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りつこの読書と落語メモ

はてなダイアリーからブログに移行しました。

いとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 メルヴィル『書記バートルビー』

4/21(木)、北沢タウンホールで行われたいとうせいこう×奥泉光「文芸漫談シーズン4」 メルヴィル『書記バートルビー』 に行ってきた。

・トークコーナーでは奥泉さんの日常とそれに突っ込むせいこうさんのやり取りがめちゃくちゃ楽しいのだが、今回も例外ではなく。
・最近よく転ぶようになったという奥泉さん。
・階段の横に猫の爪とぎがおいてあるらしいのだがそれにぶつかってころんだのだが、一瞬にして床が自分の顔の下にきて一瞬何が起きたかわからなかった、と。
・それを聞いて「それはやばいです。やばいやつです」と本気で心配するせいこうさん。
・「いやでもこれには原因があって。犬のせいなんです」と奥泉さん。
・なんでも近所にものすごく大きな犬がいてこれがとっても人懐こいんだけどとにかく大きいのでじゃれつかれるとかなり怖い。
・ある日駅へ向かう道で散歩中のそのでか犬とすれちがって(すれ違いたくなかったので引き返したかったんだけど後ろからちょっと知ってるおじさんが来ていたので引き返すこともできなかった)、案の定がばっと来られて、そのまま転んでしまった。
・それ以来転び癖が付いてしまっている、と。
・…やっぱりちょっと心配。気をつけて下さいね…。

・というわけで今回の課題本は「バートルビー」。
メルヴィルといえば「白鯨」で今やアメリカ文学の最高峰と呼ばれているが、本人が生きている間はまったく評価されていなかった。
・「バートルビー」は「白鯨」の2年後に出版された作品。

・「私」の一人称小説。
・一人称小説は語り手である「私」が何かを隠しているというのを読者に匂わせるところ。そこにスリルがある(奥)。
バートルビーも謎の多い人物だが、実は「私」もかなり謎の多い人物。
・「私」には圧倒的な孤独があってそれゆえバートルビーに共感を感じていたのだろう。

・弁護士である「私」は現在のウォール街に事務所を構えている。
・資本主義の中心地。お金を稼ぐことと信仰を持つことを両立している。

・もともといる3人の雇人がそもそも変人。
バートルビーの異様さを際立たせたいのであれば、もともといる雇人を常識的な人にしそうなものだがそうしないところがこの小説のすごさ。
・ターキー(午後になるとおかしくなる)とニッパーズ(野心と消化不良)とジンジャーナット(小僧くん)。
・ドタバタの演劇を連想させる。

バートルビーと出会った瞬間、「圧倒的な孤独」をバートルビーに感じ取る「私」。
・「そうしない方がいいと思います」の原文は、I would refer not to.
「やりたくないです」ではなく「やらない方がよろしいのではないか」。非常に丁寧で、むしろあなたのために…というニュアンスも感じられるので、こういわれると怒りようがない。
・実際、自分が言われたら頭がまっしろになって「そ、そうか」と引っ込んでしまいそう(い)。

・ちょっとした頼みごとをしても「そうしない方がいいと思います」と言い放つバートルビーに「何か深遠な考えがあるんじゃないか」と思う「私」。
・他者としての他者。理解できない存在としてのバートルビー
・自分の方がおかしい?と不安になり3人の雇人に尋ねると「あいつ、頭おかしいんじゃないか」という反応。
・そうだよねぇと思いながらも認めようとする「私」。

・聖なる日に教会に行くついでに事務所に立ち寄る「私」。
バートルビーが事務所に住んでいることが発覚。
バートルビーに言われて時間をつぶすために町をさまよう私。ここの描写が非常に強くて印象的。ここが描きたいためにこの作品を書いたのではないかと思うほど(い)。

バートルビーが「死者」に近づいていく。
・煉瓦の壁をじっと見つめるバートルビーはザムザが病院の壁を凝視していたことを思わせる。
・ここにきて私がバートルビーに対して畏敬の念とともに嫌悪も抱くようになる。人間の多面性が表現される。
・事務所の中で「○○な方がいいとおもいます」という言い回しが流行。(喜劇的な一面)

・いよいよバートルビーが自らの職務(筆写)をしないことにしたと言う。
・なぜだと詰め寄る私に「あなたは理由がわからないのですか」と答えるバートルビー
バートルビーの感情が珍しく爆発するシーン。
・わからないことに直面して私がとった行動は。
・「そうか。目が悪くなっちゃったんだ」。あまりにもわからない行動に対して逃げの結論。
バートルビーは全宇宙で完全にひとりぼっちだ、と感じる私。

・いよいよ解雇勧告をするが「出て行かない方がいいと思います」とバートルビー
・「そうしなければいけないのだ」と私。
・もうさすがにいなくなったかと期待して事務所に行くが、やはりいる。
・出て行かせたい気持ちと守ってあげたい気持ちに揺れ動く私。そう思っている時、事務所の机にバートルビーが貯金箱をしまっていたことを思い出したりして、「ちょっとはお金も持ってるんじゃん」と思ったり(い)。

・結局バートルビーを残して事務所を移転。
・そのまま事務所に残るバートルビー
・結局は「墓場」(刑務所)に入れられてしまう。
・「墓場」にバートルビーの面会に行く「私」に対して、「わたくしは自分がどこにいるか知っています」と言うバートルビー
・ここがこの小説の優れたところ。どこかわからない。刑務所の事をいっているのかあるいは現世がすなわち墓場だといっているのか。抽象性があがってくる。

・最後に語られるエピソード(デッドレターズ)もイメージを喚起はするが謎は謎のまま。

一度読んだことがあったのだが、文芸漫談に行くことに決めてもう一度読んでみたのだが、正直なんだかよくわからなかった。
お二人は「これはこういう意味だ」とか「これはこういことを言いたかった作品だ」というような方向性ではなく、「ここが面白い」「こういう描写が優れている」とあくまでも作家、そして読者の視点から、物語を味わい楽しむ術を教えてくれる。
そこがこの企画の面白いところ。

文学作品を読むとき、「正しく読めているんだろうか」ということが気になって、あほな感想をアップするのをためらうことも少なくないのだが、正しく読むことももちろん大切だけれど、作品を味わう、楽しむことが大切なんだな、と思った。