思議。なんじゃそりゃ?という展開でも、それに向かっていく人の感情は身近で理解できるものだから、それが恐ろしくもありおかしくもある。
物語に引きずり込まれメタメタにされ放り出される楽しさを堪能した。
14位:「未成年」(イアン・マキューアン)
宗教上の理由から輸血を拒む少年の裁判という極めて難しい判決を行わなければならなくなった裁判官のフィオーナが主人公。
難しい案件に頭を悩ませるフィオーナに長年連れ添った夫が「夫婦関係はこのまま続けながら若い女性との不倫を認めてほしい」という信じられないような言葉を投げつけられる。
難しい裁判に真っ向から取り組みながらも、一方私生活では夫のことが赦せず感情的な行動に走ってしまうフィオーナ。
人間が人間に与えてしまう影響の大きさ。一歩踏み出してしまったために生まれる悲劇が描かれる。
15位:「夜、僕らは輪になって歩く」(ダニエル・アラルコン)
主人公であるネルソンに何かが起きたことが示唆されているので、いつ何が起きるのかと不安な気持ちで読み進めることになる。
ここではない何処かに行くこと、偉大な何者かになること、若者ならではの選択がこんな悲劇を生むとは…。
語り手が当事者になるともう安全ではない。
読んでいる自分自身もその輪の中に巻き込まれていくようで、ぞくぞくと不安になるような読後感。
次は国内編。こちらも全15冊。
2016年に読んだ本の中で圧倒的に面白かったのがこれ。
谷崎=お耽美というイメージがあったのと、「細雪」は映画にもなっているので、美人姉妹がきれいな着物を着てお上品に暮らしてる話なんでしょ、興味ないわーと思っていた。
ところがこれが読んでみるとものすごく面白かった。
今では没落してしまったのだが格式正しい旧家の4姉妹。
時代は昭和初期。戦争が始まる気配もあるのだが、
三女の雪子の縁談が主なテーマなのだが、お見合いの時にはお互いに身辺を調査したり、
旧時代的なようでいて案外さばさばとドライなところがまた楽しいのだが、なによりも文章が素晴らしくて今読んでもまったく古びていない。
素晴らしかった。圧倒的な一位。
組合に入りたくなくて会社を辞めた達夫が出会ったのが、バラックに住む姉弟。
底辺で虐げられながら生きてきた人間のあきらめや恨みの感情をのぞかせながらも、なににも汚されない純粋さや頑なさを持つ二人と親しくなるうちに、それまで傍観者でしかなかった達夫が変わっていく。
身動きできないような閉塞感に満ちているのだが、少しだけ希望の光も感じさせる作品。
3位:「流」(東山彰良)
満場一致の直木賞というのも納得。
莫言の作品といわれても、へ?そうなんだ!と納得してしまいそう。それぐらい日本人っぽくない中国とか台湾の香りのする作品だった。
戦争を描きながらもからっとしたユーモアがあってそこが好き。
4位:「戦場のコックたち」(深緑野分)
戦場で現実から目をそらすために…あるいは正気を保つために、「日常の謎」を解いて探偵ごっこをするティムとコック仲間のエド。
物語が進むにつれて、戦場の過酷さがどんどん増し、彼らのささやかなユーモアや日常を奪っていく。
日常の謎系の話かなと思いきや、そんな日常が圧倒的な暴力で奪われていく物語だった。
読んでいる間中、戦争は嫌だ、絶対戦争はしちゃいけない。そんな思いでいっぱいになった。
5位:「貝がらと海の音」(庄野潤三)
何年か前に知り、それ以来、自分が精神的に弱ってきたなぁと思うと読むようにしている作家さん。
一家の穏やかな日常が淡々と日記風に綴られる。
こんな風に毎日を穏やかに感謝して過ごせたら本当に素敵だと思う。
淡々とつづられた日常に不思議と心が慰められる。
6位:「鯉のぼりの御利益」(瀧川鯉昇)
鯉昇師匠の自伝エッセイ。
面白かった。まくらでおっしゃってたのは全てほんとのことだったのねという驚きと高座で見る師匠そのままがここに!という安堵と。
