ギッシング短篇集
- 作者: ギッシング,小池滋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/04/16
- メディア: 文庫
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『ヘンリ・ライクロフトの私記』で知られるギッシング(1857−1903)は,初期は長篇小説が主だったが,当時の出版状況や家庭事情などから次第に短篇が作品の中心となり,多くの優れた短篇をのこした.食費を削ってまで好きな本を買い漁る男を描く「クリストファーソン」など8篇を収録.作者の真価が発揮された短篇集.うち本邦初訳2篇.
読んだあと黙ってうつむいてしまうような物語が多い。
おとなしかったり不運だったり勇気がなかったりお金がなかったりして身動きのできない人たち。彼らのことをとても他人とは思えず、読んでいて苦しくなる。
とはいえ、彼らに向ける作者の視線は意地が悪いだけのものではなく、むしろ優しさや共感が感じられる。
「境遇の犠牲者」
イギリスの田舎を旅していた高名な画家がかわいらしい子どもに出会い、彼らの父が「凄い画家」だと聞かされる。
それなら見せてもらいましょうと家を訪ねるのだが、父親が見せてくれた絵は箸にも棒にもかからないような駄作で、さて何と言って退散するかと困っていると、机の上に置いてあった風景画が目に留まる。これは素晴らしい!絶賛して画家は去って行くのだが、実は風景画の方はこの男の妻が描いた作品だった…。
夫を尊敬し夫の才能を信じている妻はあくまでも夫をたてようとするのだが…。
うーむ。なんという欺瞞。いかんよ、これは、いかん。夫婦どちらにとっても不幸な選択だったとしか言いようがないのだが、思わずそう言ってしまった妻の気持ちも分かるし、妻の提案を受け入れてしまった夫の気持ちもわかる。
しかしその結果一家が崩壊し、残された夫は嘘に乗っかったまま自分の不幸な境遇を嘆いているというのが、なんともかんとも…。
「詩人の旅行かばん」
ある若い詩人が下宿屋の娘だと思って自分のかばんを預けるのだが、彼女はそのかばんを持って逃げてしまう。かばんの中には詩人の自信作が入っていた。
8年後、ロマンティックな小説家として名を成した彼のもとへ、一人の女が訪ねてくる。
かばんを盗んだ女から詩を預かってきたというその女は名前も告げずに去っていく。
詩人のかばんを盗んだことで大事な何かを失ったのは女の方なのか詩人の方なのか。
ロマンティックでもあるし、痛い物語でもある。
「くすり指」
ロマンスには縁遠かった娘が叔父と宿泊したローマで気の合うイギリス人青年に会う。
彼女はこの出会いを「運命」と感じたが、彼の方は恋人からの手紙を待っていて彼女の気持ちにはまるで気づかなかった…。
こういうことってあるよなぁ。
男の方にほんとにそういう気はなかったんだろうか。それにしちゃぁ思わせぶりだよねぇ…。
片方から見れば「決定的(プロポーズされるかも!)」と思えた出来事が、もう片方から見れば「なんでもないこと」だったっていうのは、ほんとに残酷だ。
なぜギッシングを読んでみようと思ったのかと不思議だったのだが最後におさめられている「クリストファーソン」を「書物愛」で読んだからだった。
次は長編を読んでみたい。