りつこの読書と落語メモ

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優しい鬼

優しい鬼

優しい鬼

★★★★★

ポール・オースターが絶賛した『インディアナインディアナ』(朝日新聞出版、2006)につづく、柴田元幸が翻訳を熱望するレアード・ハントの長編翻訳第二弾。
南北戦争以前、ケンタッキーの山の中に住む、横暴な男。そこに騙されて連れてこられた一人の女性が二人の奴隷娘たちと暮らし始めると……。
雲の女王になった話、黒い樹の皮の話、濡れたパイだねの話、タマネギの話など、密度の濃い語りですすむ、優しくて残酷で詩的で容赦のない小説。

とても良かった。内容を知っていたら恐れをなして読まなかったかもしれない。

母親のまた従妹である父親ほども年の離れた男のもとに騙されて嫁いでいった主人公ジニー。嫁いだ時ジニーはまだ14歳。嫁ぎ先の家にはクリオミーとジニアという10歳の12歳の娘がいた。
気に入らないことがあればためらいもなく暴力をふるう夫ランカスターとその妻として迎え入れられたジニー、そしてクリオミーとジニアの4人の生活。
老人になり別の場所に暮らしているジニーが語る彼らと過ごした日々はぞっとするほど恐ろしく無力感に満ちている。

人間は被害者にもなれば加害者にもなる。しかし被害者であったことは加害者になってしまったことの免罪符にはならない。
付けられた足枷は外れることはなく、暴力を振るった手は清められることはない。
許されることも許すこともないけれど「憎しみは憎しみを返す」という甥の言葉に泡立つ心が静まる。

過酷な物語なのに語りが静かで優しくそこに救われた。
時代も違えばその後の物語に出てくることもない「序章」が魔法のように物語全体に効いている。
なんともいえず独特な味わいのある小説だった。