りつこの読書と落語メモ

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街への鍵

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

★★★★

善意から骨髄移植のドナーになった女性。路上生活者を狙った殺人鬼──交わるはずのない道がいまひらき、悪夢が始まる。?不穏な筆致の女王?である著者が巧みに描き出す、高濃度のサスペンス。

久しぶりのレンデル。 レンデルよりヴァイン名義で書いていた作品に近い雰囲気。
事件が起きて犯人を推理するというよりは、さまざまな階級の登場人物たちがそれぞれの視点で語りそれをじわじわ楽しむ、という作品だ。

美しくて裕福で気弱で主体性に欠ける主人公のメアリ。
彼女はドナー登録をしてオリヴァーと名乗る男の骨髄移植をするのだが、自分に無断で体に傷をつけたと言って恋人のアリステアから暴力を振るわれる。
このアリステアが本当に鼻持ちならない男で読んでいてイライラしてくる。
メアリがアリステアと別れて金持ちの祖母の知り合いの家に留守番として住み込むのだが、この家で飼われている犬を散歩する仕事をしているのがビーン。お屋敷の立ち並ぶ街で金持ちの犬を何匹も連れて散歩をさせる仕事をしているビーンは元執事で路上で暮らすホームレスを憎み、また自分より階級の上の人たちにも憎悪を燃やしている。
メアリの家のそばをうろつくホームレスの一人ローマンは最愛の家族を失いその記憶から逃れるために財産を銀行に預けたままの状態でホームレスになっている。彼は自分に感じのいい挨拶をしてきたメアリのことが気になりいつしか彼女を見守るようになる。

主軸となるホームレスを串刺しにする事件は確かに怖いのだが、そこまで極端ではなくても、それまで優しかった恋人が暴力をふるってそれを正当化するような言葉を繰り返して来たり、普段持っている偏見から勝手に関係のないホームレスの一人を犯人に見間違えたり…と、悪意や暴力が日常をじわじわ蝕んでくるのがなんとも言えず怖い。

最後がちょっと唐突な感じがしたのだが(え?誰?と何回か読み直しちゃった)、それぞれの人物が丁寧に描かれているので読み終わった時の満足感が大きい。
暗い物語だったけれど少しだけ希望を感じさせるラストが良かった。