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りつこの読書と落語メモ

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細雪

 

細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)

 
細雪 (中) (新潮文庫)

細雪 (中) (新潮文庫)

 
細雪 (下) (新潮文庫)

細雪 (下) (新潮文庫)

 

★★★★★

大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季 折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配し て奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。

そういえば谷﨑潤一郎を読んだのは初めてだったかもしれない。
日本文学科を出ているわりに日本文学をとんと読んでいない。特に日本の「文豪」と言われるような作家はうじうじした私小説を書いているという勝手なイメージがあって避けて通ってきた。
最近になって川端康成を読んで「こんなに変態だったのか!」と驚いたり、泉鏡花を読んで「マジックリアリズム!」と驚いたり…。
谷﨑も耽美派エロティックな場面をこぎれいな言葉で描写と勝手にイメージしていて「一生読むこともないだろうな」と思っていた。
細雪」は映画にもなっていて、美人姉妹がきれいな着物を着てお上品に暮らしている話なんでしょ、興味ないわーと思っていた。
それがどうだ。
ものすごく面白いのだ、これが。

今では没落してしまったのだが格式正しい旧家の4姉妹。
長女の鶴子は養子をもらい一族の長として子どもも4人も受けている。
次女の幸子は快活な美人で、物語は幸子の視線から語られる。
三女の雪子はまだ独身で、彼女のお見合い話が物語の主軸となる。
末の妙子は人形作家として仕事をするモダンな女性。
長女鶴子の夫との折り合いが悪いこともあり、雪子と妙子は幸子の家に入り浸っている。
姉妹はとても固い絆で結ばれていて、小さないざこざはあっても、いつもお互いを想い合い暮らしている。

時代は昭和初期。戦争が始まる気配もあるのだが、姉妹は外の世界のことにはたいして興味も抱かず、何かに守られているように静かに暮らしている。
お見合いの時にはお互いに身辺を調査したり、家柄を意識したりと、この時代特有な「常識」は存在するものの、彼らの感じ方や会話は今読んでもまるで古びていなくてとても楽しい。
会話も関西弁でとても親しみやすく読みやすい。

彼らの会話や感じ方にはそこはかとないユーモアもあってそれにも驚いた。
お見合いの相手の容姿を気にしてやたらと「爺むさい」という言葉が連発された時には思わず吹き出してしまった。

世間体を重んじたり結婚の決め手が家柄だったり女は家を守るのが当たり前と時代を感じないではいられないのだが、それが案外ストンと附に落ちるのは、自由に生きてるつもりでも所詮は今の時代の「常識」の枠をはみ出ない自分を自覚するせいだろうか。
旧時代的なようでいて案外さばさばとドライなところがまた面白い。

人物が生き生きしていてユーモアがあって文章が美しく今読んでもまったく古びていないのがすばらしい。
深刻な事態にも長いことくよくよしたり恨みを溜め込まない幸子の視点から描かれているせいなのか、けろっと軽い後味なのもよかった。

衝撃的な(!)ラストも好み。とてもよかった。読んでよかった。