波乱万丈の前半も面白かったけど、落語について真面目に語った後半も素敵だった。
7位:「わたしの容れもの」(角田光代)
「自分の容れもの」である身体にまつわるあれこれを書いたエッセイ。
ほぼ同年代の角田さん。腰痛の苦しみ、どんなに頑張っても減らない体重なのに一度増えるとぴくりとも動かなくなる体重、更年期への恐れ、加齢の実感など、どれもこれも思い当たることばかりで、わかるわかる!というのと、そういう面白がり方もできるのか!という発見。
8位:「メタモルフォシス」(羽田圭介)
これでもかとSMのプレイを描きながら、性的な嗜好を越えて、働くこと生きていくことの意味さえも歌い上げる。
笑ったり呆れたり嫌になったりしながら最後まで読むとなんとなく腑に落ちてしまう。
表題作もすごいけど「トウキョーの調教」の方も面白い。
この作家の描く何か方向が間違った努力や我慢や鍛え方、癖になる。
9位:「坂の途中の家」(角田光代)
刑事裁判の補充裁判員になった里沙子が、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうちに、自分の境遇を重ね、精神の均衡を崩していく。
子育ての経験のない角田さんがなぜこんなにも孤立した母親の気持ちをリアルに描けるのだろう。
読んでいる私も里沙子に共感しすぎておかしくなりそうだった。読んでて、うあーーーっ!と頭をかきむしりたくなるような追い詰められ感。
共感しまくりのエッセイとは裏腹に角田さんの小説は辛い物語が多いが、でもやっぱりいい。これからも読んでいきたい作家さんだ。
10位:「職業としての小説家」(村上春樹)
作家がどのように小説を書き上げているのか、どんなきっかけで初めての小説を書いたのかなど興味深いハナシが満載でワクワクしながら読んだ。
ここで語られていることは小説家だけではなくどんな職業にも通じることだし、仕事だけじゃなく生き方とか自分のあり方についてもヒントになると思う。
分かるなぁ…!と腑に落ちるエピソードも多かったし、いいなぁ!となんか励まされる話も多かった。
11位:「独居45」(吉村萬壱)
坂下宙ぅ吉という作家が繰り返す自傷行為と奇行に巻き込まれていくフツウの人たち。
見たくないものをこれでもかと見せられたような感じなのだが嫌悪感は不思議となく、かなりおもしろかった。
12位:「大きな鳥にさらわれないよう」(川上弘美)
滅びゆく世界で生きながらえるために小さな集団を作ってひそやかに暮らす人々。
最近こういう小説が多いなぁと思いつつ、読み終わってみればやっぱり川上弘美なのだよなぁ、という読後感。
最近の作品はちょっと読んでいてしんどいと感じるものが多かったのだが、これは好きだった。
13位:「彼女に関する十二章」(中島京子)
子育てを終えた主婦・聖子が主人公。
ジャスト同世代なんだけど「わかるわかる」という部分と「いやでもそこはちょっと違うわ」という部分があって、それがまたゆるりと楽しかった。
14位:「『罪と罰』を読まない」(岸本佐知子,三浦しをん,吉田篤弘,吉田浩美)
ドストエフスキーの「罪と罰」を読んだことがない4人が集まって読書会。
最初と最後のページだけ読んで物語を推理するというスタート地点から、このページ数でいうとここらあたりで事件が起きそう!という当てずっぽうのページ読みだけで、こういう小説なんじゃないかと4人で推理する。
面白かった! しをんさんの妄想力、岸本さんの絶妙な語呂合わせ、篤弘さんの冷静さ、そして浩美さんの影絵アドバイス。もう読んでいておかしくておかしくて何度も吹き出した。
文学作品を読む時にこういう面白がり方をしてもいいんだな、と励まされた。
15位:「赤へ」(井上荒野)
「死」を巡る短編集なのだがとても面白かった。
井上荒野さんの作品は時に何を伝えたかったの?と思うものもあるのだけれど、これはなんかわかるなーと思うものが多かった。